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言いたいことを言える人にも悩みはあるんだろうな

言いたいことを言える人を見ると「いいなぁ、ストレスなんかないんだろうな」と羨ましく思う。

私も含めて、たぶん、多くの人が言いたいことを言えずにいる。

たくさんの人が「言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズン」とツイートしている(私より一回り年下の人でも書いてる。よく知ってるなぁ、と思うけど、もはやネットスラングなんだろうか)

言いたいことを言えないのは、生きづらい。

でも、言いたいことを言わずにいられない人もまた、私とは違う種類の生きづらさを抱えているんだと思う。

◇◇◇

先日、古賀史健さんのこの記事を読んだ。

ぼくは「言いたいこと」をあまり持っていない。
(中略)
ただし、「思っていること」はたくさんある。政治にかぎらず、経済であれ、社会問題であれ、芸術やスポーツまわりのことであれ、「思っていること」は山ほどある。けれどもきっと、ぼくは「思う」と「言う」のあいだの距離が、騒々しく忙しい人よりずっと遠いのだ。
なので、「思う」と「言う」がぴったりくっついた、「思う」と「言う」のあいだになんの距離も感じさせない人を見ると、単純におもしろいし、あこがれる気持ちもある。
みんな「思って」いるんだよ。なかなかことばが出てこないのは「言う」までの距離が遠いから、それだけなんだよ。


何度も頷きながら読んだ。私も「思う」と「言う」の距離が遠い人間だからだ。たぶん、思ったことの1割も言ってないと思う。

「言いたくても言えない」という場面もある。でも「特に言いたくならないから言わない」こともけっこう多い。

◇◇◇

一方で、「思う」と「言う」の距離が近い人もいる。

私も古賀さんと同じで、そういう人に憧れる気持ちがある。

たとえば、飲み会の席で先輩に「俺はそうは思いません。俺はこう思います」と自分の意見を言った後輩は、すごく眩しかった。

でも、思ったことを言える人の中には、思ったことを言ってしまう人もいる。

これ言ったら空気おかしくなるな。
これ言ったら彼女にふられるな。

そうわかっているのに、どうしてもその一言を言ってしまう人。きっと、言わずにはいられないのだ。

◇◇◇

お笑いコンビ・和牛の水田さんは性格が細かいことで知られている。一方、相方の川西さんは温厚な人格者として知られる。

水田さんには、許せない人が多い。ラジオのフリートークでは毎回誰かに怒っている。

新幹線の座席に荷物を置く他人。自分に対して見下すような態度をとったテレビ局関係者。大人数のグループLINEで「ご飯行ける人」の呼びかけに「行けません」をわざわざ返す後輩(通知が大量になるから行ける人だけ返信したらええやん!)

それらのエピソードに、相方の川西さんは「お前は社会不適合者や」「細かい」などとつっこむ。

でも、川西さんはつっこまないことも案外多い。

「まぁな、気持ちはわかるけどな」

などと、共感していることもけっこうあるのだ。


つまり、水田さんの怒りの対象に対して、川西さんも同じように「思って」いる。

だけど、川西さんは言わない。水田さんは、言ってしまう。

もちろん、「思う」の段階から二人の意見が食い違うこともある。けれど、二人の「思う」が同じなのに、それを「言う」か「言わない」かに二人の違いが出たエピソードも、けっこうある。

同じことを思っても、それを言う水田さんは「細かい」と認識され、言わない川西さんは「温厚」と評価されるのだ。

◇◇◇

「水田くん、生きづらいなぁ……」

川西さんがそう言ったとき、ハッとした。

そっか。川西さんは私と同じで、思っても「特に言いたくならない」んだ。なんていうか、言わなくても大丈夫なんだ。だけど、水田さんはそうじゃない。嫌われるとわかっていても、言わずにいられないんだ。

私はそれまでずっと、「思ったことを言える人は生きづらさを感じていない」と思っていた。

違う。本当は、ものすごく生きづらいんだ。

思ったことを言える人は、「言う」と「言わない」を自分の意思でコントロールできてはじめて、生きやすくなるんだ。

「言ってしまう人」は、「特に言いたくならない人」よりずっと生きづらいんだ。

◇◇◇

思ったことを言わなかったとき。

私は少しだけ、水田さんに申し訳ない気持ちになる。

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