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【詩】コードとしての私を生きていた

セーラーカラーの制服を身につけて
自転車で坂道を駆け上っていた時
私は女子高生というコードを生きていた

参考書を広げるふりをして
ノートを小説のプロットで埋めていた時
私は予備校生というコードを生きていたし

退屈な講義を抜け出して
ミニシアターで映画を見ていた時
私は大学生というコードを生きていた

若草色に白いエプロンの制服で
「ご注文」を復唱していた時は
ファミレスの店員というコードを生き

予備校生の書いた小論文に
赤いペンでダメ出ししている時は
添削員というコードを生きた

結婚生活では妻のコードを身につけ
子どもが幼稚園に上がると
〇〇ちゃんママのコードが加わった

子育てが落ち着いてくると
公的機関でパートを始めた
××センター窓口スタッフのコードを得たが
うまく馴染めずに辞めてしまい
途端に自分が何者なのか
わからなくなってしまった

しばらくぶりに人に会い
「最近何しているの?」
と訊ねられ
奇妙な笑みとともに口ごもる

何をしているんだっけ
人に語ることのできるような
特別な何かを私は持たない

今日読んだ本に書いてあった
『大人になるということは
社会の中で自分はどう価値づけされるかを
意識し始めることです』

ひとはいつ大人になるのだろう
なんとなく歳月に押し流されて
大人としての振る舞いを求められ
かろうじて演じてきたけれど
それもまた一つのコードで
一皮剥けば頭の中は
子どもっぽい空想でいっぱい

コードとしての自分を演じていると
社会に対して言い訳が立つような気がして
私は少し安堵したけれど
うっかり肩書きを手放してしまったばかりに
急に振る舞い方がわからなくなった

日々なにごとかを想い
小さな日々の暮らしを彩って
歳月は過ぎてゆく
何者でもなく
明確なコードを持たぬまま








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