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【散文】3 ・地母神たちの面影を宿す女帝

 聖なる三つ組のうちの、第3番目のものを男性性ではなく女性性とみることは、秘められた教えの中で脈々と伝えられてきたものである。人々はこれをカバラやルネサンス期の文脈に置こうとするかもしれない。が、ルーツはそれよりもずっと古いところに遡ることができる。古代バビロニアや古代ペルシャではなかったかと想像する。

 宇宙創生譚は古今東西にさまざまな物語があるだろう。秘教においては父なる一者から、ロゴスとしての子と原初物質としての女性原理がわかたれ、三つ組を作ることによって万物は創生されていく。「父・子・聖霊」という三つ組は誰しもが知っているかもしれないが、聖霊に相当する「第3番目のもの」は原初的な質量であり、活動する知性であり、女性原理であった。 
 やがて正統と言われる教えが、教理の中から女性的なものを極限まで排除していくことになる。3という秘数から女神の痕跡は奪われた。

 タロットの3は「女帝」である。その頭には12の星が散りばめられた冠をいただき、ゆったりとした玉座に腰をかけ、足元には金星のシンボルマークをつけたハート型の盾が置かれている。12個の星が示すのは黄道十二宮であって、この女帝が偉大なる宇宙の母であることを象徴している。金星は愛や美の星であり、豊かに波打つ金髪と黄金色の穂をつける穀物が、多産・豊穣の女神であったことを仄めかしている。
 いくつもの乳房をつけた、異形のアルテミス像を、貴方は見たことがあるだろうか。イシュタル、イナンナ、イシス、キュベレー、アルテミス。女帝の中に、数多くの女神たちの面影を見る。多産で母権が強かった頃の名残だ。

 この母なる3から産み落とされたのが、四大元素だ。火、水、地、風という物質世界のおおもとが地上に立ち顕れてくることになった。一つものは三になり、三は四を生み、七という階層ができていった。そして、この母は実に多産であった。原初なる光と闇が交接して世界卵が産み落とされ、そこから多くの生命の器が地上世界で繁栄していくことになったのだ。
 偉大なる母は生命を育て、地上に繁栄させる。やがて父性が勝利する時代が訪れるが、それは地上との結びつきを退けて高次の領域である天界を志向することに関係している。母権の復活は揺り戻しのように、歴史の中で幾たびか繰り返されてきた。それは時に、良妻賢母的な鋳型からはみ出して、女性性の持つ荒々しい原初の姿をほとばしらせるだろう。

 紀元2世紀の哲学者は、イシスにこう語らせている。

『私は造物主、大地母神、四大元素の愛人、時の最初の子ども、あらゆる霊的なものの支配者、死者の女王、不滅の者の女王、存在する全ての神々と女神の唯一の顕現』

アプレイウス『黄金の驢馬』より

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