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見た目より中身?中身より見た目?

 ゼミの面談資料、自由記述「キャリアや業界について知りたいこと」の中に、我々の業界の髪型についての規制とか、決まったルールがあるのか?なぜそうなったか教えてほしい、とのこと。 別にルールが決まっているわけじゃないけど、ちゃんとしようよ、とは言うね。特に実習や、学外の人と接触するときとかについては我々教員はうるさく言うのが、君にとってはウザいってのもよくわかるよ、僕も今の君のようなステージを通り過ぎてきたんだからさ。

高校2年からこんなの乗り回して…まあ、調子こいてましたわ。


 君の質問の「なぜそうなったか教えてほしい」っていうのはイイね。理由が理解できれば自分も考えてやってもいい、っていう譲歩の姿勢を感じるからね。

 語れば長くなるけど、しっかりついてきてよ。僕が高校を出たタイミング(1990年)はまだ柔道整復の養成校は2年制の専門学校しかなく、国家試験ではなく都道府県知事免許だったんだよね、翌年から3年制で厚生労働大臣免許に移行したんだけど、それでも専門学校で取れる資格には変わりなかった。当時は日本に13校しか養成校がなく、狭き門だと言われていた(カネとコネの両方がいるとか…)世界で入学できる学生は非常に限られていたんだけど(全国で年間1050人の定員)、そんなの業界の中に居る人しか知らん話で、世間の人からみたら「大学に行かなくてもなれる職業」だったわけ。僕もある飲食店の女将さんから言われたよ「うちの親戚の子もその資格取りに行ってるよ、あの子でも入れる専門学校なんでしょ」ってね。 今世紀に入って4年制大学にも養成カリキュラムができたけど、比率でいうと専門学校9に対して大学1.5くらい、まだまだ世間の目は「誰でも取れる資格」なんだわ(実際そうだし、個人的には、ある条件を満たした専門学校は残っていいけど、基本は4年制大学でしか取れない資格になってはほしい…)。

 でもね「人の身体に触れる」職業って考えたときに、やはり患者さんから敬意を払ってもらえる存在でないとダメってことで、学歴では理解されなくても、見た目くらいはちゃんとしてないと、患者さん、あるいは今後患者となってくれる人は「この人に診てもらおう」と思ってもらえないよね、ということで服装や髪型をちゃんとしよう、と言うようになったわけ。 僕は3年制になってからの2期生にあたるけど、当時の専門学校は授業は座学であっても白衣、それも理科の先生とかが着る長いやつの着用が必須、

この白衣ね…

白衣の下はネクタイを締めろ、とまでは言わないが、せめてボタンのシャツにしろ、夏場は登下校の都合もあるからせめてポロシャツなど襟のついたものを着ろ、とそりゃあもううるさかったさ。 髪型なんてもっとだよ、地毛じゃない色はアウト、僕なんかそれまでずっと競泳やってたもんだから、塩素に負けて髪の毛は茶色だったし、中学校かここは?と思うくらいのがんじがらめ感だったわさ。

 それを思うと今の先生方、ホントよく我慢してるね、っていいたくなるくらい何も言わないよね、学生の服装や髪型に…。こんな話するとさ「あ~やっぱ日本って息苦しい、アメリカなら自由なのに」とか思うかもしれないけど、アメリカで柔道整復師に職域も立ち位置も極めて近い資格を取るために大学に通ったけど、言われたことも、やってることも同じだったよ。

 一応、その資格とるための養成コースに入れるのは僕のいた大学だと、その学部4学年350人のうち、2年後期から4年後期の3学年で20人、学年あたり6~7人の狭き門だったし、実際その養成コースにアクセプトされた学生は通算GPA3.5は当たり前、そんな中に学校にくるときの服装で「腰パン」とか「穴あきジーンズ」なんて当然居ないし、髪型も目が隠れるような前髪とか、ドレッドとかコーンロウとか居なかったし、学校でそんな恰好しようと思う奴もいなかった。それは、僕らの患者さんになる学生アスリートも同じで、ごく一部の「今年1年ココでプレーしたらどこかNBAのチームにドラフトされていなくなるんだろうな」というバスケのスーパースターくらいがそんな恰好してたくらいだわ(タトゥーはアメリカの場合ちょっと別な事情があって、入れていることに目くじら立てる人は少なかったけど、その事情ってまあ日本人の、かなりお堅い部類の僕でもいちおうは理解できるかな…)。
 
 もちろん先生方も厳しくて、夏休みだからと髪をピンクに染めた台湾生まれアメリカ育ちの女子の先輩が、たまたま夏休み期間中にATルームに物を取りに来たところヘッドATに見つかってしまい、1時間近く説教食らってた(のちにこの先輩はLAレイカーズのヘッドATになるんだけど…)のを見たさ。

出世頭だよな、彼女はホントに…

 なんで、アメリカでもそこまで厳しいか、って? ATの社会における認知度の低さを身に染みて感じてるからさ。2022年からATCは大学院でしか養成しなくなったけど、一般人に突撃インタビューしたら「AT?短大卒でなれるんでしょ?」とか普通なわけ。そんな社会的認知のレベルで、「アスリートの健康を守る重要な職種なので、もっと報酬上げてください」って言っても通らないわけ。だから、まずは見た目、と、チームが試合のとき(要するにチームの外の人から見られるとき)の服装も、外の競技なら最低ポロシャツにチノパン、室内競技ならスーツだし髪型は推して知るべしだわな。ちなみにTシャツ・ジャージは(チームウェアのみOK・私物はダメ)練習のときだけ。最近は「それでも砕けすぎ、NATAの総会などのイベントではスーツ義務付けでもいいんじゃない」って声が上がっている。

 本邦の「トレーナー」あるいは「ドクター」など「メディカル」の人たちってやたら選手と同じチームウェア着ているけど、「チームとの一体感」を醸し出したい気持ちはわからなくもないけど、それだから待遇が良くないままなんじゃないかな。本来SC(ストレングスコンディショニングコーチ)の仕事である、アップでピッピ笛吹かされていたり、もしくは足元見られてしまっている…

「この(選手と同じ)ウェア着て、ここに居たいんでしょ?」

という感じで。 まあ、つらつらと書いたけど、自分がなろうとしている職業がちゃんと世の中に認めてもらえるようにするためには大事なことだというのはわかってもらえたかな、それでもその奇抜な髪型でいたいなら、中身(学業の成績や受講の態度)では我々教員側が何の文句もつけられないほどのものを頼みますよ、それくらいの覚悟見せてね、ということで。

 ところで過去の教え子に「金髪セラピスト」をキャッチコピーにしている者がいたけど、その覚悟の上でやってる、ものと好意的に理解しておきますかね。

古い写真だけど、今もそう変わらんよなあ…

あ、ところで日本の若い子が真似したがるLAとかアメリカ大都市近郊の「ギャングファッション」って、そもそも大学には居ない、コスプレネタとして消費している奴はいるけど。普段からそういう恰好してる人がどこにいるか、って?知りたければ連れていってあげるよ、帰りは自分でバスにでも乗って、ね。

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