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「黒髪の清純系」と言われたこと

「あー、わかる、黒髪の清純系の子ってミスドでバイトしがちw」

エマちゃんが言った。私が「高校生のときにミスドでバイトしていた」と言ったからだ。

28のときに少しだけ働いていた会社でのこと。私は数人の同期とお弁当を食べていた。

……黒髪の清純系、ねぇ。エマちゃんには、私がそういうタイプに見えているんだな。

だけど、私はそのときたまたま髪が黒かっただけで、28年間ずっと黒髪だったわけではない。

高校生のときは金髪にしていた時期もあったし、ミスドでバイトしていたときは茶髪だった(派手すぎなければカラーリングOKだった)。

エマちゃんは話しはじめる。

「エマ、高校生のときとか、なんかやたら黒髪の清純系の子から嫌われててさー……」

彼女はひとりで20分くらいしゃべっていた。彼女はランチのとき、どんな話題も無理やり自分の話に持っていき、長々と自分語りをする癖がある。

その20分を要約すると、

「中学のとき付き合っていた彼氏に二股をかけられたトラウマで誰とでも寝るようになり、嫉妬されるから女友達ができず、黒髪の清純系の女の子たちからは『ビッチ』と陰口を叩かれていた」

という話だった。

あぁ、「黒髪の清純系」ってそういうタイプね。いるいる。

全日制の高校に通っていて、テスト前はちゃんと勉強して、家族と仲が良くて、音楽も服も流行のものが好きで、女友達が多くて男友達がほとんどいなくて、大学入ったとたんに髪を染めてサークルの先輩と付き合いはじめる子。

エマちゃんは、会ったことのない「高校生の私」をそんなふうに想定しているのだろう。

しかし、実際の私は違った。

高校は通信制でほぼフリーター。承認欲求をこじらせたメンヘラで、ファッションも派手だった。専門学校生のときはキャバクラでバイトしていたし、一時期だけ異性関係も奔放だった。

だけど、私はそれを言わなかった。

他人から見た私が実像と違っていても、いちいち「違うよ、私ほんとうはこういう人で……」と訂正する必要はないだろう。彼女に誤解されていても、私にデメリットはないのだ。

ただただ、「ふーん、エマちゃんからはそう見えるんだ。面白いな」と思った。

きっと、私から見たエマちゃんも、彼女の自己認識とは食い違っているのだろう。

ここ数年、私は「おとなしい」と評されることが多い。

自分が人にそういう印象を与える理由は、なんとなくわかる。たぶん、ファッションとしゃべり方の印象だ。

ファッションはここ数年、ナチュラルとカジュアルの中間くらいのテイストで落ち着いている。友達には「湖畔のロッジでパンを焼くような丁寧な暮らしに憧れている、原田知世が好きな主婦みたい」と評された。

あと、しゃべり方。しゃべるのが遅いうえに、声が通らない。

自分の映っている動画などを見ると、たしかに、画面の中の私はとてもおとなしそうだ。

自己認識と第三者から見た自分って、こんなに違うんだなぁ。

第三者から見える「その人」なんてほんの一面だ。

おとなしく見える人は、本当におとなしいのか? チャラく見える人は、本当にチャラいのか?

相手の意外な一面を知ったとき、それは、その人が意外な面を隠し持っていたわけではない。

自分が今まで、その人のそういった面に気づかなかっただけなのだ。




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