とにかく休むフェーズ、リハビリのフェーズ
昨年の10月、駆け込むように近所の精神科を受診した。
心の調子が悪くなりはじめて、すでに4ヵ月が経っていた。私は病院が苦手で、どうしてもすぐに受診することができない。
何度か通院するうちに、医師は言った。
「仕事、休めませんか?」
ぎくりとした。
「フリーランスなので難しいです。休んだら生活できません」
「あなたが会社員なら、休職を勧めているところです。今の吉玉さんは、そういう状態ですよ」
そんなに? 自分で思うよりも重篤なのかもしれない。
そのときの私は、仕事を休むなんて考えられなかった。せっかくライター業で生計をたてられるようになったばかりなのに。
今休んだら、きっと多くのものを失ってしまう。
◇
その病院には毎週通った。抗うつ薬の副作用が出やすい体質らしく、なかなか飲める薬が見つからない。毎回、いろんな薬を試した。
ある日の診察で、私はこう言った。
「涙が止まらない日もあるけど、いざ打ち合わせや取材で人に会えば、しゃんとしていられるんです。帰ってきたら疲れて寝込むけど、人と会っている間はうつの素振りを見せずにいられる。人と会う予定をいっぱい入れて常にしゃんとしていたほうが、治るんでしょうか?」
すると、先生はこう言った。
「心から人に会いたいならいいけど、『人に会ったほうが良くなるから』という動機なら、やめたほうがいいです。それは、無理をしてるだけだから」
「なるほど。じゃあやっぱりうつを治すには、規則正しい生活とか、軽い運動が効果的なんでしょうか?」
「たしかにそうだけど、今のあなたは休むフェーズです。とにかく寝てください。不調を治すための工夫は、今はしなくていいです。生活習慣の改善とか運動とか外出とか、無理にしなくていい。気まぐれに、したいようにしてください」
「いいんですか?」
「今のあなたは充電が0%のスマホです。たくさん休んで充電できたら、次のフェーズに移行しましょう。次のフェーズで、規則正しい生活や運動のことを考えましょう」
今は休むフェーズ。
その言葉に納得したものの、引き受けている仕事がたんまりあって、休むことができない。
結局、合う薬に出会えないまま年末。実家のある札幌に帰ってきた。
◇
そして迎えた2020年。
1月は、変わらず仕事をしていた。しかし、日に日にうつが悪化し、仕事がままならなくなった。
結婚前に通っていた、札幌の精神科に行く。久しぶりに会う主治医は、「とにかく寝なさい」と睡眠をレコメンドした。東京のお医者さんと同じだ。
2月上旬、いよいよメンタルがダメになり、精神科で点滴を受けた。副作用を我慢し、むりやり抗うつ薬を服用する。10日間寝込んで、ようやく起き上がれた。
それからは、とにかく無理しないことを心掛けた。
仕事はお休みさせてもらった。タスクは、毎朝1錠の抗うつ薬を飲むことだけ。
心のままに眠り、起きたい時間に起きる。「朝起きなきゃ」とか「散歩しなきゃ」とか、そう思うことをいっさいやめた。何ひとつ自分に課すことなく、文章も書かず、だらだらと過ごした。
そうして、2月はとことん休んだ。
あるときふと、「退屈だし、noteでも書こうかな」と思った。
1ヵ月書いていなかったのが嘘のように、自然と書いていた。「動き出そう!」と力をこめることなく、気づいたら動いていた感じ。そのとき書いたのが上のnoteだ。
薬が効いてきたのかもしれないし、充電できたのかもしれない。
◇
3月からはふたたびnoteを書くようになり、超スローペースで仕事も開始した。
すっかり元気になったわけではない。相変わらず無気力だし、精神的に疲れて寝込んでしまう日もある。だけど、死にたくなったり、涙が止まらなくなることはなくなった。
病院には、2週に1回通っていた。主治医は「順調な経過だね」と言った。
4月からは有料マガジンも開始した。
このあたりから、回復の停滞を感じるようになった。グラフでいえば、どん底から右肩上がりに回復したものの、以前より低い数値で横ばいになっている感じ。階段を上っていたのに、踊り場で立ち止まってしまったような。
主治医に言うと、「ちょっと外に出て、運動して」と言われた。
「休むフェーズ」から「リハビリのフェーズ」に移行したのだな、とわかった。
しかし、ここからが長かった。
「泣いたり寝込んだりするほどではないけど、仕事や家事がばりばりできるほどでもない、軽度のうつ症状」が続く。踊り場、どんだけ長いんだよ。
4月の終わりには、新たな抗うつ薬が追加された。
そして今に至る。今も変わらず、私は踊り場にいる。焦る。
◇
今回の体験から、休むフェーズを経ないとリハビリのフェーズに行けないことがわかった。
もしも昨年の自分に会えるなら、こう伝えたい。
「今は休むフェーズだよ。今はまだ、治すための努力をしなくても大丈夫。とことん休んだらちゃんと、次のフェーズに行けるから」
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