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実録 小説家のなりかた 20日目

8:21

長編小説を初めて書いている。今日は4000字ほど残った最後の章を書いていく。正直、作品が完成するというプレッシャーに負けそうだ。

デニーズに着いて席を探す。いつも気に入って座っていた席に今日はおばさんが座っていた。おばさんと言っても、たぶん同い年くらいだろう。いつもとは違う、座ったことがない席を選んでみたら、やたらクーラーが効いていて寒い。

今日はなんだか疲れているので、気乗りしない。景気づけに和食のモーニングを頼むことにした。

10年来の付き合いの人格"吉田さん"はいつも僕に厳しい。
「もっとクオリティ上げないと賞なんか絶対通らない。このままだと読者にバカにされる。無職中年のオナニー小説だと思われるぞ!」

そういう時は、いつも去年生まれたばかりの人格である"吉田くん"が励ましてくれる。
「処女作なんだからこんなもんでしょ。それに原稿用紙70枚分の小説なんて、そう簡単に書けるもんじゃないよ。これは君が思ってるよりも、ずっと凄いことだよ!」

僕自身はどっちの言う事も正しいと思う。二人のバランスを取ることは難しい。

10:13

もう家に帰ってきた。結局、寒さに耐え切れず、モーニングと紅茶をいただいた後、すぐに帰ってきた。これから執筆しようか、ひと眠りしようか考えているところだ。

この長編を書き始めてからほぼ1日も休んでいない。休む必要があると思うが、転職活動が本格化する前に書き終わらせたいと思っている。

このところ停滞していると思う。どの物事でもそうだが、90%くらいのところまでくると、急に飽きてやめてしまう。無駄に悩みたいのか、努力してるふりをしたいのか、自分の事だがよくわからない。〆切は8月なのでもうほぼ100%書き上がると思うから安心すればいいのに、焦燥感があって落ち着かない。

13:29

お昼はマックでチキンクリスプとマックシェイク、ナゲットを10個食べた。食べ過ぎで太るのは確実だが、今はしかたない。

こうして毎日書いていると、大学生の頃、なぜ書けなかったか、わかってきた。やはりプライドの問題だった。
僕はいつもバッターボックスに入ったらヒットを打たなければいけないと思い込んでいる。別にヒットが出るまで練習してバッターボックスに入り続ければ、いずれは打てるようになるのに、なぜか一発目で成功させようとやっきになる。
何のことに対してもそうだ。仕事もゲームも小説も、すべてこのメンタリティが適用されている。
小さいころからプライドが高くて完璧主義者で負けず嫌いだった。それを自覚できたのは、心理療法を習い始めた1年前だ。
中年に近くなって、自己理解が進み、やっと自分と折り合いをつけられるようになったようだ。プライドが低くなってきて、気づいたら書けるようになった。

これまで書きたくても書けなかった。同時に書けないことで、ずっと苦しかった。「35歳にならないと書けない」という前提があるなんて知らなかった。もっと若い頃から書けばよかったというのは間違いだ。これからたくさん書けばいい。

たくさん書いた後、上手くなっていればいい。

100円でお題にそったショートショートを書きます。