見出し画像

中華圏進出時の社名・サービス名の付け方

斎藤佑樹さんが新会社を設立し、社名を「株式会社斎藤佑樹」にしたそうです。なんとも直球なネーミングですが、自分が売り物だという意味では、最適な社名だと思います。

社名の付け方というのは、本当に悩ましいものです。ベタな名前だと他社が既に使っている場合が多数でgoogle検索で埋もれてしまう、かと言って奇をてらいすぎると取引先に訝られたり、採用に支障をきたします。

何より、社名は一度決めたらそう簡単には変えられません。社名変更には税務署や労基署への申請のほか、取引先や金融機関への通知など、超絶面倒な手続きが必要ですし、B2C企業の場合は、社名を変更したことを認知させるために莫大な広告宣伝費用がかかる事もあります。

私は会社をつくる際、先輩経営者に相談したところ「名前なんて何でもいいんですよ!吉田さんは自分がオーナーだし、自分がSNSとかで前に出るんだから、自分の名前で良いんじゃないですか」と言われました。実際、SEGA創業者の大川功(おおかわいさお)さんは自分の名前から社名を「ISAO」とされましたし、豊田さんはトヨタ、本田さんはホンダ、鳥井さんはサントリーです。てなわけで特に深く考えず、「吉田皓一がメディアを使ってマーケティングする会社」だからということで「株式会社吉田皓一メディアマーケティング」という社名にしました。台湾法人はそのまんまの中国語で「吉田皓一媒體行銷有限公司」。本当に深く考えずに名付けてしまったのですが、数か月使っていくうちにだんだん恥ずかしくなってきて、社員が電話をとる際に「吉田皓一メディアマーケティングです」と言ってるのが、たまらなく申し訳なくなってしまいましたw 

というわけで、創業1年足らずで社名変更。「株式会社ジーリーメディアグループ」にしました。まだ会社としてはよちよち歩きの二足歩行を始めたばかりで、取引先もそんなに多くなかったので比較的手間は少なかったですが、それでもけっこう大変でした。

画像2

変更の際は、日本語より中国語の響きを優先しました。中国にはジーリー自動車(吉利汽車 Geely Automobile、簡体字: 吉利汽车)という有名な自動車メーカーがあるのですが、吉利の中国語発音はJílì、吉日はJírìなので、中華圏の人からしたら全く別の発音です。大安吉日から取り、吉田の「吉」、日本の「日」も引っ掛けました。吉日という漢字がふたつとも左右対称なのも安定感があるなと、そして調べてみたらgeelee.co.jpというドメインが空いていたので(これまた安易に)「googleっぽくてよくね」的なノリもあって、決めました。実際、吉日(Jírì)という社名は、台湾ではよく「良い社名ですね!」とお褒めの言葉をいただきます。ただ、日本では初めましてのお客様に「ジービー?ジーディー?」と聞き直される事多数なので、それは社員に少し申し訳ないなとも思っていますw

あと、創業したてのくせに「メディアグループ」と付けたのは、メディア王ルパート・マードックへの憧れと、グループの中国語である「集団」という言葉が個人的にすごくかっこよく思えたからです。ただ、台湾法人の登記で「集団」は使っちゃダメと言われてしまいまして(笑)、吉日媒體行銷有限公司(ジーリーメディアマーケティング)となりました。

樂吃購(ラーチーゴー)!日本」というサービス名も、日本では「何それ?」と訝られますが、台湾では「良いネーミングですね!」と高評価いただいており、我ながらこのネーミングは良かったなと自負しております。訪日観光客が急増していた当時、所謂インバウンドメディアが雨後の筍のようにぽこぽこと誕生していて、そのどれもが「訪日外国人」つまり全世界から日本に訪れる外国人を対象にしていました。

でも、一言で「外国人」と言っても国や地域によって文化・風習は違うし、買いたいものも行きたい場所も全然違うはずです。よくテレビで「外国人に人気の観光地ランキング」とかありますけど、例えば欧米系と中華系ではニーズは絶対に違う。なのに日本人以外は全部「外国人」と十把一絡げにまとめてしまうのが、いかにも内向きな日本人的な発想だなと感じました。我々は台湾と香港という、人口は合わせて3,000万人しかいませんが、安定的に訪日し、なおかつ訪日リピート率が8割以上、東京や関西以外のローカルエリアにあ足を伸ばしてお金を落としてくれる「訪日観光のお得意様」だけをターゲットにすると決め、中華風のネーミングにしました。

日本では一般的に、欧米圏の人名やブランドをカタカナにして表記します。例えばアメリカのMcDonaldはマクドナルドだし、Kentuckyはケンタッキー、フランスのCarrefourはカルフールです。いっぽう中華圏では、欧米圏の名表は基本的に全て漢字を充てます。例えば

マクドナルド→麥當勞(Màidāngláo/マイダンラオ)

ケンタッキー→肯德基(Kěndéjī/ケンダージー)

カルフール→家樂福(Jiālèfú/ジアラーフー)

という感じです。特に「カルフール→家樂福」は、家庭が楽しく福が訪れるという意味で、抜群に素晴らしい漢字の充て方だと、名付けた人は天才だと、個人的に感じます。

で我々は、上述のマクドナルドやケンタッキーなどグローバルブランドのように漢字3文字で何か良いネーミングはないかと思案しました。中華圏は人の名前も毛沢東、鄧小平、習近平みたいに漢字3文字が多いですし。

で、結果的に日本に行って「樂→楽しむ」「吃→食べる」「購→買い物する」という意味と「Let's Go!」を引っ掛けて、 樂吃購!日本(ラーチーゴー!リーベン)と名付けました。www.letsgojp.comのドメインも空いていたので、速攻で取得。創業から間も無く10年、台湾と香港という小さな市場で、毎月百万人以上の方々に見ていただけるメディアになりましたが、中華圏に親しみやすい名前にして良かったなと思います。

ただ、最近は中華圏でも漢字の当て字を使わない、英語だけのサービス名も増えてきましたし、むりくり漢字を当てる必要もありません。

数年前には、ビックカメラさんがむりくり漢字を当てて、台湾・香港人の失笑を買うという事もありました。

スクリーンショット 2021-12-14 13.01.44

以下、当時同社公式Facebookページについていたコメントの翻訳。

有人能幫忙用日文告知他們的老闆,這個中文名的主意是愚蠢而不討好嗎?相信台灣跟香港人又無法接受這中文名字,發音難又沒意思,只是隨便找些跟英語同音的中文。另外,你們要找的金主客是上不了facebook的。再另外,「樂」字是優雅的繁體字,沒幾個金主看得懂的。(誰か、ここの社長にこの名前は馬鹿げてるって日本語で教えてあげたら?台湾人と香港人はこの名前は受け入れられないわ。発音しにくいし意味も無い、適当に漢字を当て字しただけでしょ?それから、あんたらが欲しがってる金持ち客(訳注:中国人のこと)はFacebookにアクセスできないよ(同:中国国内はFaebookへのアクセスが制限)。それから、「樂」の文字は格調高い繁体字だから、金持ち客(中国人)は読めないと思うよ。)
明白到有可能是為了迎合中國大陸人的口味而改,但其實真的不需要有中文名字,簡單的”BIG CAMERA”就已經代表到 貴公司。(これ中国人のテイストに合うように作った名前ですね。でも中国語名称いらないとおもいます、シンプルに「BIC CAMERA」で良いです)
Why?! Please do not have such a weird name just because of mainland Chinese!
是不是不再是日本公司,變成陸資企業了?那麼就不再光顧了,沒信心。もう日本の会社じゃ無くなって、中国の会社になっちゃったのかな?じゃあもう行かないよ。信用できない。
被陸資收購了嗎 中国資本に買収されたの?
此中文譯名完全是中國遊客口味,公司形象直線下降,劣評 ( 來自香港) この中国語名称は完全に中国人テイストですね。会社のイメージがた落ちです(香港より)
好像是必勝客+達美樂的綜合體⋯pizza店=_=  ピザハット(必勝客)とドミノピザ(達美樂)の合体みたい。ピザ屋かよ。
名字太長啦 名前長い
好爛的中文 ひどい中国語だ

ボロカス言われすぎwwwww


ネーミングは、簡単なようで本当に難しいです。その国・地域の文化や風習、そしてトレンドを理解して名付けるようにしたいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?