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理想の先に見つけるもの #12

アキコは私の長年の友人であり、何事にも情熱を持って取り組む姿勢を尊敬している。しかし、最近の彼女は少し苛立っていた。婚活が思うように進まず、理想のパートナーと出会えないことが、その原因だった。

「何でうまくいかないんだろう?」彼女は眉をひそめながら言った。その言葉には、いつもの自信に満ちた声の中に、苛立ちが見え隠れしていた。彼女は自分の人生を自分でコントロールしてきた人であり、だからこそ、計画通りに進まないことが我慢ならないようだった。

「今までに会った人たち、みんな何かが違うの。私の理想とは程遠いっていうか…。私は妥協したくないのに、どうしてこんなに難しいのかしら。」彼女の言葉には、明確な不満が含まれていた。彼女が抱いている理想像は、仕事で成功した自分と釣り合う人物であり、それ以下を考えるつもりもなかった。

私は彼女の気持ちを理解しつつも、少し違う視点を提案した。「アキコ、もしかしたら、理想にとらわれすぎて、他の可能性を見逃しているのかもしれないよ。もう少しだけ視野を広げてみたらどうかな?」

その言葉に、彼女は少し不服そうな顔をした。「でも、私は自分が何を求めているか分かってるの。それを諦めるのは、自分を否定することになるんじゃない?」

彼女の反応は予想通りだった。彼女の強さは、自分の信念を貫くところにあり、それが彼女をここまで成功に導いてきた。しかし、その強さが時に柔軟さを欠くことがあるのも事実だった。

私は、彼女が今の状況に苛立っているのを感じながらも、続けた。「もちろん、理想を持つのは大切なことよ。でも、もしかしたらその理想が、あなた自身を少し縛っているのかもしれない。たとえば、違う角度から人を見てみることで、新しい発見があるかもしれないよ。」

彼女はしばらく黙って考えていた。苛立ちと共に、彼女の中で何かが動き始めたように見えた。しかし、すぐにその考えを受け入れるわけではなかった。「でも、私はこれ以上時間を無駄にしたくないの。適当に妥協するつもりもないし、安易にアドバイスを受け入れたくない。」

その言葉には、彼女自身の頑固さと自信が表れていた。彼女の強さを尊重しながらも、私はそっと見守ることにした。無理に説得することはできない。彼女自身が納得しなければ、どんな提案も無意味だ。

それからしばらくして、アキコは再び私のところにやって来た。以前の苛立ちは少し和らいでいるようだったが、まだ心の中に迷いが残っているようだった。「あれから考えたんだけど、少しだけ、あなたの言うことを試してみる気になったわ。でも、正直言って、まだ納得しているわけじゃないの。ただ、何か変えないと進まない気がして。」

彼女のその言葉には、ほんの少しの変化の兆しが見えた。それは彼女の理想を完全に捨てるというわけではなく、ただ少しだけ別の視点を取り入れてみるという、微妙な調整だった。

その後、彼女は少しずつアプローチを変え始めた。完全に納得しているわけではないと彼女自身も言っていたが、彼女の中で何かが変わり始めたのは確かだった。新しい出会いが少しずつ増え、彼女の中に新たな視点が育ち始めた。

ある日、彼女は私にこう言った。「今までの私とは違うかもしれないけど、思いがけないところで素敵な人に出会ったわ。まだ完全に理想通りとは言えないけど、今はその理想に固執するよりも、自分が幸せに感じられることの方が大切だって、少しだけ分かってきた気がする。」

その言葉を聞いたとき、私は彼女がまた一歩前に進んだことを感じた。理想にこだわる強さも大切だが、時にはその理想を少し緩めて、他者を受け入れることも必要なのだと、彼女自身が学び始めたのだろう。

彼女が示してくれたのは、自分の理想を持ちながらも、時には他者の意見を受け入れる柔軟さの重要性だ。理想を追い求めることが、自分を前進させる原動力になる一方で、その理想に縛られてしまうこともある。鏡の向こうにある真実を見つけるためには、時にはその鏡を少しだけ曇らせて、別の角度から見つめることも必要なのかもしれない。

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