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シェフ?それとも単なるスタッフ?

 先日某SNS上に「美味しいゆで卵の作り方」と称して、以下のような調理法が投稿されていました。

1:フライパンに1㎝程度水を張り、生卵を浸し、コンロに火を点ける。
2:フライパンの水が沸騰したら、ふたをして5分蒸らす。
3:コンロの火を止めてからさらに5分ふたをしたままにしておく

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出来上がりは黄身が半熟で、白身は固め、いわゆるラーメンの上に載っていると美味しそうに見えるゆで卵が出来上がるうえに、この方法で作ると皮が剥きやすいというメリットもあるそうです。フライパンに入る範囲なら一度に何個作っても、ゆであがり具合は同じということで、実際ラーメン屋さんがトッピング用のゆで卵を作るのにこの方法を用いている例は多いようです。

 私も最初は「あ、コレはいい話聞いたぞ!」と膝を打ったものの、もともとの気質がそれを素直に受け入れられずにいるのを心の片隅に感じていたところ、数日も経たないうちに、ある料理人の方の投稿が我がタイムラインにも流れてきました。

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そうだよな…もう40年近く前、小学校の家庭科の時間で習ったのは

「沸騰した湯に卵を入れる」

だったはず。そうすることで、何分茹でるかで出来上がりをコントロールできる。何が言いたいかというと、この学校で教わった方法、いわゆる基本に忠実だと、作り分けが簡単にできるということ。ゆで卵を作るのに、常にラーメンの上に載せる卵ばかり作るとは限らない、「タマゴサンド」や「ポテトサラダ」に混ぜる卵など、固めに茹でた黄身でないと頼りないですよね。

 最初に紹介した、前者の「卵と水を火にかける」作り方をしたときに、後者の料理人のツイートのようなゆで加減の調整ができるのか?仮にできたとしても非常にコントロールが難しくならないのか、もっというと、使うコンロの火力によっては、急速に加熱されるあるいは加熱に時間がかかるなど個体差があり、そもそもラーメンのトッピング用のゆで卵(上の写真でいう8分、9分レベルの半熟)すら同じように作ることが難しいのではないか、と穿った見方も頭をよぎります。ところが、後者の「沸騰したお湯に卵を入れる」作り方だと、どの固さであろうと、変化させるのは茹でる時間だけ、非常にシンプルになり、どこのキッチンのどんな火力のコンロでどんな材質の鍋を使おうと、どんなタイプのゆで卵を作るにも極めて再現性が高い。

 大将から「俺の言う通り作れ!」と言われるだけの「スタッフ」でいいなら、前者の作り方1本でもいいでしょう、もしそのお店で、ずっと仕込みとして卵を茹でるというのなら…。でもいつか独立して自分でメニューまで考案してオリジナルを世に問う「シェフ」を目指すなら、たとえ回り道でも後者の作り方も知っておいた方がいいに決まっています。ここまで書いてふと思ったのですが、料理人を養成する学校で、基本である後者の作り方を教えない、ということは想像できないし、そういう教育を受けた人間ならそもそも前者の作り方をやる必要もない。ただ、前者(卵と水を一緒に火にかける)しか知らない人間が、何か別のゆで卵を使った料理に挑戦しようとなるとこれは大変な回り道も覚悟しなければならない。

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 ちゃんと教育を受けた料理人の世界では本来全く心配にあたらないような事柄を今回あえて取り上げているのは、この手のことは、治療家の世界なら養成校では国家試験の合格率ばかりが問われ、臨床教育が十分になされていないことが原因で、例えば、前者のゆで卵の作り方のようなモノが「学校では教えてもらえない効率の高い治療法」などと大きくもてはやされているからです。「効率」が、治療が少ない回数で終えられるという意味よりも、患者さんの施術台の占有時間を減らし、回転率を上げるという意味が優先されるようなところほど、そういう基本を無視、あるいは軽視したことを言いがちなのはここを読まれる諸兄ならお気づきでしょう。それに、前者のゆで卵の作り方のような治療法だと、ちょっとしたイレギュラーには対応できない、とも言えますが、患者さんの外傷や症状はみな全く同じですか?

 水と卵に火を点けるか、沸騰したお湯に卵を入れるか、物事には順序があり、その順序には理由があります。どこの整骨院・接骨院にあるモノ

イ:施術者の手を用いた徒手療法・ストレッチング
ロ:ウォーターベッドまたはローラーベッド
ハ:80-150Hzの周波数で不快感を感じない出力での低周波・干渉波

(上記イ・ロ・ハ)を例にして、初回の評価(診断)を終えた2回目以降の施術の場合、これをどういう順序で行いますか?と聞いたとき、ちゃんとその理由をつけて自信をもって答えられる方はどれくらいおられるのでしょう。「前に勤めていたところではこの順序だったので…」はナシでお願いします。いちセラピストとして、なぜそうするのか、をちゃんと答えられるようになっていただきたい、でなければあなたはただの「スタッフ」、誰かに言われたことをやるだけの人です。鍼灸「師」、柔道整復「師」であればなぜ「師」という文字が使われているかわかりますよね。あなたはあなたの考えでもって、施術の内容を決められる「師」となる方なのです。料理の世界でいうと、単なる「スタッフ」ではなく、「シェフ」となりうる存在なのですから…


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