自著論文等紹介「古代難波・住吉地域における生業と貢納」
吉原啓「古代難波・住吉地域における生業と貢納」(『万葉古代学研究年報』第16号、2018年)
この論文は、7世紀末〜10世紀初頭の難波・住吉地域における漁撈を中心とした生業の実態について、『延喜式』や考古資料、そして『万葉集』などから検討を加えたものです。
その上で、難波という古代における一大交易拠点を控えた地域における漁撈が、社会的分業や律令国家の貢納体制の中でどのように位置付けられていたのか、そしてどのように変化していったのかを考察しました。
この研究は、歴史資料・考古資料、そして文学作品から古代の生業実態を検討しようという、かなり実験的な試みでした。
古代の生業を検討するとき、歴史資料はそもそも絶対数が限られており、ある地域の生業実態を復元できるほどの情報量がありません。そのため、古代の生業研究の多くは、考古学が担ってきました。
しかし、土中では残りにくい生業具があり、また、考古資料からは把握しにくい生業もあるため、より豊かな生業実態の復元には、複数分野にまたがる史資料を使用することが必要でした。
そこで、難波・住吉という、歴史資料・考古資料だけでなく、『万葉集』のような文学作品からも生業のあり方を複合的に検討できる地域を取り上げ、生業研究に取り組んでみました。
文学作品から生業実態を検討するには、例えば歌に詠まれている生業が実景か否かなど、踏まえておかなければならないことがあり、困難を伴います。
しかし、歴史資料や考古資料の情報を補完できることもあり、また、文学作品だからこそ知り得る生業に対する古代人たちの認識をうかがうことができました。
文学作品を史料のように扱うことの難しさは相当なものですが、有益な方法であることが確認できたと思っています。