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貪り尽くせよ #シロクマ文芸部

 食べる夜というより食べられる夜だ。捕食されている気分だが、実際には食べられているのか食べているのかわからない。
 今頃、白血球や好酸球、マクロファージが大乱闘を繰り広げている私の肉体は脆くて強靭だ。なんなんだ人間て。目に見えないものにこんなに脅かされる存在だと、襲われるまで気付けない。

 それはなんだか普通のいかにもすぐ立ち去りますみたいな顔でやってきた。なんかすみませんちょっとエアコン効きすぎてたんじゃないですかねみたいな風情で、ちょっと喉に違和感ありますかねみたいな感じで、とりあえずすぐ治るんじゃないかなと思わせておいて、突然牙を剥いて襲いかかってきたのだから卑怯。プレデター並みのステルス性だが、全く見ない顔ではなかった。ワクチンで指名手配は出ていた。にもかかわらず記憶細胞が忘れっぽいせいで初動に失敗。

 やられた。

 熱が上がるとウイルスや菌は死んでいく。がしかし体力が奪われて疲弊する。朦朧としながら眠れない合間に唸るしかない。声がうまく出ない。これでは歌手人生がやられてしまう。いや自分、歌手ではないが。

 翌朝起きてみたらだいぶ辛いので行きたくない医者に行く。抗原検査は陰性。インフルエンザだ。そうに違いない。朝から酷暑の日差しがカツンと照りつける。太陽にレンチンされている気分だ。私の血液は沸々熱い。あゆみが遅い。一歩がふらつく。肩が巻かれ、息が上がる。ふう、ふうと妊婦の時よりひどい。野戦病院につく。酷暑の下野外で待つ。ああここは難民キャンプなのかもしれないと思う。身体の辛い人が直射に晒されて診察を待つのはこんなにも不安なんだな。素数を数えて耐える。2、3、5、7・・・7・・・7・・・あああれあれあれ。先に進まない。

 医者が言う、残念ながらヨウセイです。妖精ですに聞こえる。妖精のせいか。ならもう妖精にしか治せない。ペックかパックにしか無理。医者が薬の選択肢をあげる。私に決めろというのか。こんなに認知力と判断力の低下したこの私に。
 とりあえず新薬は要らないと断る。普通の風邪薬でいいですと言ったらでもあなたはかなり高熱で具合も悪そうだからステロイド飲んでみたら。飲んでみた方がいいと畳み掛ける医師。えーでもステロイドってタイミング間違えたらいけないやつじゃないのと頭をよぎる。あーなんかみなさん怖がるんですよこの前もこいつステロイドなんか出しやがってとカキコミされたんだよねでも本当に変な薬じゃないから。短期間だし副作用とかないから。
 そう言われては、はいとしか言えない。医師は昔から意外と私にぶっちゃけ話をする。そして怪しげなのだが結局その判断は合っている。信じるしかないのか。と言いながら薬局でも聞いてみた。先生が判断されたんだからあなたには必要なんですね、飲めば?とここの薬局もいつもの感じ。

 帰宅してどっと疲れた。部屋が暑いのか寒いのかもわからない。眠りたいのだが眠れない。50何年生きてきたが、やっぱり50年も使うと肉体って老朽化するんだな。そんな體は充分リスキーなんだな。体力維持しないとやられてしまうんだな。運動大事だなと1000回くらい考える。
 絶対100年保つ気がしないがとりあえずこの躰を使い続けて星に返すしかないので、とにかく返却時にまあよくお使いになられましたねと言われる躰にはしておきたい気がする。丁寧には扱っていないし容れ物としてすごく気に入っているわけでもないが、でも親から貰った唯一無二に大事な容れ物。やっぱり身体あっての自分。

 貪り尽くせよ私のマクロファージ。
 喰らい尽くせ、この夜のうちに。

#シロクマ文芸部



 今週はまったく病に振り回されてしまいました。現在ほぼ回復しましたが、若干、味が怪しいです。あと、体感が変です。エアコンの冷気がひりひりします。こんなこと今まで感じたことありませんでした。
 実感としては、QOLが著しく低下する病です。罹るもんじゃないとは思っていましたがほんとに罹るもんじゃなかったです。

 そんなわけで「食べる夜」のお題には「免疫細胞の貪食どんしょく」しか頭に浮かびませんでした。病の記録としても、記念にとっておきたいと思います。 

 熱があると変なことを考えがちですが、今回何故だか寝ている間中『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』(H Jungle with t)が頭をぐるぐるしていました。私はダウンタウン世代ではなく浜田さんが特別好きということもなく、当時この曲がお気に入りということもなかったのに、なぜなんでしょう、ウイルスが1995年の気分だったんでしょうか。

 

 収束方向とは言えなくなったわけではありませんね。
 まったく油断大敵です。
 みなさま、どうぞくれぐれもお気をつけてお過ごしください。