マネるな危険!?NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX 要約 | 自由と責任のカルチャーから学ぶべき3つのポイント
「ITエンジニアは転職した方が収入が増えるバグ」、巷でこんなニュースが話題になりました。社内での昇給よりも転職による昇給の方が期待できると言えるでしょう。そんな中、「業界最高水準の給与」の人事戦略で異彩を解き放つ一つの企業、Netflix。
こんにちは、元エンジニアのマーケター田平です(@yoshi_tahi)。
今回は『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』の要約と学ぶべき3つのポイントを解説します。「業界最高水準の給与」で有名なNetflixですが、その裏には優れたイノベーションを生み出すための「自由と責任」のカルチャーがあります。「自由と責任」のカルチャーとは何か、それをどのように実現させているのか、そして真似することは出来るのか、一緒に見ていきましょう。
1. Netflixの「自由と責任」のカルチャー
「自由と責任」のカルチャーとは?
Netflixではいつでも好きなだけ休暇が取れたり、とにかく自由です。それだけでなく、経費申請などの社内規程や意思決定の承認プロセスといった、多くの企業に存在するルールもありません。この自由さには、各社員に責任意識を持たせることで優れたイノベーションを生み出す目的があります。IT業界は、医療業界のように失敗やミスが致命傷になることは少ないです。だからこそ、効率や正確性よりもイノベーションを重んじる、つまり恐れるべきは失敗ではなく変化しない(環境の変化についていけなくなる)ことであるという前提を踏まえたカルチャーなのです。
自由と責任は相反するものではない
自由と責任のカルチャーには「自由があるからこそ責任が伴う」という思想が根本にあります。各社員が重大な意思決定を自ら行うからこそ、責任意識が芽生える(自分ゴト化できる)という考え方です。しかし、単純な自由は組織にカオスを生み出すのも事実。Netflixはどのように自由と責任のカルチャーを実現させたのでしょうか?
その答えは「分散型意思決定モデル」にあります。
2. 分散型意思決定モデル
トップが最高の人材を選び、選ばれた人も最高の人材を選び…という「選択のピラミッド」により能力密度の高い組織へとなっていく。これが分散型意思決定モデルです。もちろん採用だけの話ではなく、能力密度の高い組織になることで、あらゆる意思決定が各所の”最高の人材”によって自律的に行われていくことが特徴です。
この分散型意思決定モデルが、Netflixの「自由と責任」のカルチャーを実現させています。字面だけでは分かりづらいので、人間の身体を例に従来の意思決定と比較してみましょう。
トップダウン型の意思決定モデル = 脳(トップ、上司)によるコントロール
メリット:判断の精度、整合性
デメリット:反射速度
分散型意思決定モデル = 条件反射
メリット:反射速度(熱いやかんに触った時の速さ)
デメリット:判断の精度、整合性(手足がバラバラに動く等)
分散型意思決定モデルは反射が速いというメリットがあることが分かります。組織で言うところの自律性です。一方で判断の精度や整合性に問題があります。そのデメリットを補う3つの要素を紹介します。
分散型意思決定モデルを成立させる3つの要素
分散型意思決定モデルは、①能力密度を高める、②率直さを高める、③コントロールを減らす、これら3つの要素で成立します。先程の身体の例と照らし合わせてみましょう。
①各部位(社員)の能力の高さ →能力密度
②部位(社員)間の相互作用、共依存関係(※) →率直さ
③各部位(社員)の自律性 →コントロールの撤廃
では、Netflixはどのようにして分散型意思決定モデルを実現させたのでしょうか?実現させたストーリーと3つの要素(①能力密度を高める、②率直さを高める、③コントロールを減らす)の詳細に触れていきます。
※共依存関係について気になる方はこちらの書籍を読んでみてください。
3. 分散型意思決定モデルの実現に至るストーリー
分散型意思決定モデル(自由と責任のカルチャー)をどのように実現させたのか、順を追って見ていきます。
ストーリー(構成要素の時系列)
分散型意思決定モデルの実現を時系列順に並べるとこのようになります。
それぞれの構成要素を解説します。
①能力密度を高める(3つの構成要素)
そもそも、企業にルールが必要なのは、ルールがないと無責任で だらしない行動をとる社員がいるからです。そのため、そういった社員を採用せず、会社から排除し、優秀な社員だけで組織を構成することで、多くのルールは不要になってその分だけ大きな自由を与えることができるようになります。リーダーの最優先目標は、最高の社員だけで構成される職場環境にすることなので、Netflixは優秀な社員の獲得と維持、そうではない社員の排除を徹底しています。
①-1:有能な人材だけを集める
優秀な人材は、全社的な能力密度が高い環境でこそ真価を発揮します。故に、有能な人材だけ集めて能力密度を高めることが重要となります。
優秀な人材はお互いをさらに優秀にする(互いから多くを学びパフォーマンスが引き上げられる)
優秀ではない平凡な社員のフォローをしなくて良くなる
社内に凡庸でも構わないというメッセージが伝わることがなくなる
①-2:個人における最高水準の報酬を払う
最高の人材には最高の報酬を支払い続けることを惜しまない。Netflixでは求人市場における個人の最高水準の報酬を支払っています。また、「いくら」払うかだけでなく「どのように」払うかも重要で、特に成果連動型ボーナスには注意が必要です。
ボーナスという仕組みそのものが「未来は予測可能であり、ある時点で設定した目標はその後も重要であり続ける」という前提に基づいています。特定の目標(KPI)と給与を紐付けることにより、社員がその目標を達成することに集中してしまうリスクが生じます。その結果、急激な環境変化に対応できなくなります(元々設定していた目標を追い続けてしまう)。
また、Netflixでは、パフォーマンスがいまいちな社員には十分な退職金を提示し、ポストを空けることにも力を注げるようにしています。
①-3:キーパーテストを実施する(スタープレーヤーでないなら辞めてもらう)
能力密度を最大限に高めるためには、新たに「最高の人材」を採用する際に、既存の「良い人材」を解雇する必要があります(代謝)。これは採用した人材が期待したほど成長しないことや会社のニーズが変わることがあるからです。
Netflixではすべてのマネージャーに対し、定期的に部下を評価し、それぞれのポストに最適の人材であることを確認するよう求めており、そのための判断が正しくできるよう「キーパーテスト」という手法を使っています。
もちろん、一方的に解雇を告げるわけではなく、誰もが毎日たくさんのフィードバックを受け取っており、解雇される前にはっきりと改善するために何をしなければならないか言われています。また、Netflixでは社内の「解雇される」不安を抑えるために「キーパーテスト・プロンプト」という問いかけをするように促しています。
②率直さを高める(3つの構成要素)
優秀な社員であれば、お互いが素直に学び合いパフォーマンスを高めていくことができます。しかし、常識的な礼儀作法にしたがっていると、パフォーマンスをさらに高い次元に引き上げるフィードバックができなくなってしまいます。そのため、端から見たら攻撃的な人たちだと思えるほどに「率直さを高める」ことが重要になるとNetflixでは考えています。
また、互いに活発なフィードバックがなされるようになると、上司の管理や承認プロセスが不要になり、より自由を与えることができるようになります。
②-1:フィードバックを促す
まずは、部下から上司へのフィードバックを促します。その際に重要となるのが、上司がフィードバックをしてくれた部下に「帰属のシグナル」を送り、部下にフィードバックを与えても大丈夫だと感じてもらうことです。これは「自己保存(組織よりも個を優先する)」という人間の本能があることからも重要であると言えます。
Netflixでは、社員みんなが上手にフィードバックを与え、受けることができるように、「4A」というガイドラインを設けています。
②-2:組織の透明性を強化する
人は自分の秘密を打ち明け、率直に語る人間を信頼します。まずは社内に秘密があることを社員に感じさせるようなサインがないか周囲を見渡すところから始めます。
もちろんそれだけでは不十分で、リーダーができるだけ多くの情報を全社員と共有することで、透明性を率先垂範することが重要です。何でも公開するのが当たり前だという姿勢を示せば他の社員もそれに倣います。
しかし、そうはわかっていても情報を秘密にしたほうがよいケースがあるのも事実で判断が難しいと思います。書籍内では4つのシナリオとそれに対するリード(Netflix CEO)の回答があるので参考にしてみてください。
②-3:フィードバックサークルを生み出す
Netflixでは「実名を明かす、新しいタイプの360度評価」という自然と起こりづらいような率直なフィードバックを促すツールを利用しています。
また、リーダー自ら自分が受けた360度評価の結果を部下と共有しています。これにより行動の改善につながる明確なフィードバックを与え、受け取るのはそれほど怖くないと伝わり、さらにフィードバックを促すことができます。
③コントロールを減らす(3つの構成要素)
Netflixでは、重要でリスクが大きい意思決定の権限を、職位に関係なく分散させています。
そのため、社員1人1人が責任を持ち、意思決定をしなくてはいけません。管理職は社員へ指示を出すのではなく、社員の意思決定をサポートすることに努めます。
社員自らが意思決定を下し、プロジェクトが正しい方向に導かれていれば、ルールではなくコンテキスト(条件)でのリーダーシップはうまく機能していると判断されます。
また、新入社員に対しては、自由に挑戦する権限が与えられていることを教え、社員の評価は一度の挑戦の結果で決まるのではなく、全体のパフォーマンスに基づいていることを初めに理解させることに努めています。
③-1:休暇、出張、支出に関する規定などコントロールを撤廃していく
クリエイティブな仕事の価値を時間で測るのはおかしいという前提があります。その前提に沿うと休暇、出張、支出などの規定は不要だと考えられます。また、コントロールを撤廃することで、社員に対して信頼していることを伝えることにもなり、責任ある行動を促せます。
とはいえ、本当にこれらの規定(コントロール)を撤廃しても大丈夫なのか?社員みんなが状況を考慮せずに好き勝手に休暇をとりはじめるのではないか?逆に、誰も休暇を取らなくなってしまうのではないか?という不安が出てくると思います。それに対するNetflixの打ち手は主にこれら2つです。
リーダーが長期休暇を取って範を示す
社員の行動の指針となるようなコンテキスト(条件)を設定し、強化する
例えば…
常に会社の利益を最優先に行動する
他の人の目標達成を妨げるようなことは決してしない
あらゆる手を尽くして自分の目標を達成する
③-2:意思決定の承認を不要とする
Netflixは、社員がそれぞれの持ち場で自ら意思決定をすることで会社のスピードも革新性も高まると信じているため、トップダウン型の意思決定モデルは採っていません。これはトップ(上司)の意思決定が正しいとは限らず、そうでなかった時の機会損失が大きいという考えのもとに成り立っています。
これが会社全体のイノベーションのスピードを劇的に高める「分散型の意思決定モデル」です。これは能力密度と組織の透明性がきわめて高くなければ成り立ちません。
もちろん上司も部下の意思決定(賭け)を後押しします。「Netflixでの評価は、個別の賭けの成否で決まるわけではなく、事業成長のためにチップを有効に使う能力そのものが評価される」これがメッセージとして伝わっているからこそ社員も大きな意思決定を行うことができます。
また、成功確率が高い賭け(意思決定)に出るための枠組みである「ネットフリックス・イノベーション・サイクル」というものがあります。
③-3:コンテキストによるマネジメントを行う
上司は、部下の判断が会社の戦略と合致するようにコンテキスト(条件)を設定することで、部下の意思決定を後押しします。それにより部下の意思決定能力が鍛えられ、自分の力で優れた判断を下せるようになります。
リーダーシップのスタイルとしてコンテキスト型かコントロール型か選ぶ基準は以下の2点です。
社員の能力密度がどれだけ高いか
どのような産業に身を置いているか(会社の目的がミスを防ぐことかイノベーションを起こすことか)
安全第一な産業に身をおいている場合はコントロール型のリーダーシップが有効です。一方で、イノベーションが目的なら一番のリスクは良いアイデアが社員から出てこなくなり、時代についていけなくなることです。
4. 学ぶべき3つのポイント
ここまでNetflixの独自文化である自由と責任のカルチャーについて解説してきましたが、一部の取り組みを表面的に真似をするのは危険です。
3章(分散型意思決定モデルの実現に至るストーリー)で述べたとおり、Netflixは試行錯誤の繰り返しにより一見して非合理(※)な構成要素に文脈を生み出し、分散型意思決定モデルを実現させました。
一部の取り組みをそのまま真似するのは非合理な構成要素を取り込むことに他ならず、表面的な模倣による破滅を招きます。注目すべきはNetflixが独自の文化を作り出した背景ストーリーです。
※一見して非合理について気になる方はこちらの書籍を読んでみてください
①失敗から学んでいる
構成要素のひとつである能力密度は、社員の大量解雇(レイオフ)という苦い経験から生まれています。その後も様々な失敗や試行錯誤を繰り返す中で、3つの要素(能力密度、率直さ、コントロールの撤廃)で構成される自由と責任のカルチャーを創り出しました。
②社員に厳しいようで、実は心理的安全性を大事にしている
自由と責任のカルチャーの構成要素は一見して非合理な要素もありますが、リーダーが率先垂範し、社員の自己保存(心理的安全性)の担保をすることで組織に浸透させています。
自己保存(心理的安全性)の担保の効果はそれだけでなく、これにより社員自ら賭けに出ること(意思決定)ができるようになり、イノベーションの創出に繋がっています。
③「なぜ」を問い、相手に好奇心を持ち続ける
この言葉は、Netflixの「率直なフィードバック」を海外(この例ではシンガポール)に展開する際に直面した課題とそこから得られた教訓の一文です。書籍内ではあくまで文化的差異の文脈で述べられていますが、個人間でも当てはまる話です。
5. 終わりに
カルチャーは生き物です。カルチャーに完成形(ゴール)は存在せず、常に変化し続けます。逆にいえば、変化しなくなった時に待っているのは組織の死です。
社員全員が互いに好奇心を持ち、対話を繰り返していく中でカルチャーを醸成していく。これを高密度に継続的に行っていくことが、この書籍から学ぶべき一番重要な教訓なのではないでしょうか。
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