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【方位磁石(仮)vol.2】

-2012年5月-

ゴールデンウィークが明けた週から、テンノウスイミング所属のオリンピック代表選手3名が北海道での合宿に入っていた。3ヶ月後にはロンドンでオリンピックが開かれる。

この年にアヤセに入社した飛田龍介も、その中の1人だ。天王SS生え抜きの選手で、背泳ぎの第一人者。日本記録を連発し、大学生の2009年には水着の規定で参考記録になってしまってはいたが、世界記録を更新したこともある。

ペットボトルをおでこに乗せて、それを落とさずにスピードを上げて泳げるテクニックは、

『世界一綺麗なフォーム』

と呼ばれ、水泳を習っている子供達がこぞって練習した。天王SSだけではなく、日本水泳界からも金メダルを期待される、そんな逸材だ。

日本全国には20万人を超える競技者が居る。天王SSは、大阪に強化校を有し、全国から毎年トップレベルの中学生や高校生が狭き門を叩いてくる。

『オリンピックに行きたい!』『オリンピック選手を育てたい!』小学校の時に書くような夢。

天王SSで選手をすること、コーチをすることは、そんな夢を叶えるべく一番の近道だとも言える。

野田も、もちろんその1人だ。札幌からは車で1時間。『オリンピックまでの景色』を勉強すべく、野田は毎日、北海道立の白幌総合運動公園プールで合宿中の練習を見学に行っていた。

合宿4日目の練習をプールサイドで見学していた野田に、コーチが歩み寄ってきた。

「いやー、やっぱりこの時期の北海道はいいよ。食べ物も季節感も充実してる。」

声をかけてきたのは、テンノウのヘッドコーチの道濱だ。競泳コーチでその名を知らない者はいない。

180cmを超える長身で、55歳という年齢には到底見えない位、いわゆる「シュッと」してる。

道濱は、飛田の才能を早くから見出し14才から担当している。

「野田先生、熱心だね。テンノウもこういうコーチが沢山でてくると将来も安泰だな!」

「道濱先生、がんばります!」と吉田が返し、

道濱はまた練習に戻っていく。そして、ふと思い出したように振り返った道濱は野田に問いかけた。

「明日1日オフなんだけど、選手にもリフレッシュさせてあげたいんで、野田くん、なにかコーディネートしてくれるかな??」

不意に聞かれた野田は脊髄反射的に「もちろんです!!」と答え、胸躍る高揚感を抑えられずに、帰路の1時間は、翌日のスケジュールのことばかりで頭を埋めた。

翌日10時、通勤ラッシュも終わり、少しの静寂のある札幌駅。

野田は先輩の三澤と一緒に、道濱、西垣のコーチ2名と、谷口、光舘、飛田の3選手を迎える。向かった先は、小樽。

運河を眺めながら、チョコレートやソフトクリームをわいわいとみんなで食べる。

【オリンピック選手といえど、やっぱり普通の子だよな。。。】

野田はそんなことを思いながら、リフレッシュしているメンバーの姿を喜ばしく見ていた。2,3時間ほど小樽で満喫し、帰りの道中、助手席に乗っていた道濱ヘッドコーチが運転している野田に話しかけた。

「野田君、今日はありがとうな。今回の合宿は本当に充実してるよ。いつか野田君にもわかる日がくるよ!」

即座に野田が返す。

「それであれば、よかったです。僕もいつかオリンピックにコーチとしていきますので、今回勉強させてもらったことをずっと忘れずに残しておきます。。。」

そして、野田はこう続けた。

「道濱先生、メダル、期待しています!」

小さく微笑んだ道濱に、フロントガラス越しから強い橙色が染めた。 

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