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【新・資本主義をチートする10】 年功序列が維持できない理由を証明する

 終身雇用や年功序列が維持できず、すでに契約社員や派遣社員を含めて「労働」の形態が大きく変動している昨今ですが、今回は「資本主義を分析し、チートする」という観点から、この終身雇用と年功序列が維持できるのかできないのかについて考えてみたいと思います。


 とても簡単な思考実験ですから、ぜひみなさんも考えてみてください。


 私はふだん、とっても小さな中小企業の取締役という肩書きで経済活動をしていますが、儲かるとか、儲からないとか、会社を維持できるとか維持できないとかは、実はとてもシンプルです。何も難しいことはありません。


中小企業であるA社は卸し業を営んでいるので、シンプルに利益が2割あるとしたら、


 年商1億円で利益は2000万円


ですから、会社経費をゼロと考えた場合年収500万円の社員(社長も入れて) が4人雇えるに過ぎません。


 実際には、会社経費、社員の年金等の負担もありますから、社員一人あたり倍かかるとして、2人しか雇えないので、3人目を採用したら破綻に向かいます。

 とてもシンプルですね。

 こうした観点で見てゆくと、わが社の歴史は40年近くありますが、


「社員が市場に対して多かった年は赤字、社員が市場に対して少なかった年は黒字」


であることがシンプルに判明します。


 ここには、正社員なのか、年齢が高くて給与が高い社員なのか、若い社員なのか、パートの事務員さんがいるのかいないのか、など、一見細かそうな要素がたくさんありそうに見えますが、現実には、「有能な社員」であれ、「無能な社員」であれ、「年齢が高い社員」であれ「年齢が低い社員」であれ、年間500万円を支払うのかどうなのか、リアルに倍として1000万円を社員経費として使えるのか使えないのか、という大枠で考えてゆくと、個々の事情は丸め込まれてしまうので、関係なくなります。

 この社員は能力が2割高いとか、この老人は給料が年功で高いとかそういうのは500万が600万・700万になるだけ(100万~200万しか増えない)なので、大勢には影響をほとんど与えないのです。


 それより5人の社員が7人になれば、そこで2500万が3500万円になるので、1000万も増えてしまう!ということがおきます。


 要するに人数なのです。


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 従って大企業が正規社員を減らして、人数を増やしたり減らしたり自由にできる「非正規雇用」にシフトするのもよくわかりますし、昨今流行の45歳以上の中堅社員を一斉にやめさせようとしているのもよくわかります。


 一般的には、「新卒を1000万円で雇うために中年を減らそうとしている」なんて話がありますが、もちろんそれもできます。人数さえ減れば。


 年収500万の社員を10人辞めさせて、年収1000万の社員を3人雇う


だけで、能力も上がり、かつ2000万円のお釣りも出ます。すごくラッキーです。


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 比較的大きな企業にいると、その理屈がちっとも見えませんが、うちのように小さな企業だと、露骨にそうした事態が目に見えます。


 そして、市場の縮小の大きさは、個人の営業努力の規模よりもかならず大きいので、どんなに頑張っても人数問題には勝てません。つまり、努力や能力は一切関係なく、すべてはシンプルに人数の問題なのです。


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 さて、ここで思考実験です。私達はすでに少子化社会に生きていますので、これからの市場は単純に減少します。

 今年1000あった市場規模は、来年には980になったり、890になったりしているのが、どこの企業でも直面している事態です。

 となると、ここで実験的に、全ての人口が雇われているという完全なる会社、「完全会社」や全ての人口が就労しているという「完全社会」が存在しているとすれば、


今年は1000の市場規模を、すべての社員に1000分だけ配当することができる


ことは誰にでもわかると思います。(経費等はいっさい考えないとして)ところが、それが翌年に980の市場規模になったとすると


全ての社員が前年比98%の給与で我慢できるのであれば、「完全会社」「完全社会」は維持できる


ということになるでしょう。


 これを繰り返してゆけば、市場の上がり下がりに連動して、給与の上下が認められさえすれば「完全会社、完全社会」は維持できると言えます。

 つまり、終身雇用の維持はそれほど難しくありません。


ただ一点、給料が減少する(上下する)ことが許される


のであれば。

 リアルな話をすると、一般的な中小企業では、市場にあわせて「減少」させるという荒療治は行えないので、「給料据え置き」という形でなんとか踏みとどまっているのが実情です。


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 終身雇用は維持できますが、年功序列は維持できません。

 なぜか。これも資本主義ハックの理論で説明ができます。

 20歳の新入社員がすこしずつ給料を上げてもらって、最初20万円から、65歳定年時に65万円にアップしているという分かりやすいモデルを組み立てましょう。年あたり1万円昇給です。


 ここで、また完全モデルの会社を作ってみます。20歳から65歳までの社員が1人ずつ、45人在籍しているという会社です。

 
 この会社では一人新入社員が入ってきても、一人定年でやめていきます。ということは、会社が社員に対して支払う給与の総額は


「毎年おなじで、一切変動しない」


という完全会社であることがわかると思います。かつ、社員内部からみれば、全員が確実に昇給する年功序列の会社です。

 さて、この会社が維持できる世相というのはどのような経済状況でしょうか。まず、65歳から20歳まで45年間ありますから、創業から45年経っていないと完全状態にはなりません。


 創業45年以降は、完全会社として総支払額が変わらず運行できます。


 ところが、創業45年までは、給与の支払額は増え続けます。

 今年創業したとして、「20万円が一人」、来年は「20万円が一人と21万円が一人」、さ来年は、「20万円、21万円、22万円」と


 アホみたいに給与総額は、45年間増え続ける


のです。ようするに、完全会社になるとは「それ以上給与総額が増えない」ということだけです。

 完全会社になれば「負担が増えずに年功序列を維持できる」ことは理論上わかるのですが、実は45年も創業しつづけることが至難の業であることは、まともな経済人であればわかると思います。


 もうひとつ、45年間給与総額が増え続けても、大丈夫な状況となる世相があります。それは、「毎年確実に経済成長している」世界にいるときです。


 
その社会全体の成長角度が、20万円から1万円ずつ増えてゆく成長角度より余裕がある場合にのみ、完全会社は成立してゆきます。


あるいは完全会社が成立してしまえば、経済成長が平衡である社会でもギリギリ成り立ちます。


ただし、その場合は45年経つまでに、多くの会社が脱落するでしょうが。


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 ここまで書けば、どうして大企業と呼ばれる一定の企業群が、終身雇用と年功序列を維持できたかがわかると思います。そこには


「高度経済成長時代からの社会的余力の長期的な集約」


があったからこそ、大企業が存在できたのだとわかるのです。(すべてがそうではないですが、これに当てはまったラッキーな会社はいくつもあったということです)

 旧財閥系なんかが、徐々に体力を落としながらもやってこれたのは、「長期に渡る擬似的な完全会社が成立して、かつ、その上昇カーブよりも社会の上昇カーブのほうが大きかった期間が長い」からこそ持ちこたえたということかもしれません。

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 以上のように、企業をとりまくシステムはとてもシンプルですから、右肩下がりの社会では、すでにこれまでのような年功序列は維持できません。

A 会社にいる人数を物理的に減らすことで、一人当たりの分け前を維持する

(大企業45歳やめさせる説)


B みんなでなだらかに賃金が横ばいもしくは、やや減少ぐらいのあたりでソフトランディングをめざす

(中小企業、ボーナスなんてここ数年ないよ。給料は変わんないし説)



C どこか脱落した会社のおこぼれをひろうことで、自社だけはちょっと増えちょっと下がりを繰り返しながらフラフラしたカーブ描く

(生き残り、という名の死にぞこない説)


かのどれかしかないわけです。


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