赤文字系ファッション誌に憤っていた頃のこと
私が専門学生の頃、男ウケといえば CanCam、JJ、ViViなどの赤文字系雑誌のようなファッションだった。10年以上前、エビちゃんや押切もえが活躍していた時代だ。
通学に使っていた中央線では、よくそれらの雑誌の中吊り広告を目にした。「モテ服」や「愛されメイク」という言葉を目にするたびに、私は苦々しい気持ちになっていた。
ファッションとは自分自身のためのものではないか!
男ウケのために服を着るとは何ごとか! けしからん!
そのくらいの心持ちでいたし、モテ重視で服を選ぶ女性(男性も)を軽蔑していた。
あれから10年以上が経った今、「なんであんなに他人に厳しかったのかなぁ?」と思う。
どんな基準で服を選ぶかは個人の自由だ。他人がモテを基準にしていても、私には関係ないんだから別にいいじゃないか。憤るのはおかしな話だ。
なのに、あの頃の私は憤っていた。
怒りの矛先は当然、モテを推進する赤文字系ファッション誌に向けられていた。
◇◇◇
私は赤文字系のファッションが好きじゃなかった。
派手な柄の古着ワンピばかり着ていた時期もあるし(エゴラッピンみたいと言われた)、エスニックファッションが好きだった時期もある。その頃はオノヨーコみたいな髪型にマクラメ編みのアクセサリーがデフォルトだった。
そのファッションは当然、男ウケが悪かった。「普通にしてたらモテるのに」と言われたこともある。
まぁ、仕方ない。
モテと好きな服を天秤にかけて、好きな服を選んだのは私自身だ。
誰に押し付けられたわけでもなく、好きな服を着ている。幸せなことだ。誰も、それが悪いなんて言っていない。
なのに、私は憤っていた。
赤文字系ファッション誌の中吊り広告を見るたびに、
「奴らは私にモテ服を押し付けている!」
と感じて、勝手に憤っていたのだ。
しかし、今思えばまったくそんなことはない。
赤文字系ファッション誌は、「赤文字系ファッションが好きな人」をターゲットに作られている。
CanCamもJJもViViも、最初から私のようなタイプを読者として想定していない。
別に、向こうだって吉玉サキに読まれたがってはいないのだ。
そもそも、CanCamもJJもViViも、それぞれの読者に向けて作っている。ターゲット層じゃない人間に向けて作っていないので、私にとってその情報がピンと来ないのは当たり前の話だ。
誰も、私に押し付けてなんていなかった。
あの中吊り広告は私に言ってるわけじゃなかったのだ。
◇◇◇
ネット社会になってますます、自分(のようなタイプ)を読者として想定していない発信を目にする機会が増えた。
SNSのTLは川のようなもので、どんぶらこっこ、どんぶらこっことあらゆる情報が流れてくる。私にとって有益な情報も、私をターゲットとしていない情報も、いっしょくたになって流れてくる。
そんな中で、拾い上げた情報を
「あ、これは私に言ってるんじゃないな」
と判断してスルーする能力も必要じゃないだろうか。
発信力の逆、受信力とでも言おうか。
自分に向けたものじゃない発信を拾い上げては、参考にしてみたり、憤ったり、焦ったり。
発信者も川上で「それ、あなたは拾わなくていいやつだからー!」と叫んでいるかもしれない。
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