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色を科学する その⑦ XYZのトリセツ

 X, Y, Zの各数値が一致したら「色が同じ」と言うためには、いくつかの制約があり、実はかなり非現実的な条件なのです。もちろん、その条件でないと等色が全く成立しない、というわけではないですが、ずれは生じます。XYZ表色系の特性を知り、振り回されないようにするために、そのトリセツを書きました。


1. 大きさが「視角4度以下」の対象に使用すること

 「大きさ」なのに単位が「角度」というのが不思議に感じるかもしれませんが、視覚(「しかく」が2種類あってややこしい、、、)に関係する領域では、物理的な大きさより、網膜上にどのくらいの大きさに投影されるか?が重要です。つまり、物理的に大きいものでも離れていたら、網膜上では小さくなり、逆もまたそうです。結果的に、見るときの対象の角度=視角(Visual Angle)で決まるということです。下図で物体AとBは網膜上では同じ大きさであり、視角も同じです。

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 XYZ表色系の基になったライトとギルドの実験は視角2度(2度視野)で行っていました。視角2度というと、腕を伸ばして持った50円玉の直径と同じくらいと、すごく小さいです。

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 50円玉の直径が2.1cmであり、腕の長さを60cmと仮定すると、視角はタンジェントの逆関数を使って、約2度と計算できます。

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 θ = tan^-1 ( 1.05 / 60 ) *2= 2.0 [deg]


 そして、XYZ表色系の利用は「視角1度~4度」とされています。つまり最大でも、腕を伸ばして持った50円玉二個分くらいの大きさ。ほんと―に小さいですね。


 1-2 なぜ4度以下か?

 ここで、重要なのは「視野の中心(中心視)の4度」ということです。というのも、視野の周辺では、錐体が存在せず、そもそも色が見えないためです。実際には、細かく眼球を動かして視野全体を見ているのと、脳が映像を保管しているのでそうは思わないですが。そして、この視野の中心部は特殊なのです。

 まず、抜群に視力が高い。中心部の特に中心付近は「中心窩」と呼ばれ、錐体が特に多く(桿体はない)、高い視力を持っています。この中心窩では他の細胞(双極細胞や神経節細胞)がなく、錐体にダイレクトに光が入るようになっています。なので、網膜がへこんで少し薄くなってます。


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 余談ですが、夜空で星を見るとき、特定の星に注目すると消えて見えなくなってしまうのも、中心窩には桿体がないためです。暗いところでは桿体が働き、それらは中心窩にはないので。少し目をずらし、視野の周辺で見ようとすると星が見えるようになります。

 そして中心部には、黄斑部(Macula Lutea)と呼ばれる黄色い色素があります。黄斑部は短波長をよく吸収するので、当然黄斑部がある中心部とそれ以外で色覚が異なってきます(というより、そもそも桿体に入ってくる光が違う)。

 そういうこともあり、4度という小さい視野(視角)に制限せざるを得ず、ライトとギルドも余裕をもって2度で実験をしたということです。

 1931年から33年後の1964年、CIEは、視角4度を超える場合に用いる「CIE 1964 測色補助標準観測者」と「CIE 1964 X10Y10Z10表色系」(10は本来は下付き)を発表しています。が、あまり使われていないのが現状です。

 XYZとX10Y10Z10の等色関数を比較すると短波長のzのところで差が出てきます。前述の黄斑部がない網膜部も含まれるのと、X10Y10Z10では中心窩にはなかった桿体の影響が入ってくるためです。

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2. 暗闇での単色に使用すること

 つまりは、暗い夜にポツンとある信号の光、のような状況です。このような状況の色を「無関連色(Unrelated Color)」と呼びます。このような普段あり得ない状況でしかXYZ値の一致=同じ色に見える、となりません。

 なぜなら、「色を科学する その②」で書きましたが、そのような状況↓で実験をしたデータを基に作ったからです。

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 周りに複数の色がある状況や一般のシーン、自然画像のような状況での色は「関連色(Related Color)」と呼ばれ、XYZの一致=同じ色に見える、とは保証していないのです。

 これは、XYZが色順応を考慮していないためです。無関連色のような状況では色順応が起こりません。したがって色の恒常性も成立しないのです。ちなみに、茶色やグレーは無関連色状態では存在しません。これらは「相対的に暗いオレンジや白」を指し、他に色がない場合は比較ができないからです。

 この色順応と色覚の非線形性も考慮し、関連色の状況でも、更には2つの色の置かれている環境が異なる(=順応する色や順応の程度が異なる)場合でも、同じ色に見える(あるいは見えない)ことを扱うのがCIECAM02に代表される色の見えモデル(Color Appearance Model)です。


3. 標準観測者と同じ色覚を持っていること

 これは以前にも書きましたが、あくまで平均的な色覚をベースに作られているので、だれでも個人差により多少のずれはあります。また、加齢により水晶体が変色する影響もあります。どうにもできない場合が多いですが、そいうものだと理解しておくべきです。


 「XYZが同じなのに、同じ色に見えないなぁ」という場合は、以上の1~3が守られているか?を確認してみてください。

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