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次に世の中でウケるもの、わかります! 「自分を寄せる」ヒット術

Rolex(ロレックス)の腕時計が、いまものすごく高騰しています。185万円の時計を今日買って、腕に巻く。それを明日売りに行くと、定価を超えるどころか3倍近くの550万円になります。中古でもほしい人がいるぐらい、人気があるからです。

こうなることが、ぼくは何年も前からわかっていました。

値上がりしているのは、ロレックスの中でも「サブマリーナー」や「エクスプローラー」など、アウトドアでの使用も想定された「スポーツモデル」だけ。これはくる! そう思ったぼくはスポーツモデルだけを買い続けていました。

60歳を超えたいまも、ぼくは世の中でウケるものが精度高く、わかります。ぼくがほかのクリエイターやマーケターより優れているのは、この「お⾦の匂いを嗅ぎ分ける能⼒」です。むしろ自分の才能は、そこにしかないと言ってもいい。次に何が来るのか、マーケットとして一番広がる場所を予見できます。

今回は、ぼくが長年の経験によって体系化した、市場感覚を身につけ、ヒットをつくり出せる方法を詳しく書いてみます。

売れているゲームの「不満」を見つけて、お金の匂いを嗅ぎ分ける 

『ストリートファイーターII』(以下、ストII)をつくったときも、「お金の匂い」を精緻に嗅ぎ分けていました。

というのは、最初に会社からストIIつくれと言われたとき、ぼくはストIIではなく『ファイナルファイト』をつくったんですよ(笑)。なぜなら当時、対戦格闘型ゲームに、ヒットする匂いがしなかったから。

だから協力格闘型ゲームの『ファイナルファイト』をつくった。で、それがヒットしたもんだから、今度は会社から『ファイナルファイトII』をやれと言われたんですけど、そのときぼくは、ストIIをつくりました(笑)。

外からは、ぼくの行動があまのじゃくに見えたかもしれません。違うんです。こういうお金の匂いの嗅ぎ分けっていうのは、直感やセンスではなく、理論です。
 
結局、会社が儲かるには誰を一番ハッピーにしなきゃいけないかというと、ユーザーです。そして、このnoteでも繰り返し書いていますが、商品に大切なのは、良いところ・おもしろいところがあるよりも、不満がないこと。これが、ぼくの持論なんですね。

だから、対戦格闘型ゲームの場合、勝てばうれしいのはもちろんですが、「負けても自分(ユーザー)が悪い、努力不足だった」と思える空気を醸し出せるかどうかが重要でした。ストIIなんかはまさに、「やっと対戦格闘型ゲームが受け入れられる匂いがきたな」というタイミングでのリリースだったんですよ。

では、どうやったらお金の匂いを嗅ぎ分けられるようになるかというと、とにかくマーケットを知ること。ゲームであれば、実際に売れているタイトルを、とにかく、とことんプレイしてみること。なぜなら、そのゲームこそ「一番不満の少ないゲーム」であり、教科書というべき存在だからです。

そしてとことんプレイしているうちに、次第に「自分ならここを直すな」というポイントが見えてきます。人間はわがままだから、どんなに良いものでも絶対に満足しない。どこか不満を持ってしまいます。実は、その不満点こそが改善点であり、新しい発明へとつながるヒントなんです。

自動車だって、「運転するのめんどくさいなぁ」という不満が、AT車の開発につながった。めんどくさい、に慣れないことが大切なのです。

ゲームも、一般のユーザーはすぐに不満に慣れてプレイを続けます。でも、クリエイターなら慣れるのではなく、悪いところはどこだろうな、と常に探しながらプレイしなければなりません

マーケットに自分を寄せる。インプット「しない」を決め打ち

ぼくは、自分が偏った人間である自覚があります。だから、若いころから「とにかくマーケットに寄せよう」と意識してきました。たとえ自分の好みとまったく違っていても、とにかく世の中でウケているものに投資する。そうすることで、マーケットを知る力は磨かれていくと思います。

たとえば20代のころ、NIKEのスニーカーが大流行したのですが、ぼくはスニーカーにまったく興味はなかったけど、寄せてみるためだけに買いました。1600足ぐらいね。やるなら、とことんやります。

とにかく、買ってみる、触れてみる。初めて良さも悪さもわかるようになります。とにかく買う、とにかく理解するために自分を市場に寄せる。繰り返すうちに、だんだんとわかるようになってくるんですよ。

ワインなんかもそうです。まずは評価されているワインの味と値段を覚えると、それを基準に別のワインの価値が上がるかどうかが判断できるようになります。ロレックスやG-SHOCKもたくさん買ってきたせいで、いまやもうぼくがいいなと買う時計は、必ず値上がりしますから(笑)。

逆に、なぜここまでやる必要があるのか? それは自分自身に「絶対!」と言い聞かせるためです。そうやってとことん感覚を磨き込むことで、匂いを嗅ぎ分ける力も上がっていったのだと思います。 

あらゆることを「ながら」でやれば、1日は28時間になる

いろなことにハマるには、とにかく時間が必要。お金なんかより圧倒的に大事なのは、時間です。でも、1日は24時間しかないし、削れるのは睡眠時間だけ。

だからぼくは、「やらないもの」を決め打ちしています。インプット量がすごいのではなく、インプット「しない」と決めているものが、すごくたくさんあるんですよ。

たとえばでいうと、芸能、音楽、アニメなんかは、捨てています。理由は、自分でアンテナを張らなくても、会社の子たちが張っている分野だから。そういうものには、時間をかけない。惰眠を貪るとか、ごろごろするなんてことも一切せず、常に何かをするようにしています。

ただ、ぼくは後輩や友達のために割く時間がもったいないと思ったことは一度もないですし、そこに遣うお金も惜しみません。一方で、自分がスーパーで買うもやしは値引き品のほうを買うし、美容院には時間がかかるので行きません。そうやって、いろんなことを取捨選択しながら、自分の目的にとって必要かそうでないかを線引きしながら生きてきたわけです。

ほかに時間を捻出するためにやっていることは、「ながら」ですね。読書しながらお風呂とか、歩きながら会議とか、ぼくはあらゆることを「ながら」でやっています。「ながら」のおかげで、1日24時間が28時間ぐらいあります。

輪の中心への自己投資と磨き込み

「これから自分も岡本みたいになりたい!」と、もしも思ってくれる若い人にアドバイスをするとしたら、「とにかく自己投資をしなさい」ですね。なぜなら、「お金の匂いを嗅ぎ分ける力」を磨くには、一番はやいからです。 

そして覚えておいてほしいのが、自己投資とは「自分が好きなことに投資する」のではなく、「マーケット、つまり世間一般の人が好きなことに投資する」ということです。

プロ野球なら巨人、選手ならイチローや大谷翔平を応援する。普通に巨人ファンなだけでもダメ、単に阪神ファンでももちろんダメ。「阪神ファンだけど、巨人を応援してるし、巨人ファンの気持ちがわかる」ってところまで本心から言えるようにならないと、意味がありません。

「マーケットが応援している円の輪の中心に、自分を置こうとすること」こそが、自己投資なんです。人が一番多くいるところに自分を寄せていかないと、マーケットは体感できません

こういうぼくのやり込みをすごいと言ってくれる人もいますが、それは違います。ぼくはやり込み部分しか磨けなかったから、そこをとことん磨き続けてるだけなんです。

ゲームクリエイターとしては、『星のカーヴィ』と『大乱闘スマッシュブラザーズ』のシリーズを生んだ桜井政博には勝てる気がしないし、ゲーム制作のディレクションなんかは自分の部下にも勝てません。そういう勝てないところを伸ばそうとするより、勝てるところを磨いたほうが絶対いいですからね。

フルスイング、技術力、タイミング。ヒットの3条件

最後に、今回のテーマでもあるヒットをつくるための3つの条件についてまとめて、終わります。

 1つめは、フルスイングすること。前回のnote『ストⅡ、バイオ、モンハンで目指した、「おもしろさ」を振り返ってみた』の最後に、バットを振り切ることの重要性を書きました。ゲームづくりは、チームでやりますから、そのフルスイングするための条件は、チームが同じ方を向いていること。個人だけでなく、チームでフルスイングできないといけません。

2つ目は、技術力。新しいものを世に出すとき、一定以上の新しい技術が開発されていないと、真新しいものはつくりにくい。新しいものを具現化するための技術力が必要になるわけで、然るべきタイミングでそれを持った人を呼べる力、と言い換えてもいいかもしれません。

最後の3つ目が、タイミング。これは開発タイミングではなく、マーケット的な意味でのタイミングですね。開発からリリースまでには当然かなりの期間があるわけですが、リリースのほうにドンピシャにタイミングを合わせないと、絶対にヒットしません。タイミングを読み間違えたら、負けます。

ただ難しいのが、開発が遅れたせいでタイミングを逃すこともあれば、逆にその遅れのせいでドンピシャになる場合もあること。最初に予測していたより、マーケットの成熟が追いついてこなかったといったケースも珍しくありません。

もちろんぼく自身、何度も読み間違えてきました。予測違いを重ねながらも、読んで、読んで、読みまくって、「このタイミングだ!」というのを見極める精度をアップすることが大切です。

このあたりはもう「絶対」はないので、嗅覚を磨き込むしかありませんね。

俺より強いやつのところに会いに行かない!

あ、あともう1つ! ぼくの4つ目をつけ加えると、任天堂が来ないところで戦うこと!(笑)。

常識を常識と思わず疑問を持ち続け、定数を変数に変えられるのが天才だとしたら、任天堂にはそういう力のある人たちがそろっています。加えて、ここまで積み上げてきた経験というデータ、そこから体系化されたノウハウ……。さらに、プレイするユーザーへの気配りが尋常じゃないですから。

とにかく、あそこには勝てないですよ。同じ土俵で挑もうとしても、ほかの会社では劣化版しかつくれません。

もともとぼくのモットーは、「俺より強いやつに会いに行く」ではなく、「俺より強いやつのいないところに行く」です(笑)。任天堂がやり投げしてるなら、ぼくは短距離走とかいきますよ。絶対やり投げなんかやっちゃダメ。ヒットをつくれません。

そういう意味で、いまぼくがブロックチェーンゲームに挑戦しているのは、任天堂がいないところだからというのも、実は大きいんですよね。勝てる見込みのない勝負は、ぼくはしませんから。

そんなわけで、今回はここまで。次回は、ぼくがどん底にいたときの話。何もやってもうまくいかないときの、メンタルの保ち方について書こうと思います。



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編集協力/コルクラボギルド(文・ぐみ、編集・平山ゆりの)

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