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シュール

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吉田図工のシュール作品です
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#ドラマ

【ショートショート】行列鑑定士

彼はお目当てのラーメン屋に着くと少し離れた所からしばらくその様子を眺めた。店先には10人程度の行列が出来ている。 そして手帳に何かを書き留めると小さくため息をついた。列の最後尾につこうかと1歩踏み出したが、 どうしても気が進まずそのまま踵を返して来た道を戻りはじめた。 彼は行列のビジネスネームで『行列鑑定士』を生業としている。しかし世間での認知はまだまだ低い。 北は北海道、南は沖縄まで行列の噂を聞きつけては現地に赴く。 そして行列を眺め観察し、(彼はそれを『行列の香りを嗅ぐ』

【ショートショート】無駄の結晶

N氏の葬儀は一般的なソレと比較すると寂しいものだった。 必要最小限の人付き合いしか無かった為、数名程の参列者は実弟とその家族のみであった。 後日、遺品整理の為に兄の自宅を訪れた弟は僅かな遺品の中に1本のminiDVテープを見つける。 しかもラベルに弟の名前が記入されてあるものだから 気になって再生出来る機器を探した。 見つけたビデオカメラ本体に挿入し再生すると小さな液晶画面には在りし日のN氏の姿が映し出された。 何度かカメラの位置を調整する姿が映し出されると徐ろに話始めた。

【ショートショート】ヘモグロビンの憂鬱

駅に着くと通勤ラッシュの電車は乗客を弾き出した。 まるで自分は生産ラインから弾かれた不良品みたいだなと思った。 ターミナル駅だというのにホームからコンコースに繋がるエスカレーターは その乗客数に比べ設計ミスを疑う程に頼りない。 我先にと群がり乗り切れない人々が乗口で根詰まりを起こしている。 その群がりの最後尾に着けながらまるで脳梗塞のようだなと思った。 そして自分もそのヘモグロビンの一つを担っている事に嫌気がした。 まさにヘモグロビンとするならば、周りの者達はこれから社会に酸