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シュール

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吉田図工のシュール作品です
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#ファンタジー

【ショートショート】あるところ

やっとのことたどり着いた村で、これまたやっとのこと出会えた第一村人は気さくなおじいさんだった。 声を掛けると畑仕事の手を止め、わざわざこちらにやってきてくれた。 「若えの。こんな所までよう来なすったな。地図にも載っとらんのに」 「お仕事中すみません。お父さん、ここが昔話の冒頭『むかしむかしあるところに』で有名な、あるところ、なんですよね」 「そうじゃ。本当は安留所村という名前なんじゃが、不特定の場所をさす『ある所』と響きが同じだったもんですっかり勘違いされての」 「むかしむか

【ショートショート】円の滝登り

今は明日。 嘘みたいな話だが、日本という国は『日』の二本の屋台骨が倒壊し『三本』と名を改め数年が経とうとしていた。 その影響は大きく経済活動におけるお金の流れが決壊し、円が逆流する『円の滝登り』と呼ばれる現象を誕生させた。 つまりお金に対する価値はひっくり返り、所持金を減らす為に労働し、消費する度にお金を得る仕組みになった。 その社会では常に、一文無しまた多額の借金がある状態が豊かさの象徴となる。ただ、社会の仕組みはひっくり返っても居酒屋に集まる人々が現状にぼやき続ける光景は

【ショートショート】天地製造

人間の営みを見下ろし、神は涙を流していた。 決して悲しんでいるのではない。感動の涙だ。 それはまるで立派に走る我が子の成長した姿を見る、親のそれに等しい。 幾多の失敗や教訓の歴史を経て、省人化、省力化をスローガンに人員、コストなどありとあらゆる無駄を排除し効率化を求め続け、今も世界を未来へと推し進めている。 神がこの世界を7日間で創り出した頃からは想像し得ない成長を遂げていた。 そして神は己を恥じた。 意を決し、神は時の座を立ち上がる。時間を遡り天地創造の第6日目までかえって

【ショートショート】日常階段

とあるオフィスビルのある日の光景。 普段は立入禁止の非常階段の扉に張り紙が貼られている。 『非常時になって初めて利用するのでは不安だとの要望をうけ、日常も使用可能といたしました』 しばらくして、扉には別の張り紙が貼られた。 『日常から非常階段を使用出来てしまっては、非常階段の意味を成さないとのご指摘を受け、非常階段と同じ構造の日常階段を新たに設けました。非常階段の使用感を日常階段にて是非お試しください』 翌週、更に別の張り紙。 『現在当ビルは階段(既存)、日常階段(新設)が乱

【ショートショート】そこでは首輪を外して

これといった特産品や観光資源が無く、とある町は財政難に苦しんでいた。 ある役場職員の発案で、起死回生の一手に打って出た。 国に何度も掛け合い町を『とある保護区』へ認可させる事に見事成功したのである。 半年後。 町は人が押し寄せる人気観光地へと変貌していた。 閑散としていた町に人々が行き交い、地元商店にも活気が生まれていた。 奇跡の復活ともえいる変貌を遂げた町に、興味を示した雑誌記者はカメラマンを帯同し発案者である役場職員の元を訪れた。 職員の案内で活気溢れる町並みを一通り写

【ショートショート】多様性相談室

待合室に入ると、ちょうど面談を終え出てきた先客と鉢合わせた。 先客は明らかに肩を落としており、私を見るなり「僕は恐らく無理かな。やっぱりなんだかんだ、ぐうの音も出ないですよ」 と私と並んで長椅子に腰掛けた。膝の上に置いた私の問診票を覗き込む。 「へぇ。あなた漢字だとそう書くんですか」 「そうなんです。生意気そうでしょ」と私は自嘲する。 「でも確かにそうですね」先客の目線に促される様に窓に目を移す。 外は雨が降っている。 「私達にも多様性を認めてもらいたい!」 気がつくと受付

【ショートショート】無欲な男

とある無欲な男の前に、突如神が現れた。 「これまで欲にまみれた人間は数多くみてきたが、お前は常に無欲で慎ましく生きてきた。その功績にどんな願いでも一つ叶えてやろう」 「とんでもありません。今で充分です」 「うむ、確かに無欲な男よ。ならば何か困っている事はないか。どんな悩みでも解決してやろう」 「いや本当に結構です」 「私も宣言した手前、神として後に引けぬのだ。私を助けると思って打ち明けてみよ」 「それならば…確かに無欲であることが人からは特異に映るようで。何か裏がないか勘ぐら

【ショートショート】悩める貯金箱

商店街の鮮銭店にらっしゃいと威勢のいいダミ声が轟く。 貯金箱母さんはうんと見つめ商品を目利きする。 「今日ご主人開封日だっけ。新鮮で良い五百円入ってるよ」 「じゃあ、五百円玉をひとついただこうかしら」 「あと百円玉も五枚ください」と千円札を出した。 「まいど。百円おまけしとくよ」と店主は笑顔で百円を六枚入れ袋の口を縛った。 「ただいまー」貯金箱父さんの声にチャリンチャリンと貯金箱坊やは玄関に走った。 父さんは坊やを抱っこする。「いやぁ。だいぶ貯まってきて重くなったな。いや俺

【ショートショート】努力

スポットライトを浴びてステージに登壇した彼を満員の観客は拍手で迎える。 鳴り止まない拍手を制する様に右手を上げると彼は静かに語りだした。 「例えば動画配信者やプロゲーマーのように新しい道を切り開き、 そして新しい角度で富を得る時代の寵児にはそんな事で大金を得るなんて というやや邪知深く冷ややかな目が向けられる事が多いと思います。 そして今、私自身が目指している新しい道も彼らと同じく一部の人々からそのような目が向けられる事でしょう。 両親に初めてその意向を告げた時、 『そんな

【ショートショート】石の意思

私はどうやら『石』のようです。 ようですというのは、全くの無の状態から急に起こされたような変な感覚だからです。 周りには自分と同じような『石』の存在を感じます。 そして不定期に覆いかぶさるような何かを感じます。 鳥と呼ばれる方が先程見るに見かねて私に教えてくださいました。 お前は川辺の石の一つだと。 神様が暇つぶしで名前と同じ響きの言葉があればソレを与えて回っていると。 なのでお前には『意思』が与えられたのだと。 どうりで無性に違う所に行ってみたいという考えがまとわりつく

【ショートショート】じゃんけんver2.0

テレビの速報字幕やスマホの緊急通知等あらゆる手段でその発表は世界に衝撃を与えた。 『○月☓日深夜3時より史上初じゃんけんのシステムアップデートを実施』 連日連夜、放送各局はこの話題を取り上げた。 「これまで円滑に決められていた事の長期化が懸念されます。既に株価にも影響が…」 と経済評論家が論ずれば 「そんなん小学生鬼ごっこの鬼決めるだけで夕方5時来てしまいまっせほんまに」 とお笑い芸人は揶揄し 「もう分かるよね?来たるべき宇宙人との交渉の為にアメリカ主導で動きだしたわけ。もう

【ショートショート】フェンシング新種目 ースマホー

防具を装備した両者がセンターラインで対峙する。 互いに息を整え闘いのフォームを構える。 そして全身から指先へ神経を集中させるように細く長く息を吐く。 会場はピンと張り詰めた緊張に静まりかえっていた。 フェンシングはフルーレ、エペ、サーブルの3種の武器があり それがそのまま種目の名前になっている。 その長い歴史に新しい風を吹かすべく新たな種目『スマホ』が創設された。 観衆の注目を一身に受ける両選手のその手には現代の武器、スマートフォンが握られている。 「チャットアプリ!」審判