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私が色にハマった理由

 以前も書いたように、色に興味を持ったきっかけは、大学1年の時に「色が積分で表すことができる」=「感覚なのに科学として扱える」と知ったからです。その後、色にハマって、色で飯を喰っていくことになるのですが、なぜそうなったのか、振り返ってみます。

24色の色鉛筆

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 よくよく考えると、子供のころから色が好きだったのかもしれません。これは、大学に入学するときに実家から持ち出し、今でも捨てられない、子供の頃に買ってもらった色鉛筆。1980年代当時、24色の色鉛筆は色数が多い方だった思います。金色や銀色も入っているし、結構うれしかったのを覚えてます(昔なので「はだいろ」となってます)。

 もしかしたら、これが色に興味を持つ最初のきっかけだったのかもしれません。でも、色にハマるといっても、デザイナーにならず、エンジニアになってしまいました。ただし、色彩工学という感覚と工学を行き来する不思議なエンジニアです。


The Dressの話

 少し前に話題になった「青ー黒/白ー金の両方に見えるドレス」は分かりやすい色の錯覚(錯視)の例です。こういう不思議な現象がなぜおこるのだろう?という好奇心が大きく寄与しています。そして、その原因をバシッと解明、説明できる色彩科学や色彩工学のすごさに惚れたというのもあります。

 The Dressの錯視は、ヒトが照明の色を認識し、考慮して、差し引き、なるべく物の表面の色(反射特性)を見ようとする特性が原因で起こります。これにより、どんな照明の下でも、色が安定的に知覚されるため「色の恒常性」と呼ばれています。

 照明が青いと認識すれば、それを差し引こうとし、「青い照明下で青いものは白、オリーブ色のものは金」と捉え、「白-金」に見える。逆に、黄色いと認識すれば、「青-黒」に見える。

 通常は、この特性が不安定になったり、個人差がでることもないのですが、1枚の写真(しかも、周りの環境があまり映ってない)とという、情報の少なさから起こったと考えられます。ちなみに私は、オリジナルの写真ではどうやっても青-黒にしか見えません。

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 実際のThe Dressの画像から色を抽出し、なるべく青ー黒/白ー金に見えるようにしてみました。背景を自然画像にし、また、肌など重要な手掛かりを入れ、情報量を多くすることで、照明光の認識をしやすくしています。

 色の恒常性のデモもご覧ください → コチラ

 色の恒常性を引き起こす重要な機能として「色順応」があります。その名の通り、照明の色に「順応」し、徐々に感じなくなる機能です。そして、この色順応はCIE1976(L*a*b*)色空間にも組み込まれています。

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 ここで、Xw, Yw, Zwは「白=照明」の三刺激値を表します。変数がすべて「白との比」になっているところが、色順応に対応します。比を取ることで、照明が青い環境(Zwが大きい)での青い物体(Zが大きい)は、そんなに青くない(Z/Zwが小さい)、となりますので。また、この色順応の考え方をもっと強化したのが、色の見えモデル(Color Appearance Model)です。


実は、私は"色覚異常"*

*この呼び方は好ましくないことは理解しておりますが、わかりやすく表現するために用いました、ダブルクオーテーションを使ったのもそのためです。最近は「色覚多様性」といった表現が用いられます。


 と書くと大げさになりますが、石原テストでも引っかかったことはないし、幸運にも、日常生活でも全く問題ありません。むしろ、長年のトレーニング?により色の識別能力は高い方だと思います。色を見たら、マンセル値を大体で当てられるので。

 これは、大学4年生の時、明るさマッチングの実験に被験者として参加したところ、長波長側の感度が、CIE標準観測者(CIEが規定する色覚の平均値)より低いという結果となったことで分かりました。

 そのあと、きちんと調べてないので詳細は不明ですが、おそらくL錐体の感度が、標準観測者より短波長側(下のグラフでは左)にシフトして、特定の長波長光に対する感度が低かったのだと思います。

 

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その時は、結構ショックで、「色で喰っていこうと思ったのに、ダメかも。実家に帰ろうかな、、、」とも思いました。恩師の教授に相談したところ、、、

・その程度はよくあること
・色彩の研究者には、そのような方が多い。それがきっかけで色彩に興味を持つようだ

 と話してくれて、すごく安心した記憶があります。先生さすが!

 このような、一般色覚とは異なる色覚の多様性は、日本人男性の場合5%の確率(AB型と同じくらい)で発生するといわれてますし、そもそも、M錐体とL錐体は同じものだったのが、進化の過程で分化しただけなので、その程度が人によって異なるのも当然ともいえます。CIEの標準観測者だって、たった17人(43人?)の平均ですからね(とはいえ、光学系での等色実験はすごくつらいので、その苦労はわかりますが)

 大事なことは、色覚の違いにより差別することではなく、だれでも見やすい色や配色を用いることです。それは、下記のようなことです。

・明度差をつける(縁取りをする)
・色だけでなく、テクスチャ(ハッチング)などでも差をつける

 実は、このような配色は、一般色覚の方にも見やすいんですよね。さらに、白黒印刷でもOKで経済的です。

 また、色覚の多様性は超高齢化社会を向かえるにあたり、ますます重要になります。なぜなら、加齢により水晶体が変色(黄変)するためです。錐体の感度が同じでも、変色の程度が異なると、結果的に、視覚系全体としての多様性が進むことになりますので。


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