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Web3.0の現在地と「安心してお金持ちになる」未来に必要なこと 【TEKKON開発者対談】

Fix to Earn(インフラを修繕するという、社会課題を解決しながら稼ぐ)

それが、ぼくが開発にかかわるブロックチェーンを使った、新しいタイプのゲーム『TEKKON』です。2022年9月に、日本、シンガポール、フィリピン、インドネシア、台湾、ブラジルで正式リリースしました。

今日は、Web3.0の現在地とこれからについて。ぼくが『TEKKON』のゲーム開発に携わることになった経緯やねらいなど、エンジニアで『TEKKON』のアプリ開発責任者である、Whole Earth Foundation(ホール・アース・ファウンデーション)の百瀬開智さんと話をしました。

ゲームクリエイターとエンジニアが考えるWeb3のいま

百瀬開智(以下、百瀬):
前回の記事で岡本さんは、Web3を「新大陸」と表現されていました。岡本さんは、Web3の現状をどのようにとらえています?

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百瀬開智(ももせ・かいち)
2018年より、Fractaでインフラの劣化状況を予測するソフトウェア開発に携わる。市民参加型インフラ情報プラットフォームの構築・提供・運用を行うWhole Earth Foundationへ2021年に参画。アプリ開発責任者として、『TEKKON』のゲーム開発とブロックチェーンシステムの構築に携わる。

岡本吉起(以下、岡本):
Web3の概念には、ブロックチェーン技術を使うことで、現在GAFAMが中央集権的に実権を握っている世界を打倒し、個⼈にその実権を戻そうというカウンターの側面があります。とはいっても実権を手放したくないGAFAMに当然抵抗されるし、実現性は相当低い。それでも、ほんの少しながら戻せるかも、というポジティブな未来も感じています。

百瀬:
Web3の仕組みとしては、まず各ユーザーが自分のお財布となる「ウォレット」をつくる。ユーザーはウォレットで認識され、銀行など第三者を介することなく、仮想通貨やNFTを使い、物を買ったり転売したり、ゲームしたり。個人がオーナーシップを持ち、財産的価値をやり取りしながら、いろいろなことができる世界だと思っています。

岡本:
売り買いのための通貨や資産を、ウォレットで個人が管理できる、というのがポイントですよね。

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百瀬:
『TEKKON』というゲームは、ユーザーがマンホールをチェックするという行動に対し、運営の我々が、対価としてトークン(※注)をお⽀払いします。ただ、ユーザーがどれぐらい課⾦してくれるのか、こちらが支払うリワード(報酬)はどれぐらいだとその価値に見合うのか。それらの精査は、これからです。暗号資産の価値は、いまのところ未知数ですからね。

(※注)トークン……既存のブロックチェーン技術を利用して発行された仮想通貨のこと。トークンは企業や団体・個人などが発行するものであり、ほかの仮想通貨との大きな違いは、発行者や管理者が存在していること。

岡本:
暴落したビットコインはじめ、いま暗号資産市場の上下動が激しいのは、単純に流通量が少ないから、というのがぼくの見解です。全体の流通量に対して1⼈の持ち分が占める割合が⼤きいから、売ったら下がるし、買ったら上がる。

『STEPN』大暴落がNFTゲームに落とした影

百瀬:
移動することで稼げるNFTゲームとして話題になった『STEPN(ステップン)』のように、一時は価値が高騰したものの現在は大暴落といったことがありました。あれは、いち早く始めた先行者のうちの一握りだけが儲けて、一気に撤退した印象です。

岡本:
現状のWeb3は、投機的に見たマーケットとしての場所である側面がまだまだあります。金融やITに詳しいらしい人のインタビューや書籍で、「Web3は素晴らしい発⾒だ! 人類を豊かにする」と啓蒙している。きれいな言葉の裏側には、「Web2までのインターネットの世界では勝てなかったけど、次の世界では楽して⾦持ちになってやろう」といった思惑があるように、ぼくには映っています。みんなを幸せにしたいといった、理念や矜持もない。GAFAMに替わる存在を目指す、大きなビジョンがあるわけでもない。

『STEPN』は、NFTでスニーカーを購入し、そのスニーカーを使って歩いたり走ったりすることで報酬としてのトークンがもらえるという、Web3ゲームの現時点での代表コンテンツだとぼくは思っていました。

それが短絡的なかたちでお金儲けをされると、今後「Play to Earn(ゲームで遊びながら稼ぐ)」に参画して盛り上げていくことに警戒し、躊躇する人が増えかねません。自分が得したいだけの人たちが多く集まる地雷かもしれない新しい領域に、わざわざ足を踏み入れようなんて人は、そうそういないですからね。

百瀬:
そういう玉石混交である発展途上であるいまだから、大変革を私は感じていますね。自分たちが目指そうとする、社会インフラを修繕しながら稼ぐ(Fix to Earn)という『TEKKON』の「新しい概念や価値を創造できるチャンスだと思っています。Web3を、今後どう攻略していくのかは課題ですが、ずっと考えているのは、通貨としてのトークンの価値構成を整えることです。

岡本:
そう、ぼくも同意です。トークンの価値を、‟ゆっくり右肩上がりする状態にする″仕組みを考えないといけない。

「価値がゆっくり上がっていく」トークンが実は安心

百瀬:
急に上がったものは、急に下がってしまいますからね。

岡本:
Web3ゲームが長く愛されるために、保有するトークンの正しい上昇率は、年間20%、それ以上でも以下でもダメだと思ってます。S&P500(※注) の過去40年間の動きから、年間8.5%程度の利益があれば回るという統計があります。暗号資産の場合は、10%ぐらいではちょっと物足りない。だからといって、年間20%を超える上昇率がある資産というのも、人の心理を不安にします。

※注…ニューヨーク証券取引所とナスダックに上場している銘柄のうち、代表的な500銘柄で構成されている株価指数。アメリカの経済を表している指数ともいわれる。

百瀬:
投資とは手堅いほうが、ほんとうは安心できるんですよね。

岡本:
なのに暗号資産を推す人たちは、「100倍や1000倍もあるよ」と誘う。これは、ダメです。100倍1000倍があるとは、100分の1、1000分の1になる可能性もあるということ。それに、上手く1000倍にできたとしても、どんな⼿法でその価格を維持できるのか。誰も説明できないじゃないですか。こういう形を続けていては、暗号資産全体の流通量は増えません。

ユーザーにとっても、ほんとうに安心しならが資産を増やしていけるのは、翌年には1.2倍になり、それが永続的に続く暗号資産なんです。そういうトークンを、運用したい。だから、みんなが「もう少しだけほしいよね」という、うっすらとした枯渇状態を設計して、流通量を増やさないといけないと思っています。

百瀬:
『STEPN』は、その反対で、急騰・急落だったのが残念でしたね。

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複数の課題を解決し、さらに汎用性があるのが「いい企画」

岡本:
仕組み自体は、よかったんですよ。「健康のためには最低1万歩歩こう」とよく⾔われますが、歩こうという努⼒を多くの人はするわけですよ。でも、ただ歩くだけっていうのは、なかなか難しい。だから通勤しながら『STEPN』をして歩数を稼ぐとか、健康のためのウォーキングをしながら『STEPN』をするとか、「ながら」でできる企画としては、素直によかった。

ゲームが「ながら」でできて、そこに求める人が多い健康やアンチエイジングといった効果がくっつくなら、友だちにおすすめしたい感情も生まれます。『STEPN』の価値自体が急落しても一定数のユーザーがいるのは、お⾦を取り戻したいから、という理由だけじゃないのでは。

百瀬:
健康を維持するためのツールとして使えるから。そういった意識が働いていると?

岡本:
そうです。『TEKKON』も、社会インフラを整備しながら遊ぶという、世のため⼈のためになっているところがすごくいい。いい企画とは、1つのコンテンツで複数の課題が解決され、さらに汎用性があるもの

『TEKKON』のいまの内容はマンホールがメインですが、このコンセプトなら、電柱とかほかのものに広がる可能性もある。いずれは、日本も世界も主要なインフラを、遊びながら管理できるようになるかもしれない。さらに、『STEPN』の仕組みのように、いろんな機能を乗せてもいける。そういうゲームを、目指したいですね。

個人投資家のつもりが・・・劇的にヤバかった

百瀬:
岡本さんが『TEKKON』プロジェクトに参加してくださって、ゲームとしての精度が圧倒的に上がりました。『TEKKON』の前身だったアプリゲームで、開発中だった『鉄とコンクリートの守り人』(以下、『鉄コン』)を触ったあとの岡本さんに、「このゲームは、誰もプレイしない」。流行らないよとハッキリ言われたのは、衝撃でしたね(笑)。

岡本:
覚えています(笑)。

岡本:
そもそも、ぼくが開発に携わるようになったのは、このサービスの個人投資家としてお声がけをいただいたことが縁でした。『TEKKON』を通してやろうとしていること、ゲームで遊んでもらいながらインフラを直していくというコンセプトや志が、おもしろいと思ったんです。だから、話を聞いた時点で、投資したいと心が動きました。

ところが、実際にゲームを見せてもらったら、劇的にヤバい。最低限ないといけない機能や考えておかないといけないこと、ゲームクリエイターには常識とされるすべてが、まったく考えられていませんでした。危機感に襲われ、開発者としてプロジェクト自体に入らせてもらうことになりました。

百瀬:
当時の開発メンバーは全員ゲーム開発の素人で、何が悪いのか、なかなかピンときませんでした。

岡本:
ゲームで遊んだことはあってもつくったことはない人たちは、ユーザーの心理や感情の設計ができないのは、仕方ないですよ。ぼくが大きな焦りを抱いたのはまず、ゲームにおける課金や報酬の考え方でした。『鉄コン』には、すでに3万⼈のユーザーがいるとの説明を聞いたんです。その増え方を問うと、「イベントを開催して、お客さんに賞金を出しています」と。ゲームクリエイターならば誰でも、ありえないと驚いてのけ反るはずです。

3万人のユーザーは、賞金目的でゲームをしているだけ。賞金イベントが終われば、いなくなります。そうではなく、ゲームがおもしろいから遊んで、おまけとして賞金があったらうれしい。それぐらいの感覚で、プレイしてもらわないといけません。

百瀬:
正直なところ、指摘いただくまで、自分たちはうまくできていると考えていたんです。『TEKKON』のそもそものアイデアの出発点は、「市民の協力で、いろんなインフラの破損などをレポートしてもらう。その協力の感謝として、トークンを配る」でした。そこから私たちはゲームより先に、コインを発⾏していました。最終的にゲームの中にコインを組み込み、ユーザーにリワードを渡すという設計です。だったら、そこにブロックチェーン(Web3)をひもづけていこうという発想の流れでした。

ところが、日本は暗号資産まわりの規制が厳しく、いますぐ実装するのが難しかった。だから、リワードを現金という賞金に置き換えた。そういう経緯があったんです。

岡本:
はい。「ゲーム要素は、あとからでも何とかなる」ぐらいの感覚でしたよね。

百瀬:
「撮影したマンホールの写真をユーザーに投稿してもらい、それをレビューする」「データベースにデータが集まってくる」という機能は画期的で、ゲームとしても十分に成立すると考えていたんですよね。

岡本:
運営の都合に寄ったバイアスが、かかっていましたよね。ぼくはゲームで、人の感情設計をし続けてきました。百瀬さんたちはエンジニア。「仕組みのところは、しっかりできていますから」と、何度も跳ね返されました。業界が違えば価値観も異なりますから、そこを理解し合い、ゲームの本質をわかってもらうまでが大変でした。

外側の仕組みとゲームコンテンツとしてのおもしろさは両輪で、どちらも必要ゲームは、一度世の中に出してしまえば、あとからの挽回はできないんです。

⼈間は満足したときより、不満を感じたときこそ発信してしまう

岡本
ゲームをつくるぼくたちは、最初のお客さんこそ一番大事にしないといけません。多くの人が動くタイミングって、「これいいよ」と誰かに勧められたときです。そこより先に、新しいものに興味を持って自分で判断して動く人は、ごく限られています。そこからのユーザー全体に影響を与えてくれる人だから、ファンとしては絶対に⼤事にしなきゃいけないんです。

また、⼈間は満足したときより不満を感じたときこそ、発信してしまうもの。「これよかったよ」より、「これよくないよ」のほうが、20倍以上の発信力があるといわれています。初期段階で不快なことがあれば、不満を流され続けてしまいます。

百瀬
そのあたりのことを、根気よく対話して下さったのが、大変ありがたかった。岡本さんに2021年末に参画いただくようになり、そこから2022年の3月に、「ゲーム的にもしっかりしたものを出す」部分に焦点を置いた開発を、進められるようになりました。

永続的に機能するための「物語性」

岡本
実際に開発チームに入ってみてわかったありえなさは、インフラチェックのために、マンホール写真をユーザーにアップロードしてもらう部分の設計でした。情報収集のためにこちらが必要とするマンホールデータ数に対して、不要なデータが莫大に送られてくる。それをAIが診断する。そんな初期設計でした。システムとして、あまりにもムダが多い。

たとえば、同じマンホールの写真は、1年に1枚送ってもらえれば十分です。マンホールの寿命は10年から20年程度ですからね。一方で、ユーザーが何万⼈・何⼗万⼈という想定なら人が多く集まる渋谷にあるマンホールは、年中写真が送られてきてしまうでしょう。つまり、送られてくる何百分の1枚程度しか、運営が本当に欲している写真は集まらない。

百瀬:
ゲームに参加するユーザーが、誰もまだ撮影していない「初めてのマンホール写真」を送るとポイントが⾼い。そういう設計でカバーしようとしていました。

岡本:
永続的に機能する仕組みでは、なかったですよね。

百瀬:
ゲーム内で課金が発生するエコサイクルを回そうとする点も、岡本さんはたくさんアイデアを出してくれました。

岡本:
そう、マンホール写真を撮る部分に、物語性が必要だと考えました。『TEKKON』の世界では、ユーザーの誰かが最初に、ある一体の土地をトークンで買います。購入したユーザーは、「地主」です。地主のもつ土地の中にあるマンホール写真を別のユーザーが撮ってアップロードすると、そのマンホールは「金の鉱脈かも?」との位置づけになります。マンホールを撮ったユーザーは、「地主」と「金の鉱脈を見つけた人」として表示されます。

マンホールのある場所に、また別のユーザーが訪れ、鉱脈を掘っていきます。ただ「金の鉱脈」には当たりと外れがあり、金(リワード)が手に入ったり入らなかったりする。また、鉱脈ごとに出る、全体の金の数は決まっています。たとえば、1⽇200個まで掘れる鉱脈では、掘っても金が0個のユーザーもいれば、2個出るユーザーもいる仕組みです。地主や、鉱脈を見つけた人は、金が出れば、何%かは、マージンがもらえます。

⼟地のほかには、暗号資産で課金することでゲームを進めやすくなるアイテムとして、金塊を探すためのルーペや、金鉱を掘るためのつるはし、砂金を⾒つけられるレーダーなど、何種類か用意しています。

百瀬:
岡本さんからいただいたアイデアを取り入れながら、2022年3月にクローズドベータ版を販売し、⽇本とフィリピンで配信しています。

報酬が自動で回る仕組みがカギ

百瀬:
現在100人程度が、プレイしています。フィリピンはマンホールが少ないながら、現地の方々は探し回って撮ってくれています。フィリピンのマンホールは、コンクリート製で四角く、老朽化したものも多い。リリース前は、「関係ない写真がたくさん上がってくるのでは?」いう懸念もありました。実際は、9月に正式リリースをしてから現在までそういったことは起きていませんね。

岡本:
『TEKKON』は、これまでにあるゲームの分類ではくくって語れないジャンルですよね。

百瀬:
既存のゲームには、ないですからね。「Play to Earn(プレイトゥアーン・遊んで稼ぐ)のゲーム」の文脈で語るなら、「Fix to Earnのゲーム」でしょうか。国や行政のインフラを直しながら稼ぐ、という意味。外に出てマンホール写真を撮るから、『ポケモンGO』のような”位置ゲー”の要素もあります。Web3で位置ゲーというジャンルは、明確にはありません。『TEKKON』が、Web3の位置ゲーというポジションにいきたい。

岡本:
かつては、賞金を配ってユーザーを集めていたところから、トークン配りのほうにチェンジできたところは、素晴らしいです。たくさん、意見がぶつかりましたけどね(笑)。

百瀬:
⾃分たちのやりたいところには、着実に近づいています。今後は、ユーザーがゲームを続けてくれることで、トークンの価値が徐々に上がっていく。ゲームを楽しむことで、インフラ側もユーザーも幸せになれるエコサイクルを、しっかり構築していきたいです。


Web3.0 × 社会貢献グローバルアプリ『TEKKON』


編集協力/コルクラボギルド(文・ぐみ、編集・平山ゆりの)



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