【Interview】林正樹 - コロナ禍の活動と、東京の「新しい室内楽」の中心で
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【Interview】林正樹 - コロナ禍の活動と、東京の「新しい室内楽」の中心で

・コロナ禍での活動を模索する、インディペンデントなミュージシャンへ。
・アコースティック楽器の演奏と作曲による、新しいサウンドに興味のある方へ

イントロダクション

ここ10年ほどだろうか。東京の「新しい室内楽」とでも呼べるような、器楽奏者たちによるシーンが静かに広がりつつある。
そう聞いてすぐにピンとくるリスナーが、果たしてどれぐらいの数で存在しているのかはわからない。
けれども東京のインディペンデントなライブシーンの中で、とりわけジャズやインスト系の音楽に日々触れている人々の間で、その名に全く聞き覚えがない、という人は少ないのではないだろうか。
林正樹、1978年東京生まれのピアニスト・作曲家だ。

【林正樹 プロフィール】
ピアニスト、作曲家。自作曲を中心とするソロでの演奏や、生音でのアンサンブルをコンセプトとしたアンサンブル「間を奏でる」、田中信正とのピアノ連弾「のぶまさき」などのプロジェクトの他に、小野リサ金子飛鳥徳澤青弦藤本一馬akikoなど様々な音楽家とアコースティックな演奏活動を中心に行なっている。
渡辺貞夫クインテット」「クアトロシエントス」「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」「Salle Gaveau」などのグループにも在籍。
多種多様な音楽的要素を内包した、独自の諧謔を孕んだ静的なソングライティングと繊細な演奏が高次で融合するスタイルは、国内外で高い評価を獲得している。
三宅純椎名林檎をはじめ多岐に渡るアーティストのスタジオワークにも数多く参加している。
2020年3月、チェリスト徳澤青弦とのアルバム『Drift』をリリース。
http://www.c-a-s-net.co.jp/masaki/


リーダー(または共同リーダー)としてリリースした作品だけで、自身のHPによると17作品。いずれも静謐かつ柔和な色彩を持つコンポーザー作品であり、そして同時にピアニストとして、幾何学的な楽曲を難なく弾きこなす演奏力に定評の高いミュージシャンでもある。


これから初めてその音楽に触れる人に、おすすめの作品を一枚選ぶとしたら、ここでは2015年の『Pendulum』を推す。
ゲスト・ミュージシャンにアントニオ・ロウレイロ(Vib, Vo)、ジョアナ・ケイロス(Clarinet)、藤本一馬(G)、徳澤青弦(Cello)、Fumitake Tamura(Electronics)を迎えつつ、現在もレパートリーの主軸となっている「Bluegray Road」をはじめ端正な楽曲が並ぶ。コンポーザーとしての代表作の一つだろう。
(2013年のピアノソロ作『Teal』も素晴らしいのだが、残念ながらCDは廃盤/配信も見当たらなかった。)

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ここ15年ほどその作品群を追い続けてきて、それらがいずれも質の高いことを保証する者ではあるが、どちらかといえばライブに重きを置くミュージシャンであることも確かだろう。
PAを使わず、ピアノを生音で響かせることにこだわり、日々のライブで新曲を発展させていきながら、驚くほど多彩な共演者たちとセッションを重ねる日常を送っている。
そのサウンドを一つのジャンル名の元に括ることはできないが、行動指針に「現場主義」といったような、キャリアの出発点であるジャズ・ピアニストらしい感覚があるのかもしれない。勝手ながら、アーティスト像をそんな風にイメージしてきたところがあった。
どちらかといえばオールドスクールな活動スタイルを優雅にとっているように見えたピアニストが、このコロナ禍のさなか、これまでのキャリアにない新しい試みをいくつか始めた。その様子を覗うにつれ、今この瞬間に彼が見ている風景、感じていることを誰かが聞いて、記録しておかなければと思った。
そしてそれはきっと、コロナ禍で葛藤しているであろう多くのミュージシャンたちにとっても、何かしらヒントとなるものがあるように思えたのだ。

林正樹 インタビュー

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(7月28日、Zoom開催による公開インタビュー時のキャプチャより)


この国におけるCovid-19の新規感染者が、一日あたり1000人を初めて超えた7月下旬。模索を続けるピアニストにインタビューを行った。
以下は、音楽コミュニティ<sense of quiet MUSIC LAB>のイベントとして行った公開インタビューの書き起こしをお伝えする。

――皆さまこんばんは、sense of quiet MUSIC LABにようこそ。
今回は急遽開催ということになりました。第5回目のゲストとして、ピアニスト・作曲家の林正樹さんにお越しいただきました。日本人アーティストの方に出演していただくのは初めてです。
イベントの最後に参加者の方とのQ&Aも設けますので、希望する方は直接お話していただければと思います。気になることはチャットで随時質問していただいても大丈夫です。拾える限りご紹介します。

もともと音楽面では以前から注目させていただいてますが、コロナ禍のここ数ヶ月で新しい取り組みをされていますよね。それによって新しいファンを獲得しているようにも感じています。
そんな林さんが今、どんなことを感じながら動いているのかを伺うことで、ミュージシャンや色んな人たちのヒントになるんじゃないかと思っています。

林:インタビューとして盛り上がるのか心配ですけども、はい。よろしくお願いします。

――今日は二つのテーマをメインに伺いたいんですけれども。
一つ目は、ざっくりとライブ配信について。7/26に行った配信イベント<SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA vol.1>、そしてYouTube の活用。
二つ目が、一度延期になった西日本ツアーの延期開催を先週されて、そこで感じたことについてです。

コロナによるライブ自粛、YouTubeの活用

――まずそもそもの仕事のバランスとして、コロナ前のライブとスタジオワークの割合などはどんな感じで、それがコロナ以降でどのように変化しましたか?

林:数えてるわけじゃないですけど、自分の感覚的にはライブ、コンサートが6-7割ぐらいですかね。
割と忙しくするのが好きなのか、(夜開催の)ライブの直前にも録音とか何かをやっていたり、一日に二現場行くのは割と慣れてたりとか。同じ一日にレコーディング行って、リハーサルやって、ライブやってとか。ついなんでもやりたくなってしまう性格なのか。

最初にコンサートが自粛になったのは、2月の一番最後の日かな、小野リサさんのコンサートがまず無くなり、その後に徳澤青弦さんとのデュオツアーも5本入ってましたが、青弦さん、主催者の人と相談して自粛という話になりました。3月、4月もほぼ全部なくなってますね。
お客さんの前で演奏したのはついこないだが久々だったかな。

――最初にライブを中断した時、2月3月ぐらいの時は、またすぐに再開できるだろうという楽観的な感じだったんでしょうか。

林:最初は、原因不明の肺炎みたいな話は聞いていて……去年の年末は小野リサさんの中国ツアーもあって、ニュースも知っていたので。
3月に自粛を決めたのは、コロナを早く終わらすためにそうした方がいいんじゃないかという考えだったので。長引くと思ってなくて、その時は2ヶ月くらい中断かな、みたいなに思った記憶はありますね。

――再開の目処が立たないところにこの問題の難しさがありますよね。
そんななか、YouTubeでの配信に取り組みましたよね。

林:CD(徳澤青弦とのデュオアルバム『Drift』)の発売日だったかな、青弦さんから「YouTubeLive、やらない?」っていう話があって。青弦さんがそう言うのならやろうかなと。それで僕たちが録音したスタジオから、初めてYouTubeLiveのライブ配信を体感したんですけども。
まあ正直期待してないというとアレなんですけど、あまり興味なかったんで。それでやってみて、その後映像を見て、すごいかっこいいなと思って。このクオリティーで、生で届けられるんだったら、すごい良いなって。今思うと凄い無知だったんですけど。YouTubeLive っていうものを初めて知り、音に関してはそこそこのマイクを持ち寄りで行って、配信はプロフェッショナルの人に立ち会ってもらって。

最初は、演奏し終わって拍手がないって言うのもすごい違和感ありましたね。今は全然慣れちゃったんですけど。
インターネットの向こうで見てくれてる人がいるって言うのは、チャットとか見ると感じたんですけど。それが大きなきっかけになり、色々自分でチャレンジしていくようにはなったんですけども。

――そのライブ配信は、時期的にいつぐらいだったんでしょうか。

林:3月の4日とか5日ですね。

――じゃあ、結構早い時期に取り組んだわけですね。

林:そうですね。自粛期間に入って最初にそれを体感し、それから本格的に仕事がどんどん無くなっていって、さてどうしようかなみたいなことは3月の頭に考えましたね。
自分は音楽をやる力はあるけど、それが仕事にできないって、一体どうすればいいのかなっていうのは少し考えました。

――その時のYouTubeLive は僕もライブで拝見したんですけど、結構多くの人が視聴しているなと思った記憶があります。

林:具体的な数字は忘れちゃったんですけど、自分が思ってたよりも多くの人がアクセスしてくれたなっていうのは驚きましたね。

――配信ライブのときは、いつもチャットを見ながらの演奏ですか?

林:僕はまだガラケーでして、パソコンで見なきゃいけないっていう。ちょっと見たんですけど、リアルタイムで離れた人と言葉を見ながら演奏するっていう面白さもすごい感じました。

――この時点から、自身で企画された10時間のライブ配信イベント<SAVE THE CLASSICS>まで4ヶ月ほど間があります。最初の徳澤青弦さんとのライブ配信が、イベントに直結したという感じでしょうか。

林:その間にじわじわと、今までやっていなかった配信にチャレンジしていって、イベントは集大成のような感じですね。
そこに至るまでは、まずは(この状況で)自分に何ができるんだろうって考えた時に、YouTube チャンネルを始めたことがありましたね。

ユーチューバーになろうって思ったわけではないんですけども、そうですね……この自粛期間中に、まずは自分の存在を忘れられないようにしようと思いました。
音楽で仕事していけるって言う自信はあるんですけど、でも僕っていう存在は忘れられてしまう可能性があるなと思って(まずは何かしら)やってるよ、みたいな軽い気持ちで発信してみようかなという思いでした。
最初は……自分の音楽の良さを、自分で動画とか作って伝えられる自信がなかったので、プロフェッショナルじゃない部分、自分の中でも遊び的な要素なんですけども、こういうことにもチャレンジしてますと。けれどどこかで音楽家・林正樹っていうのはちゃんと入れつつ。
最初の方にSTAY HOMEシリーズというのを作ってまして、それに合わせて音楽を作曲していって、だいぶ短い動画なんですけど。

林:今見ると結構恥ずかしいですね。笑

――自分の中での林さんのイメージがあったからだと思うんですけど、結構驚いて。

林:これはコメディ要素が強いですね。
以前スフォッフォというバンドをやっていて、「音楽を使って笑ってもらうサイド」というか、そういう部分はもともと持っているので。それは近年あまり出していなかったんですけど。楽しんでもらいたいな、みたいな気持ちが強かったんですね。

――この動画をそこまで深読みしなくてもいいんだろうなとは思ったんですけど、でもとにかく、新しいことをちょっとやってみようっていう動きを感じて。
その頃、まあ今もですけど、生活の中で暗いニュースが多かったですし。コロナで準備してきたライブがキャンセルになり延期になり、そんなことばかりで気も滅入りがちで。
そのときに林さんが何か始めたなと思ってYouTubeを見に行ったら、こういう感じだったからちょっとほっこりしました。

林:最初の一本をあげることで、チャンネル登録数が増えてきて、なんかすごい早く作らないと、みんな待ってる、みたいな気持ちになって。笑 
ユーチューバーの人たちは毎日動画をアップしてるのに、自分は頑張っても3日かかっちゃう、みたいな。頑張ってましたね、そのときは。

動画を作ることを経て、ちょっと変化したこととしては、自宅でピアノを録るようになったことですね。
自宅のピアノの音がベストってわけじゃないですし、外のいいスタジオで撮った方が絶対いい音で取れるし、プレイヤーとしての自分が上手く聞こえると思ってたので、元々自宅での録音はちょっと線を引いてたんですけど。
自粛期間中にいくつかのレコーディングの仕事が来て、三宅純さんからも依頼が来まして。三宅さんも多分YouTubeの演奏動画を見てくれたのかもしれなくて、自宅でやってるみたいですけど録音できますか、みたいな話になって。
三宅純さんは楽器の音、プレーとか、かなり細部までこだわることで業界でも有名な方なので、そんな三宅さんの録音を自宅で録ることができたっていうのは、自慢してもいいのかなと思って。前は躊躇してたのに、今は自宅でもできるっていう感じに変わりましたね。
YouTube で発信していて、三宅さんにも繋がったかもしれないです。

――とにかく何か発信し続けることで、いろんなことに繋がってきたと。

林:もちろんそこで質の低いものを出しても逆効果になっちゃうかなと思うので、その辺は悩ましいところなんですけど。
最初はすこし、面白動画というか、そんなものを作って、その後に演奏動画にシフトしていって。
演奏動画をアップするようになってから、ライブ配信に興味を持つようになってきたんですね。自宅で一曲の演奏動画を録って、それをアップするっていうのをしばらくやってたんですけども。
すごく多くの人に聴いてもらえて、楽しんでもらえてるのを実感できたので、よりリアルタイムでやってみようかなと思い出したのが5月ですね。

自宅にて収録された「cleanse」演奏動画

10時間連続ライブ配信イベント<SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA vol.1>の企画

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――次に<SAVE THE CLASSICS>のお話を聞きたいんですけども。
渋谷のライブ会場「公園通りクラシックス」支援のために林さんがオーガナイザー名義で企画されました。10組のライブと、収録映像でマレー飛鳥さんも参加されました。
これはイベントの発端から、林さんが立ち上げたということになりますか。

林:そうですね。自分の中で一番守るべきライブハウスは公園通りクラシックスで。もちろんお世話になっている会場は色々あるんですけど、色々考えるとクラシックスですね。
やろうと思った背景、一つのきっかけは、例えばギラ・ジルカさんが先導して、クラウドファンディングで3会場ぐらいの支援の中心になって動かれていて。ボディアンドソウル、珈琲美学、ストリングスかな。僕はボディアンドソウルの企画に参加したんですけども。

※南青山Body&Soul支援のため制作された演奏動画「Body & Soul」


その時点から、僕も公園通りクラシックスのことはずっと気になっていて。ギラさんのクラウドファンディングがうまくいってるのを見て、自分も何かやらなきゃなっていうのは絶対的に思っていました。それで公園通りクラシックスのオーナーの方と、5月に数ヶ月ぶりに会って、経営を継続していくのが困難な段階になってるっていうことを具体的にお話ししてくれて。これは僕がやらなきゃと思いました。
そのさらに以前、2002年ぐらいかな……築地に兎小舎っていう空間が昔あって、僕の活動の初期にお世話になっていた場所だったんですけども。100回ぐらいそこでライブを行ったんですけど、そこが遺産相続の関係で閉まるとなった時に、守りたいって思った経験があって。僕と常連さんの何人かの人と、どうすればいいかっていう話し合いみたいなのがあって。
その時僕はまだ20代前半だったのであまりうまくは動けなくて。他に動いてくれた人もいたんですけど、結局やっぱり続かなかった。そういう経験もあったので。
何かやりたい、動かなきゃなと思って企画を立てて、もちろん自分一人では実現できなかったのでいろんな人に協力してもらって。今日参加している三嶋聖子さんとか他にも色々相談して、裏方としてまとめていただいたりとか。
イベントの内容を思いついたのも、自分で機材を集めてYouTube 配信するっていうのを何度か行ってきて、そこで色々なことが経験できたので。
どういう仕組みで YouTube 配信ができるのか、3月の段階では全く分からなかったものが、ある程度仕組みが分かって。簡単だなと思う面もあり、その反面ものすごい難しいものだったり。機材の問題、プロフェッショナルな人の領域だなっていう部分も感じたり。
実は<SAVE THE CLASSICS>の企画をした最初の段階は、配信も何もかも手作りで10時間の無料配信というのを考えていて。すごいトラブル続出なんだけど10時間奮闘してる、みたいなのを最初考えてたんですけど。
企画を詰めていって、僕の周りの人の出てもらいたいミュージシャンにオファーしたら皆が空いていて。マレー飛鳥さんがアメリカに帰国するほかは、トントン拍子に素晴らしい人たちの出演が決まったので、これはもうちゃんと配信やらないと、そう思って。
最初の3月に YouTube 配信を手伝ってくれた方が、その後にイマチケという会社組織になり、その方に協力してもらったっていう流れで繋がりましたね。

――10時間のイベントにすることとか、ブッキングは全て林さんが決めたんですか。

林:そうです。なかなか出来なさそうな設定にいきなりしちゃったんですけど。

――僕も10時間かけて視聴して、あの、今までこんなにぶっ通しで何かを観ることってなかったんですけど。トラブルもとても少なかったですよね。ほぼオンタイムで進んでましたし。

林:フェスティバルとかだと、だいたい誰かしら長く演奏しちゃったりするんですけど。ジャズっていう分野だとそれもある程度仕方がないと思うんですけど、でも皆さん全体の事も気にしてくれて、ちゃんと時間通りに終わってくれて。そこもすごい感動しました。転換とかもね本当にすごく大変だったと思います。

PAを使わず、生音で音楽を作る

林:僕の普段こだわってる部分は、生音で音楽を作るということがあって、普段から(演者の脇に置く)モニタースピーカーをなるべく使わないように心がけてるんです。今回も全てPA、モニタースピーカーを使わずに演奏してくれる人達という前提でブッキングしました。

――いわゆるクラシック室内楽的なスタイルをとりながら、オリジナルの音楽を演奏し、コンポーザーでもあり。ソロでも演奏するけれど、それぞれで色んなグループを組んだりもする。そんな音楽家たちのシーンみたいなものが結果的に見えるイベントになったと感じました。このシーンの存在を伝えたいという意図もありましたか?

林:うーんそうですね……公園通りクラシックスは、いろんなシーンにまたがってる人たちが出演している場所だと思うので、そのカラーを全部表せたわけではなくて。やっぱり僕のカラーがどうしても強くなっちゃったと言うか。最初に思いついた時に、1日2日でブッキングを決めちゃったので。

でもやっぱり、自分がいるシーンを表せたかなっていう感じになりましたね。自分がメンバーとして演奏した複数のグループでも、一つ一つは毛色が違うグループだとは思うんですけども。
さっき室内楽って言ってくれて、(月刊)ラティーナでもよく取り上げてくれてましたけど、日本にはそういうシーンが盛り上がってきてると思ってるので。新しい室内楽フェスみたいな形で。

――東京にそうしたミュージシャンがいっぱいいて、それぞれゆるい繋がりがあり、色々な組み合わせのグループが日々生まれたり……公園通りクラシックスとか、いくつかの場所を通じて育っていく感じがあって。
シーンの近くにいる人達は以前からそれを感じていて、僕を含めて新しい室内楽とかっていう言葉で何となく紹介してきたと思うんですけど。それが雑誌の特集として一つのカタチになったりとか、今回だったら<SAVE THE CLASSICS>っていうイベントとしてパッケージされると、それが既成事実になるというか。その中心に林さんがいるというのも含めて。それがかなり沢山の人に目撃されたような感じがします。

林:正確な数字がちょっとわからないですけど、昨日までで570名ぐらいって言ってたかな。1000円なんですけど、アーカイブでまだ見れますので、是非この中で見てない方いらっしゃいましたら。

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――イベントが終わってからの反響とか、やってみた感想としてはいかがですか?

林:自分が演奏したバンドに関しては、楽って言うとちょっと違うんですけども、自然に演奏できたというか。練習したことをうまく披露できるか、みたいなのではなくて、その場にいれば演奏できちゃう。かっこいい言い方だけど嘘じゃなくて、そんな感覚で僕はとっても楽しかったですね。

――次回の開催はまだ未定とMCでも言ってましたけど、やれるとしたら次回もっと追求したいところ、今回やってみて気づいた可能性とかはありましたか。

林:まだ終わったばかりで、まとめきれてはいないんですけど……
そうですね、やってみてすごく嬉しかったのは、ミュージシャン同士の新しい繋がりができて。その日初めて会った人たちもいるし、CD とか YouTube では知ってたけど、生で聞いたのは初めてっていう人たちも多くて。会場にいるミュージシャンたちがみんな楽しそうで、こういうのに飢えてたんだなって。生でお互いの演奏を聞くっていうのは、相当刺激が大きいんだと思います。もちろんお客さんも、僕もそうだったんですけど、生音で、同じ場所で音楽を聞く力って相当大きいものだなっていうのは再確認したところではありまして。もちろん配信でいい部分は今回伝わったなとは思ってますが。

配信ライブの形態と、東京のライブシーンのこれから

林:またちょっと話が逸れてしまうんですが、生配信の、配信ライブにも色んな形態があるっていうのもここ最近感じてまして。
手作りの配信、無料配信もあれば、プロフェッショナルの人に協力してもらう有料配信もあったり。
ちょうど昨日参加した例では、池袋にあるSTUDIO DEDEが最近取り組んでいる、レコーディングスタジオで、ハイクオリティーな音、とことんハイクオリティな映像のプロジェクトで。映画を生配信してるみたいな感覚で取り組んでるプロジェクトに参加したんですけど。視聴料金3000円なんですけど、年内アーカイブが見れるということで。
ライブハウスに3000円払うのに比べて、有料配信で3000円はまだ高い感覚はあるんですが、昨日関わったものは3000円払ってもいいんじゃないかなと。そういう配信ライブもあるし、金額だけでは決められないんですけど。色々経験させてもらってますね。

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須川崇志(b)、林正樹(pf)、石若駿(ds)のトリオによるBanksia Trio。
2020年12月31日まで有料配信。
https://dede.ima-ticket.com/event/87


林:同業者だったり関係者と、東京のライブハウスシーンはどうなってくんだろうね、みたいな話もするんですけど。どうなっていくんでしょうね。

――コロナの状況が劇的に改善されない現実がある限り、多くのライブ会場で、ライブ配信の環境がデフォルトになっていくのは間違いなく進んでいくでしょうね。
そうすると、多くのライブが同時配信もされる、もしくは後日ストリーミングで配信されると思いますね。

林さんのように<自分の音色>を持っていて、コンポーザーで、演奏家としてのレベルも高くてというミュージシャンは、ライブにすごくこだわってきて、どちらかというとライブ配信に関しては後回しになりがちな人が多い印象もあります。
ただ蓋を開けてみると、実は静謐な音楽だったり、親密な表現っていうもののほうが、すごく可能性があるんじゃないかと個人的には感じてます。
配信のクオリティ、照明とか映像とかにも大きく左右されるとは思いますが。
これは例としていつも上げていて、ファンの方には申し訳ないんですけども……ノラ・ジョーンズが Facebook Liveでライブ配信をやっていて、好きでよく見ているんです。
本当にあの、ライブに行かれた方には申し訳ないんですけども、正直いって来日ツアーで(大規模会場の)日本武道館で見るよりも、より身近に感じられるFacebook Liveの方がいいと思ってしまいまして。ライブ配信でこそ、こういう親密な表現ができるんだな、っていうのがありましたね。
ライブ配信をクオリティ高く実現するには、機材や環境を整えて、スタッフも必要で、ハードルは確実にあるとは思うんですけど。

林:大きい会場で聞くよりも家でラフに録った方が感動するっていうところに何か鍵がありますよね。

地方ツアーのいち早い再開

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徳澤青弦、林正樹『Drift』アーティスト写真


――先週、徳澤青弦さんとのアルバム『Drift』リリースツアーが、西日本の数カ所で開催されました。
もともとコロナ前から予定されていたツアーが延期になって、いち早く再開催という形でした。

林:3月の公演を、6月と7月に振り分けて。本当は6月にも行く予定だったんですけど。最初に予定してなかったところも入れたんですけども。
6月はタイミング的に出来なかったですが……今回7月も青弦さんとの話で、どうする、またまた延期にするかと直前まで話をしてました。
もちろん自分達だけで全部ツアーが成り立ってるわけじゃなくて、各地で主催してくれてる人や協力してもらってる人の気持ちが優先という感じだったんですけども。
ちょっとタイミングが良かったのか悪かったのかわからない感じで、東京の感染者数が増えている状況だったので。さらにもう五日間ぐらい遅かったら行けなかったのかもしれないのかなって。
何が正解かわからないんですけども、でも結果的に行くことができて、もちろん自分たちができる限り、お客さんに安心してもらえることは努力して。
来てもらった人たちに心配しながら音楽聞いてもらっても、僕たちも嬉しくないので。安心できる材料を提供できるように主催や会場の人と相談して。いいツアーになったと思っております。

――ツアー前に検査をしてから行ったと聞きました。

林さん: PCR じゃなくて抗体検査を。抗体検査の結果をどう考えるかっていうのはもちろん人によって違うと思うんで、そこについては置いといて。一つの安心材料にもなるかなと思って受けて、青弦さんも受けに行って、という感じでしたね。

――今ミュージシャンの人たち、会場、プロモーターの人もスタッフも、みんな板挟みになって迷っているところですよね。

林:コロナに対してどうしたらいいか、人それぞれの意見があると思うんで、それをここで熱弁してもアレなんですけど。ただもう少し色々な職種の人が安心して活動できるように、検査体制が柔軟になって欲しいってのは思ってるんですけどね。
PCR 検査にお金を払って、4万円とかじゃなくて1万円ぐらいで受けられるんだったら、大きい仕事の前とかに受けたいって思うんですが。こういう業種の人って、自分がかかるかどうかというより、周りに広めたくないっていう思いの方が強いので。

――ちなみに今日は、米子公演を主催されたCALMSの斎藤陽子さんも参加していらっしゃいますが、受け入れる側としてはいかがでしたか。

斎藤:最初はすごく迷いがあって、特に鳥取は感染者が少ないので……万が一自分の大事な人に何かあったらどうしようとか、色々思うこともあったんですけど。林さんが何度もお電話くださって、自分の中で迷ってたのがふっきれたと言うか、腹が座ったところがあって。決まってたことはもうやりたいなと、コロナがすぐ終わるかどうか、いつ終わるかわからない、このまま何年も続くかもしれないのにずっと中止中止っていうのは希望も何もないなと思って。結果はまだ2週間経つまでちょっと心配でもあるんですけど、でも本当に来てくださった方はすごく喜んでくださったと感じましたし、今までにないような特別な時間だったなというのはすごく思いました。

――会場での対策としては、客席を間引いたりという感じだったんでしょうか。

斎藤:今回教会でさせて頂いたので、8人がけの椅子に2人で、間を開けて。入っていただく時も間隔をあけて、換気をしっかりして。お客様も、こちらが案内するからというよりも結構自主的に気をつけて下さっていて。こういうライブに来てくださる方だからっていうのもあるかもしれないですけど、本当に協力的だったと言うか、一緒にやりましょうみたいな雰囲気を私は感じたんですけども。

――お客さまの協力や理解がなければ、現場がなくなっちゃいますからね。その日集まったリスナーの方も、いろんなことを考えて足を運ばれたと思うんですけど。そうすると少し参加意識が高まったりというところもあるのかもしれないですね。

斎藤:お客様の方も、職種によっては来られない方もいらっしゃったりとか、ご家族の状況によって来れない方もいらして。ただ来れないっていう連絡のメールがすごく優しかったりすることが多くて。
林さんに最初お電話いただいて勇気をもらって、お客様にも勇気をもらってっていうような。開催できてよかったです。

林:本当にこういう方に支えられて、僕の活動は成り立っていますね。ありがとうございます。

周辺ミュージシャンについて-石若駿、伊藤志宏、三枝伸太郎

――参加者の方から質問も頂いているので紹介しますね。
石若駿さんとの共演について、そしてその音楽にどんな印象を持たれていますか?

林:最初はCMのレコーディング現場の仕事で一緒になったと思います。やっと会えたなと思って。小野リサさんの仕事で駿くんに(ドラムを)叩いてもらったこともありました。最近はライブで共演する機会が多いですね。新世代ドラマーで、まあみんながみんな素晴らしいと言っていますけど、音聞いただけで只者じゃないと分かりますけどね。
打楽器奏者で、耳もいいし作曲もできる人なんで、考えていることが楽器だけじゃなくて、音楽全体のことを当たり前のように感じていて。自分の楽器のことだけではなくトータルでサウンドを見れる人と演奏するのは、すごい心地いいですね。ピアノがあって、ベースがあってのドラムという風にアプローチしてくれるんで。少しこっちが気が緩むとすごいことが進行していってしまうんで。若い人についていくのって大変だなぁって思わされちゃいます。音楽のスピード感、次に見てるところが、自分が思っているより先のところを常に見てるので、全く気を緩められないですね。最高ですね、駿君。

――次の質問、といいますか。<SAVE THE CLASSICS>での、ピアニスト伊藤志宏さんとの共演についてはどうでしたか。

林:ようやく一緒に音を出せたなと。昔から、プロになる前から知ってる人なので。志宏さんはどう思ってるかわからないですけど、純粋にリスペクトしてるので。こういう関係性になれて良かったなと。人間性、キャラクターは良い意味でだいぶ違うんですけど。これからも色々何かしら絡んでいくと思います。

――同じく作曲、ピアニスト、アレンジャーの三枝伸太郎さんの出演もありました。

林:僕は10代のころから、どちらかというとジャズの叩き上げというか。それが三枝くんのように音大出身でちゃんと音楽を勉強してきた人と最近一緒に演奏するようになってきて、そういう人の方が相性が良くなってきたって言うのがすごい面白いですね。三枝くんのアレンジをたまに弾いたりする機会もあって、やっぱり素晴らしいんですよね。アレンジャーとして導いてくれる才能。大巨匠ですね。

音楽家として心がけていること。弱いものに合わせる

――このLABのメンバーのみなさんにはミュージシャンの方も多くて、林さんのファンという人も多いと思います。コロナのこともあり、迷いながら活動しているミュージシャンも多いと思いますが、何かアドバイスとか、自分が心がけてきたようなこととか、何か伝えられることがありますか。

林:締めの言葉とはちょっと違うんですけど……
自分が心がけているもの、日頃から演奏するときに心がけているのは、弱いものに合わせるということです。音量だったり、楽器のスピード感とかを、その人の気持ちで演奏するっていうのが僕の中の課題なので。
例えば、<間を奏でる>というバンドも、それがコンセプトで生まれたようなバンドなので。もしご覧になってない方がいたら見て欲しいです。

林正樹がリーダーのグループ<間を奏でる>ライブ映像


林:<SAVE THE CLASSICS>のイベントでも、クアトロ・シエントスというバンドのリーダーの会田(桃子)さんが、生声で歌う曲があって。会田さんはライブでたまに歌うんですけど、今回のイベントに関しては、ボーカルでもPAを使いたくないっていう僕のこだわりがあったので。ささやくような声であのAメロを歌う、そこを自分は限りなくピアニッシモで弾くのがすごい好きで。録音をあとで聞いたらすごい気持ちいい音で録れてました。
僕がそういうこだわりで音楽を作っているというのは、同業者の人とかにはすごく言いたくて。モニターを使わないことだとか、音量の弱い人に照準を合わせることによって、そこからダイナミクスが共有できる。一緒にピアニッシモだったものがメゾフォルテぐらいにふわってなるだけでもすごいアンサンブルの一体感が生まれるので。ダイナミクスの共有というのがかなり重要だと思ってるけど、そこが共有できる人とそうじゃない人が結構いるって言うのが現状なんじゃないかなと思ってます。……この話するとつい熱くなっちゃって、大丈夫ですかね。笑

今後の予定について

――いえいえ。あの、そこから話を繋げるようで申し訳ないんですけども。
林さんには8月25日のLABイベントで、藤本一馬くんと<デュオ演奏のワークショップ>というテーマで出演していただくので。ダイナミクスについては、そこでもトピックの一つになるんじゃないかと思います。

藤本一馬 林正樹scs_jpg

藤本一馬 × 林正樹 デュオ演奏のワークショップ
8/25(火)20:00 @sense of quiet MUSIC LAB
https://www.facebook.com/events/2418478218460518/
 
東京の新しい室内楽・器楽系サウンドを象徴する二人の音楽家は、
デュオによるアンサンブルをどのようにして発展させているか。
デモンストレーションとトーク・Q&Aを通して、そのプロセスを明かし、共有するワークショップ。 


――最後に、今後の予定を伺ってもいいですか。

林:8月1日に神楽坂のTheGLEEというところで、三味線の小山(豊)くんという人とやる予定です(http://theglee.jp/live/32980/)。本当はお客さんも入れて配信も同時にやる予定だったんですけど、今の状況で無観客になってしまいました。
今のところ配信なしでライブとしては、8月28日にJz Bratで、藤本一馬くん、北村聡くんと僕のトリオっていうのがあったりですとか(http://www.jzbrat.com/liveinfo/2020/08/#20200828)。

8月はわりと緩やかに活動してますね。
ライブ情報は最近宣伝しづらくなってしまい、あまり前もって言いづらくなっているモードではあるんですけど。でも言わないのもダメだし、ちょっと複雑な心境ではあります。
あとは作曲として関わった映画、西川美和監督の「素晴らしき世界」という映画が来年の3月か4月に公開されます。ちょうどコロナのタイミングの制作で、作曲にすごくゆっくり向き合えたので。内容的にも満足行くものになり、好きなミュージシャンにも沢山参加してもらえたので。まだ先ですけど、見てもらいたいですね。

――サントラも出るんですか。

林:出る予定ですけど、CD になるかどうか。
難しいところで、レコード会社は最近フィジカルリリースをすごく渋る傾向になってきちゃったので。音源は既に出来上がってるから、フィジカルも作って欲しいんですけどね。
それについては色んな考えがありますし、僕も揺らいでる部分はあって、CD っていうものにいつまでこだわるのかっていうのもありますから、一応柔軟に対応していきたいとは思うんですけど。やっぱり何らかのモノ、アナログ盤でも……自分の作品をリリースする時の発売形態っていうのは悩ましいところですよね。

配信ライブとかいっぱいやっている中で、配信の音源があったところで、なんかちょっと埋もれるというか。こんなにいっぱい配信してるのに、この配信は他と違うんですよ、特別なんですよって言っても……その辺も課題だなあと思ってます。

――予定の時間を延長してしまいましたが、今日は色々といいお話が聞けました。今後の活躍も期待しています。
林さん、参加の皆さんもありがとうございました。

林:僕も話しながら、色々と再確認できる貴重な機会でした。ありがとうございます。

(了)
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編集後記/この記事について


長文記事に最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。

記事の中でも紹介しましたが、公園通りクラシックスを支援するライブイベント<SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA vol.1>のストリーミング視聴が下記URLで可能となっています。8/2まで視聴できるとのこと。
視聴チケットは1000円で、チケット代の半額がお店への支援金になるそうです。
また今回ボランティアとして出演しているミュージシャン向けに、投げ銭チケットの購入サポートも可能となっています。

視聴チケット購入先
https://t.co/kMZA29MV3v

投げ銭チケット購入先
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/012r06112swvk.html

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そして最後に。
この記事は、林正樹さんのファンはもちろん、
ミュージシャンや音楽業界の方にも活動のヒントになればと思い企画しました。
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レーベルNRT代表、ときどき文章。国際ピアノ音楽祭<THE PIANO ERA>、コミュニティ<sense of quiet MUSIC LAB>主催 https://community.camp-fire.jp/projects/view/268145 JFAサッカー4級審判員