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去年の負の遺産を片付けた話

忘れもしない、昨年の7月15日。さいこうファームの畑で始めて育てたレタスたちが、全て出荷できないと判断された。厳しい干ばつと、もともとの土壌条件の悪さから、レタスは大きくならなかったのだ。

出荷できないレタス。小さいとはいえ、その下に敷かれたマルチを剥がすには大きな障害になる。誰かの手に届くのを夢見て育てていたレタスは、一瞬にしてナニモノにもなれない、ただ片付けなければいけないものに変わってしまった。

ぼくらにそれを片付ける気力はなかなか湧いてこなかった。

そのままの状態で時が経ち、冬を越え、春を迎え、初夏に入った今、ようやく向かい合うことに決めた。本当のことをいうと片付けに手が回らないうちに雑草が生い茂り手に負えなくなっていたということもあった。

さて、マルチ剥がし。レタスはとうの昔に自然と消えてなくなっている。ただ、そこには雑草が勢力を伸ばしている。

相棒のヤンマーAF210にまたがり畝の脇まで進む。先輩農家さんのもとで習得した、トラクターでマルチを引っ張り剥がしていく方法を試みる。

まずはマルチを2本、トラクターに結びつける。走り出す。剥がれていくマルチ。

「お、なかなかいい調子、これなら意外と簡単に片付くかもしれない」

その甘い考えはすぐに消し飛ぶ。傷んだマルチ、旺盛に生える雑草。トラクターでマルチを引っ張ると何度も何度も切れることに。その度にトラクターを降りて手で剥がし、またトラクターにくくりつける。

なんとか2本のマルチを剥がすことができた。だがまだまだ先は長い。

次は4本のマルチを同時に剥がす。もちろん、スムースにはいかず、ちぎれる度にトラクターを降りて、手で剥がすことを繰り返す。

4本も終わった、まだある。

また、次に取り掛かる。トラクターで走り、降り、手で引張り、結び、走る。

水筒に入れていた水はもうなくなった。喉が乾く。つばを飲み込もうとしてもうまくいかない。変なしゃっくりが出てくる。

畝の端まで来た、まだ終わらない。もうマルチの本数を数えるのもやめた。ただ、終わるまで続けるだけだ。

歯を食いしばると、ジャリっと音がする。もう全身砂にまみれている。手袋をしている手まで、すでに真っ黒だ。トラクターに乗って、降りて、引っ張って、トラクターに乗って。太陽はすでに赤く染まっている。

あぁ、あと少し。最後のマルチにはなぜか盛大に土が乗っかっている。がむしゃらに手で土をかき分ける。マルチを剥がす。

おわった・・・。

去年の負の遺産をついに取り除くことができた。もうあまり力が入らない体でトラクターに乗り、家路に着く。

畑を出て、森の中を走る。誰もいない、きれいな森だ。そして、両側に畑が広がる道路に出る。砂まみれの眼鏡越しに見る夕日が美しい。

「ただ、終わった」。戦いを終え、馬に揺られて故郷に戻る戦士の気持ちを想像しながら、ゆっくりと家に帰るのだった。

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