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関節モビライゼーションと私

 現在新型コロナウィルス感染拡大防止のためにセルフロックダウン中ですが、自宅にて、大学教員時代に溜まった書籍や書類の整理をしています。ほとんどは今となっては不要のものばかりなのですが、こんなもの(下の写真)を発見してしまいました。

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 2004年、メリーランド州ボルチモアで開催された全米アスレティックトレーナーズ協会(National Athletic Trainers' Association: NATA)年次総会の初日に行われる、6時間のスペシャル実技ワークショップ、関節モビライゼーションの資料です。ワークショップを担当するのはCathy Carreiro MS, PT, ATC 私の母校、カリフォルニア州立大学フラトン校の学内診療所の理学療法士でATC、恩師の一人でもあります(下の写真、私の右にいる女性、2004年3月撮影)。

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 この方、臨床家としての技術は非常に優れており、セミナー講師としてあちこちから引く手あまたなのですが、アメリカ人同業者の中では非常に珍しく「口よりも手が動く」方で、要するに職人です。で、しかも家族をとても大切にする母親でもあり、二人の(双子の)娘さんの子育てのため、朝早くからは働くけど、午後2時半以降は患者を取らない、という徹底ぶり。今となってはもうその娘さんは大学生になったというのに、そのリズムはもう変わることがなく、そこでの仕事に非常に満足しておられ、野心もなければお金が欲しいわけでもないので本人はその誘いを簡単にお断りする。で、そんなCathy、当時の母校のプログラムディレクター(アスレティックトレーニング教育学科長)がNATA総会の大会実行委員長になり、何か目玉となるワークショップをと企画に苦しんでいた際に、「そんなに企画や人選に苦しんでいるのなら…」と重い腰をあげ(失礼!)西海岸のLAから6時間のフライトを要する東海岸はボルチモアでのワークショップ(全米から多くの参加申し込みがありあっという間に満席になったのを覚えてます)を引き受けたのでした。

 Cathyは職人なので、やるからには、を徹底します。上にあげた資料は82ページに及び、163枚ものスライドが掲載されています(同じく6時間のテクニカ・ガビランのベーシックコースでもスライド108枚やのに…)。ちょうど03年の秋学期は週10時間、アルバイトで彼女のクリニックで働いていたので、手が空くと写真を撮ったり、スライドの手直しをしたりしていました。04年の春学期は、私はもうあと修士論文を仕上げるだけだったので、仕事じゃなくなった後も、よくクリニックに入り浸って手伝いました。私のほうは04年の4月に帰国し国内の大学に就職、6月のNATAは2日目からでしか合流できなかったので、出来上がった資料だけをプリントして先にいただいて帰国したのでした。16年経った今読み返しても、内容はまったく色褪せることはなく、それどころかこの資料からは彼女の実直な性格がにじみ出てくるようです。

 前置きが長くなりました。関節包内で起こる運動を再獲得することで可動域を回復させる、関節モビライゼーションには様々な流派があります。有名なところではFreddy Kaltenborn、Geoffrey Maitland、Stanley ParisそしてBrian Mulliganといったところでしょうか、あとクロスフリクションマッサージで有名なJames Cyriaxや膝蓋靭帯のテーピングで有名なJenny McConnelなんかも関節モビライゼーションの方でもそれなりに知られているようです。Cathyは弟子の私から見たら「Maitlandの技術を基本に、Kaltenbornを織り交ぜ、隠し味にParisを効かせている」要するにいいとこ取りしてる印象で、実際本人もそう言っています。なので素人でも迷うポイントがなくわかりやすく、かつ臨床で結果を残せるスキルとなっていました。普段投球障害の肩を診ることを中心に臨床活動している私には今でも欠かせないスキルの一つ、彼女の住むLong Beach, CAに足を向けては眠れません。

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 日本国内では上に紹介したうちの1つの流派が、4月から12月にかけて関西で、8月を除いた月1回、土日泊りがけのワークショップを開催、第7回(11月)、第8回(12月)に至ってはその流派の生まれた北欧から講師を呼んで、8回全部参加すると総額100万円超え、なんていう話を聞いたことがあります。ただ、それに参加できるのは理学療法士に限る(それにしても、その技術を習得したからといって収入が変わるわけでもない理学療法士の先生方がそんな大金を払って勉強されていることに本当に驚きとともに感心します)とされているらしく柔道整復師でATCの私には縁もゆかりもありませんし、それ以外の流派のワークショップについてはほとんど聞くことがありません。私自身は以前勤務していた大学で開講していた柔道整復治療学の30コマの授業のうち、90分の講義を2回、実技を2回の合計6時間ほど関節モビライゼーションを教えてはいましたが、対象が柔道整復の大学3年生、習ったところで実際に試す場所もなく、卒業して資格を取ったころには、国家試験には出ない範囲なので忘れられている…彼らに教えるには早すぎたのかもと反省しきり、でした(教え子たちよ、ときどき思い出して使ってくれよな、使わないとできなくなってしまうからな)。

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 さて久しぶりに恩師の昔のとはいえ熱い仕事ぶりに触れたことで、私も自分の得た知識や技術を、その価値を本当にわかっていただける方にはお伝えしたいな、という気持ちがまた沸いてきました。今このご時世、まだ多くの人を集めての講習会は難しいかもしれませんが、ご希望があれば企画してみたいと思います。6時間でその理論から、臨床でよく使う、肩関節・足関節の実技まで、くらいがちょうどいいかもしれません。もし「うちでやって!」という奇特な方、おられましたらご連絡くださいませ。一緒に企画しましょう。

連絡はこちらまで:yoshiatc@gmail.com


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