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大学でのキャリア教育によって採用のミスマッチが起きている

大学では文部科学省の指導にしたがって「キャリア教育」を行っているが、企業側とのミスマッチが起きていて、これは企業にとっても新入社員にとってもよくないのではないか。

キャリア教育とは

日本でキャリア教育が提唱されたのは1999年、文部科学省の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」で、「キャリア教育を小学校段階から発達段階に応じて実施する必要がある」とした。以後、小学校から大学までそれぞれの段階に応じた教育が現場で実践されている。ざっくりいうと、子どもの頃から自分の将来のことを考えさせて、自分らしい生き方を考えさせましょう、ということだ。

大学でのキャリア教育

たとえば某大学の受験生向けページでは、4年間のキャリアデザインとして学年ごとのステップが書かれている。

  • 1年生:自分を知る

  • 2年生:なりたい自分を探す

  • 3年生:なりたい自分をつくる

  • 4年生:希望の進路へ向けた実践

大学ってこんなことをするところだっけ?と思わざるをえないが、ようするに「自分探し」をしましょうということだろう。学生は専門分野について学びつつ、自分探しを求められ、3年生から就職活動として自己分析や業界・企業研究、インターンシップ、OB・OG訪問がはじまる。学生たちは大学から指導されるままにシューカツという名の自分探しを行うのだ。

新卒社員はなぜ辞めるのか

ひと昔前には『若者はなぜ3年で辞めるのか?』という本があったが、実際のところ3年以内の離職率は3割程度で、30年間くらいあまり変化がないらしいから、最近の若者はすぐ辞めるというのは印象にすぎないようだ。ただ気になるのは辞める理由で、最近の調査では、入社1年以内に辞めた新卒社員の理由でもっとも多いのは「自分がやりたい仕事とは異なる内容だったため」らしい。

キャリア教育以前と以後

私はキャリア教育を受けていない世代だが、入社して3年くらいは毎年のように異動してちがう仕事をしたが、こんなもんなんだろうな、と思っていた。もちろん会社によってちがうだろうけど、私の会社では入社からまったく異動しない社員のほうがまれである。だけど、それが最近は変わってきた。異動するなら辞めるとハッキリいう若者が出てきたのだ。

考えてみればこれはあたりまえのことだろう。いまの若者たちは小学校から大学まで一貫してキャリア教育を受けてきた。大学では自分探しをし、自分が描いたキャリアの通過点として就職先を選んだ。会社ではさらにスキルアップをし、社会のなかで自分がやるべきことをやり遂げる。それなのに、思った仕事とちがうことをさせられるのでは、予定が狂ってしまう。道を外れてしまうのだ。辞めるのは当然だろう。

採用面接でのやりとりが意味すること

おそらく多くの企業では採用面接のときに「あなたは会社に入ったらなにをしたいのですか?」という質問をするだろう。学生が「企画の仕事をしたいです」と答えたとする。学生としては、自分探しをした結果、やりたいことを見つけ、それを答えている。そして採用されれば、学生としては、やりたいことが受け入れられたと理解するだろう。だけど企業としては、この質問にそれほど深い意味はない。いくつかの質問のひとつであって、学生が提示した条件で契約を結んだという意識はないのではないか。ここで完全にすれちがいが起きている。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用

最近では大企業を中心に「ジョブ型雇用」を行うところがでてきたそうだ。これは従来の「メンバーシップ型雇用」と比較されるもので、これまで会社は新卒社員をとりあえずメンバーとして採用して、どのような仕事をさせるかは会社が決めてきたが、ジョブ型雇用ではあらかじめ職務を提示してから雇用するので、基本的には異動することはない。企業と新卒社員とのあいだで起きているミスマッチは、このちがいなのである。

キャリア教育は自分がやりたいことを考えるので、ジョブ型雇用を前提にしている。だけど日本の企業のほとんどはメンバーシップ雇用を前提にしている。すれちがうのはあたりまえだろう。

日本はジョブ型雇用に移行するのか

では企業側もキャリア教育に合わせてジョブ型雇用に移行すればいいかといえば、それほどかんたんなことではないだろう。会社のなかには誰もやりたがらない仕事がある。外回りの営業は誰だって嫌だし、庶務的な仕事をライフワークだと思う人も少ないだろう。そうなると職務によって人材のバラツキがでてしまう。ただでさえ少子化が進んで全体的に人手が足りないなかで、すべての職務にぴったりの人がきてくれるとは思えない。また、そもそも新卒一括採用も見直す必要があるだろう。評価制度や賃金形態も見直さなければいけない。メンバーシップ型の良いところもあるし、日本がジョブ型雇用にすぐに移行するということはないだろう。

ミスマッチを減らすために

大学で自分探しをさせるのが悪いとはいえないが、少なくとも企業の雇用がどのようなものか、実態を教えることも必要なのではないか。メンバーシップ型が良い面もたくさんある。そういうことを教えることこそキャリア教育の役割だろう。また企業側としても、大学でのキャリア教育を把握したうえで、説明会で雇用形態をきちんと話すべきだ。

おわりに

キャリア教育が悪いわけではないが、現状では大学と企業とがうまくつながっていないために、学生が不幸な状態になっている。大学では日本の実情にあったキャリア教育を行い、企業ではそれを踏まえて採用を行う。若者のためにはもっと歩み寄りが必要なのだ。


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