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色を科学する その④ 物理エネルギーを明るさに変換する不思議な数-V(λ)と683 lm/W

 掛けるだけで「物理エネルギー」を「ヒトの明るさ感覚」に変換できる係数があります。V(λ)683 lm/W、これらは、物理と心理をつなぐ不思議な数です。


V(λ)

 単位エネルギーにそろえた単色光に対する明るさ感度であり、分光視感効率(spectral luminous efficiency)と呼ばれています。555nmで正規化(最大値が1.0になるよう相対化)されているので、「効率」と命名されており、単位はありません。

 等色関数と同様に、単色光との明るさマッチング実験で求められ、CIEが1924年に勧告しています。その③でも書きましたが、XYZ表色系の等色関数y(λ)はV(λ)に合わせています。

 言い換えると「同じエネルギーならどの波長の色が一番明るく感じるか?」というのものであり、555nmの黄緑が一番明るく、そこから離れるにつれ、キレイにガウス関数上に下がっていきます。紫外線や赤外線はヒトの目には見えないので0です。というか、0だからそう(可視光でない)と呼ばれているといったほうがいいかもしれません。

 「緑が目に優しい」と言われているのも、これが一つの理由です。「感度が高い」ことと「優しい」ことは関係ないですが。。。

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 同じエネルギーなら555nmの黄緑が一番明るく感じるので、効率的に明るさを求めるなら、この波長の成分を多くすればよいことになります。この考え方で作られたので、もうほとんど見ないですが、普通形白色蛍光灯(三波長形ではない、一番やっすい蛍光灯)です↓。

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 この蛍光灯は、三波長形の高演色タイプものより、同じW数なら明るいです。が、演色性は低く、特に肌が黄ぐすんで血色が悪く見えるという致命的な欠点があります。

 V(λ)を簡単に、疑似的に実感できるものがあります。ラゴリオ色票と呼ばれるもので、カメラの分光感度を簡易的に調べるために使われるものです↓。V(λ)の形がうっすら見えますね。

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 ちなみにこのV(λ)は明所視(明るい場所)に対するもので、暗所視(暗い場所)ではV'(λ)とよばれ、ピークが507nmと短波長側にシフトします(プルキンエ・シフト;Purkinije shift)。結果として、長波長側の明るさ感度が下がり、「夜は赤い色が暗く見える」というプルキンエ現象(Purkinije phenomenon)が起こります。

※プルキンエのスペルはPurkinijeとPurkinje の2パタンあるようです。


683 lm/W

 V(λ)のピークである555nmにおける、1ワットあたりのルーメン(光束)数です。最大視感効果度 Kmと呼ばれています。相対値だったV(λ)がこの係数により、絶対値になります

 単位の分子がlmという感覚的な量分母がWという物理エネルギーになっている、スゴイ不思議な量です。


物理エネルギーを明るさに変換しよう

 例えば、輝度L(単位:cd / m^2)は下記のように算出します。P(λ)は色光の分光エネルギー分布で、この場合、放射輝度を用います。放射輝度の単位はW / (sr * m^2)で、単位面積&単位立体角あたりの(1秒あたりの)エネルギーです。

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 ホントにこれで輝度(cd / m^2)になるのか?検証のため、KmのとP(λ)の単位を掛けると(V(λ)には単位がない)

 lm / W * W / (sr・m^2) = lm / (sr * m^2) 

 ここで、lm / sr = cdなので、lm / (sr * m^2)  = cd / m^2 となり、確かに輝度の単位になります。物理エネルギーWから、ヒトの目の明るさ感度を考慮し、輝度cd/m^2に変換できました。

 照度(lx = lm / m^2)は、放射照度(W / m^2)から、光度(cd = lm / sr)は放射強度(W / sr)から、同様の手法で変換できます。


XYZの計算式

 以上の物理エネルギーから明るさへの変換は、 XYZの計算でも使われています。その③で得られた等色関数を用いて、光源色の場合は、、、

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 一方、物体色の場合は、明るさの絶対値に意味はない(詳細は「輝度・照度・明度・明るさ の違いを説明できますか?」)ので、Kmではなく、正規化のための係数kを用います。

 ここで、S(λ)は光源の分光分布(正規化するので、単位はなんでもいい)、R(λ)は物体の分光反射率です(Light SorceのSとReflectanceのRを使ってますが、Sの代わりにEや、Rの代わりにρが使われることもあります)。

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 正規化は、すべての波長において反射率が1の完全拡散反射面に対し、行われます。kの式の分母にはR(λ)があるのですが、全波長において1なので省略されています。よって、Yは完全拡散反射面で100となります。

 このように物体色において正規化をすると、もはやYは輝度(cd / m^2)ではなく、輝度率とかルミナンス・ファクター(Luminance Factor)と呼びます。繰り返しになりますが、「輝度」と呼べるのは単位が「cd / m^2」の時のみ!これ結構守られてないですね。

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