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短編「霧で見えない」

私『残業を終え、ビルを出ると突然の霧。3メートル先が見えないくらいの霧に立ち尽くしています。霧、なんて地元の、しかも幼少期にしか見たことが無かったわたしは少し驚き、そして浮かれてしまいました。そうして家へ帰る道を見失いました。イエス、アイムロスト。迷子です』

(軽快な音楽)

私『わたしが帰るはずの家は、大学の友人たちと一緒に暮らすシェアハウス。都心から離れた一軒家。男2人と女1人。何かが始まりそうな予感は、、何もない3人組。大学卒業を機に3人で暮らし始め早3年。仲の良かった2人の友人は、今は口も聞かないただの同居人。ふたりより早く就職先が決まったわたしと、なかなか決まらないふたり。何かとすれ違って衝突し、気が付いたらそうなっていました。…このことに胸を痛めているのは、おそらくわたしだけです。』

(不思議な音楽。(時間の経過))

私『しばらく、己の勘を頼りに歩くと目の前に見慣れた玄関のドアが現れました。帰るはずの家のドア、かつて友人だった同居人と暮らす家のドア、です。”良かった”と言う安堵の気持ちと、"2人はもう帰ってるかな…気まずいな”という気持ちが同時に押し寄せました。

霧で迷子になってさ〜、大変だったよ〜。なんて話、本当はしたかったな、、出来ないけど。

(ため息) ため息をひとつついて玄関の鍵を開ける。ガチャリ』

ドアが開く音。

私「ただいま」

(音楽が止まる。間)

同居人1「おかえり〜!」

私「…え?」

同居人1「遅かったな〜。あ、冷蔵庫に酒あるから飲んでいいよ。お金ちゃんと取るけど!」

私「え?え?」

同居人2「お!おかえり〜。なんか疲れた顔してんなあ。バイトもほどほどにしろよ〜」

私「え?あれ?、、バイト??」

同居人2「なあ明日休み?グロ系ホラーのDVD借りてきたんだけどさ、今から観よーぜー」

同居人1「またかよ、前回のやつよりつまんなかったら俺即寝るからな」

同居人2「これは傑作!まじで!まじで怖いから!チビり散らかすぞお前ら!」

同居人1「おい、仮にもこいつ女なんだからチビり散らかすなんて言うなよな〜」

同居人2「うるせー、そんなの気にするやつはヤロー2人と一緒にシェアハウスなんかしねえだろ」

同居人1「(笑って)違い無いわ」

同居人2「よし、観ようぜー!」

笑いあう同居人、声が遠のいて、少し間。


私『わたしは夢を見ているのでしょうか。今、目の前にいる2人の同居人は、かつての。仲の良かった友人たちに戻っていたのでした』

同居人1「ツマミが足りねーな。酒だけは大量にあるけど」

同居人2「今日バイト先から大量に貰って来た鰹節ならあるけど、これでなんとか事足りん?」

同居人1「事足りるか!口ん中モサモサになるだろ!」

同居人2「いやマヨネーズと一味かけたらいけるって〜たぶん」

同居人1「たぶんて!」

同居人2「ソースもかけよ」

同居人1「もうそれお好み焼きの上の部分!」

私「…ははは」

同居人1「ん?どした?」

私「はは…あはは、、(泣いている)」

同居人2「おい、、泣くなよ。そんなに鰹節嫌なのかよ?七味もあるからさ」

私「いや、違うよ。あはは、、」

同居人2「だったら何だよ、どうしたんだよ」

私「なんかさ、ずっとこうだったら良かったのになあって思って」

同居人1.2「え??」「は??」

私「分かんないけど。自分のせいなのかなって色々考えてさ」

同居人1「いやなんの話?」

私「たぶんこれ夢なんだよ。わたしの。あんまりたくさん考えちゃったから、戻ってきて欲しかったあんたちを夢の中で呼んじゃったんだ、きっと」

同居人2「夢?何言ってんの?」

私「わたし、霧で迷子になっちゃったみたいに、色んなことが知らない間に見えなくなってたんだ。仕事ばかりしてないでもっとふたりのこと気に掛ければよかった。…ごめんね」

同居人1「まじで何言ってんの?あやまられても分かんねえよ、なあ?」

同居人2「おう。でもまあ〜、許すよ」

私「…え?」

同居人2「お前も許すよな?」

同居人1「ああ、うん。分かんないけど。俺ら最終的にはなんやかんやでお前のこと許すから、大丈夫。ずっとそうだったろ?」

私「うん、ありがとう」

(軽快な音楽)

同居人2「よーし!じゃあお好み焼きの上の部分食いながらグロホラー映画観るかぁ」

私「はは、分かった。いいよ」

同居人1「じゃあ、ほい、リモコン」

同居人2「再生ボタンどうぞ」

私「はい!」

(音楽が止まり ザーーーー、とホワイトノイズの音) 

間。





私「…え」

私『突然目の前が真っ白になり、2人の姿は消えました。夢から醒めるのかと、瞬きをしてみたけれど、白い景色は変わらず。これは霧だと気付くのに少し時間がかかりました。わたしはまた、深い霧の中に戻っていたのです。』

私「なにこれ、、どういう事?」

私『と、わたしは戸惑いながらも再び歩き出しました。』

(軽快な音楽)

私『うん。とにかく帰ろう、家へ。ふたりが待っている家へ。帰った先のふたりがまた違っていても。昨日までのように口も聞かないふたりでも。私はとにかくあいつらと話がしたい。話して、さっきまで一緒にいたふたりみたいに…いや、前の3人みたいな関係に戻れるように、とにかく話そう。

だって、ふたりは最終的に絶対許してくれるはずだから。

だから、帰ろう。この深い霧を抜けて』

(軽快な音楽大きくなる)


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あとがき▶︎ こちら、毎週木曜24:30から市川うららFMさんで放送している小劇場特化型ラジオ『兼子、原田、山岡のBackStageTalk』内でやるラジオドラマ用に書いた作品です。声で自分たちが演じるように書いているので読みにくかったり分かりづらいところもあると思います。すみません🦭 今回、3人で台本書いて持ち寄るという企画で、テーマは【シェアハウス】。面白かった本が実際にラジオドラマとして収録されるので誰の作品が放送に乗るか、とかも含めて楽しんでいただけたら嬉しいです。山岡よしき                     


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