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日本文化の基層 ③イネとコメの日本史_3 古代 コメよりもアワ

それまで、人々は囲炉裏でコメを含む雑穀を煮て、雑炊として食べていましたが、古墳時代に入り西日本ではカマドが発明され、おこわのように蒸して食べるようになりました。

ここで、もう一つ、森浩一氏の指摘する深層文化。
粟(アワ)と禾(アワ・カワ)、畠に生えた植物の状態が禾、収穫した粒が粟となります。「倭名類聚抄(ワミョウルイジュショウ)」(平安前期にまとめられた百科辞書)の中では、穀について「禾、稷(キビ)、菽(マメ)、麦、稲」と五穀の筆頭に挙げています。

また、「常陸(ヒタチ)国風土記」の中では、新嘗祭のニイナメに「新粟嘗」とわざわざ「粟」の字を挿入していたり、今日のワセ「早稲」の表記を「新粟」としているなど、神事の穀物が米ではなく粟であることを強調しています。

万葉集にも「ちはやぶる 神の社し無かりせば 春日の野辺に 粟まかましを」(3・404)という歌があり、「春日大社がそこになかったら、春日の野辺に粟をまくのだが」位の意味でしょう。

古代(平安時代位までか?)においてはコメよりもアワの方が、余程重要で身近であったのでしょう。

今でも、静岡市葵区田代という山村には、川魚の山女(ヤマメ)を使った粟鮨が残り伝わり、日本の深層文化の生き証人と言ってもよいでしょう。

飛鳥時代になると、国家はコメを益々神聖視して行きます。律令の導入と共に、儒教的な農本主義(コメ中心)を国家の柱として行きます。

675年、天武朝が日本で初めて肉食禁止令を出します。一般的にこの令は、仏教の殺生禁断の思想と捉えられていますが、4~9月までと期間を限っていることと、その当時、肉食としてメインであった猪と鹿が除外されていることを考えると別の思惑が見えて来ます。

これは、日本のケガレ思想が、聖なる稲作の推進のためには、動物の死や血が流れることは悪影響を及ぼすと考えたことと、実際に猪と鹿は稲作にとっては害獣であり、その駆除は問題なしという実利を伴った令であったのだと思われます。

奈良時代の農民にとって、租・庸・調の税や、労役、兵役などの負担は重く、口分田を捨てて逃げてしまう者も多く出ました。

奈良の大仏の建立は、銅を融かすための森林伐採や、金メッキのための水銀使用が公害を招き、後の遷都への要因の一つとなったのだと思われます。

奈良~平安時代と、貴族の主食は、白米を蒸したおこわです。贅の限りを尽くし、盛り合せの美しさと品数を重視した、これらの食事は、肉食を遠ざけたこともあり、庶民と比べると。とても不健康なものでした。

白米が脚気を呼び、さらに運動不足やお酒が糖尿病を招きます。

一般庶民に、肉食禁止令は行き渡らず、玄米+雑穀と新鮮な野菜、魚、肉(鳥や兎が主)など健康的な食生活を送っていました。

奈良~平安時代に、人口は450万~700万人に増えますが、気候の変動の中での森林破壊が、畿内の水不足を一層、深刻なものにして行きます。

旱魃(かんばつ)、冷害による飢饉、マラリヤや天然痘などの疫病に苦しめられます。尚、水田が広がる日本では、昭和の終戦後までマラリヤは、ごくありふれた病気でした。

平安時代は庶民にとっては暗黒の時代です。
国司や受領は、農民に対して年貢を絞り取れるだけ絞り取りました。中央には定まった税を納めれば、あとは自らの収入なのですから、また任地を替わって行くので、まさに容赦なくの状態でした。

そしてケガレが制度化して行く中、漁民や猟民も迫害されて行きました。

荘園が出現すると、それまでの「国家のコメ」は「貴族と大寺社のコメ」へと変化して行きます。

そして、ここまでの時代は、上から押し付けられた「コメ」に対して農民のやる気は削がれ、国家のあと押しによる農地の拡大はあるものの、生産性は低いものでした。

※ほとんど丸写しも多い参照資料
◎著者:佐藤洋一郎氏
『イネの歴史』京都大学学術出版社
『稲の日本史』角川ソフィア文庫
『米の日本史』中公新書
◎著者:奥田昌子氏
『日本人の病気と食の歴史』ベスト新書
◎著者:田家康氏
『気候で読む日本史』日経ビジネス人文庫
◎著者:鬼頭宏氏
『人口から読む日本の歴史』講談社学術文庫
◎著者:上念司氏
『経済で読み解く日本史』飛鳥新社
◎著者:井沢元彦氏
『中韓を滅ぼす儒教の呪縛』徳間文庫
『動乱の日本史(徳川システム崩壊の真実』角川文庫
◎著者:蒲地明弘氏
『「馬」が動かした日本史』文春新書
◎著者:山本博文氏ほか
『こんなに変わった歴史教科書』新潮文庫
◎著者:小泉武夫氏
『幻の料亭「百川」ものがたり』新潮文庫
◎著者:山と渓谷社編
『日本の山はすごい!』ヤマケイ新書
◎著者:森浩一氏
『日本の深層文化』ちくま新書
◎佐々木高明氏
『日本文化の多重構造』小学館
◎原田信男氏
『日本人はなにを食べてきたか』角川ソフィア文庫

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