見出し画像

坂を転げ落ちるように①

つらかった母からの電話とLINEが、丸2日静かなままだ。
昨日の朝から「小規模多機能型居宅介護」の施設に宿泊している。
前回の記事でヘルパーさんとのつきあい方を考える必要がなくなった、と書いたのは、母の認知症症状があっという間に進み、1人では置いておけない状態になってしまったからだ。
この「小規模多機能型居宅介護」というのは、一カ所の施設(事業所)でデイサービスも宿泊もできる上に、同じスタッフ(ヘルパー)さんが自宅に来てケアしてくれるというもので、そこを宿泊メインで利用することになった。

母は物忘れはひどいものの、自分の身の回りのことはできたし、小さな集落ということもあってご近所の目もほどよくある。
スマホも使えてLINEもできるし、幸いこれといった病気もない。
車の運転はやめたけど、ヘルパーステーションとの契約も済ませた。
デイサービスは週2回父のいる施設に通い、あとの2回は別の施設に行くというルーティンが定着して、それが少しでも長く続くように、とケアプランの「家族の希望」にも書いている。

が、実際のところはルーティン化する前に破綻した。

12月半ばの父の退院→施設入所のときには、それまでと大きく変わる様子はなかった。父の世話を焼いてみたり、デイサービスで一緒になるおばあさん(五十歩百歩だろうが)が「何度も同じ話ばっかりする!」と文句を言ってみたり、「ああ、これだったら何とかなるかな。」と思えた。

それが年末のある日、デイサービスの送迎スタッフさんから「お迎えに行ったらパジャマのままで、一緒にお着替えしてもらってデイには来たんです。これから帰るところなんですけど『寒い寒い』って言って混乱してるみたいなんですよ。」と電話が入った。
朝には電話して「今日はお父さんのところは行く日だから準備して待っててね。」と伝えて、「わかったよ。」と返事していたのに。
確かにその日は様子がおかしくて、早朝に意味のわからないLINEが来たり、デイに行ってもいつもなら父の様子を嬉しそうにLINEで現地レポしてくるのに、「私はおかしい」というメッセージばかりだったけど。

母の「寒い寒い」と言ってまるで発作でも起こしたかのように震えるのは、いわば女子中高生の過呼吸発作みたいなものなのだ。簡単に言うとかまってちゃん。
自分でわからなくなってどうしようもないから全部放棄して注目を集めてるだけにしか見えない。その証拠に相手にしないでいるとすぐ元に戻る。
長くなるのでここでは書かないけど、母が祖母にしてきた仕打ちを思い出すたび、こういう行動が腹立たしくて仕方ない。

とにかく家に送ってもらうしかないので、心配する送迎スタッフさんに「いつものことですから」と伝えて電話を切る。
すると今度は施設長さんから電話がかかり、「微熱があるし自分で歩けない。誰か自宅で引き取りを頼める人はいませんか?」と。
ああもう、微熱も歩けないのも興奮しすぎてるだけなのに。パニック発作とでも言うんだろうか、とにかくほっとかしかないんだけど、施設にしてみればそんなことができるわけがない。

「どなたか頼める方はいますか?」
『…いませんね。』
「私たちも(契約上)ご自宅でのお世話はできないので、どうしようもないんですが。」
『ですよね。』

頭をフル回転させて、時々様子を見に来てくれるご近所のMさんと携帯番号を交換していたことを思い出す。
年末の休暇を家族でのんびり過ごしているだろうに申し訳ないと思うけれど、もう彼女に縋るしかなく電話。
運良く自宅にいて、話しながら外に出てくれたところに母を乗せた車が到着したようだ。
「大丈夫です、また落ち着いたら電話しますねー!」
と引き受けてくれた。
いなかったら最後の手段の民生委員さんだったけど、母はあまりその人のことが好きではないので。

案の定母は自宅に帰ってMさんとしばらく話していたら普通に戻り、そのまま寝たとのこと。
Mさんは「気にしないでまたなんでも言ってください。」と言うし、もし逆の立場だったら私も同じことを言うだろうけど、本当に感謝しかない。

それなのに。
認知症が引き起こす妄想は、こんなMさんさえも悪人にしてしまうのである。

②へ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?