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科学コミュニケーション活動は“社会”と対話しているのか

「科学コミュニケーション」という言葉が日本で広まり始めて、もう15年以上が経つ。その間に、サイエンスカフェや研究機関の公開イベント、サイエンスフェスティバルなどの、いわゆる科学コミュニケーション活動は急速にその数を増やした。科学技術振興機構(JST)が運営するポータルサイト「Sience Portal」のイベント情報を見ても、その隆盛を感じられる。

ストックルマイヤー博士らは科学コミュニケーションを

科学というものの文化や知識が、より大きいコミュニティの文化の中に吸収されていく過程

S. ストックルマイヤーほか 編著、佐々木勝浩ほか 訳
『サイエンス・コミュニケーション -科学を伝える人の理論と実践-』丸善プラネット (2003)

と説明している。この観点に立てば、日本における科学コミュニケーションは着実に推進されていると僕は考えている。

では、サイエンスカフェなどの科学コミュニケーション活動が対話している“より大きいコミュニティ”の正体は何なのだろうか。それは“社会”なのだろうか。

科学コミュニケーション活動の参加者に関する分析は、これまでにもいくつか行われている。例えば文献【加納圭ほか「サイエンスカフェ参加者のセグメンテーションとターゲティング:「科学・技術への関与」という観点から(改訂版)」科学技術コミュニケーション Vol.13 p3-p16 (2013)】では、サイエンスカフェ参加者に対して、科学技術への関心についての質問紙調査を行い、回答者を科学技術への高関与層と低関与層に分けている。

調査を行った各イベントにおける結果を図1に掲載した。

図1:サイエンスカフェの参加者の高関与層/低関与層割合(加納ほか (2013) より)

図中の1-1~1-27は調査対象とした個々のサイエンスカフェを表している。また、一番上にある「参照」は調査会社に登録しているインターネットモニターへの調査結果を示している。

「参照」を“社会”と見立てると、約半数が科学技術への低関与層に分類されることが分かる。つまりは、“社会”のおおよそ半分は科学技術に関心がない、と理解できる。

一方で、サイエンスカフェ参加者に対する結果を見ると、低関与層に分類される人の割合は多いものでも2割程度。10件のサイエンスカフェにおいては、低関与層に分類される参加者が0となっている。

この調査結果からは、サイエンスカフェの参加者は、科学技術への高関与層がほとんどであり、その内訳は“社会”とは異なる。そう理解できるだろう。

サイエンスカフェなどの科学コミュニケーション活動を行っている方々は、肌感覚として気付いていたことかもしれない。ただし、実際にこのような調査でも明らかにされていること、そして、その実情は留意すべきだろう。

また、文献【N. Kato-Nitta et al., "Understanding the public, the visitors, and the participants in science communication activities" Public Understanding of Science Vol. 27(7) p857-p875 (2017)】では科学コミュニケーション活動の参加者をさらに“Visitor”と“Participants”に分け、General public < Visitors < Participantsの順で、文化的素養が高く、科学の価値に対する態度が肯定的になる傾向について言及している。

https://doi.org/10.1177/0963662517723258

図2:集団調査における三段階の概念モデル(N. Kato-Nitta et al (2017) を参考に作成)

科学コミュニケーションは「科学と社会の対話」を促進する役割を担っている(とされている)。しかし、いくつかの研究を参考にすれば、多くの科学コミュニケーション活動が対話しているのは社会の中の科学高関与層であることが実情らしい。

ただし、このことをあまり悲観することもないのかな、とも僕は考えている。冒頭にも書いたように、15年前とは格段に状況は変わったし、低関与層の方々も巻き込むような活動もいろいろと存在しているためだ。

とはいえ、この実情を把握しておくことと、それに対する自分の見解や対応策を考えることは、科学コミュニケーションに携わる人には今後も求められ続けることとなるだろう。

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