急成長中の分散型スポーツメディア「Overtime」の躍進から紐解く、Z世代とスポーツ業界を取り巻く2つのメガトレンド【後編:業界考察/Z世代の特徴/将来展望/個人的な感想】
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⚠️このNoteは【前編】からの続きになります。ビジネスモデル、起業家、ファイナンス戦略に関して深堀りたい方は前編から読まれることをお勧めします🙋♂️
【後編】では、何故今このような企業が急成長しているのか、その背後にあるZ世代とスポーツ業界に関する2つのメガトレンドと、Overtimeの今後の展望に関して解説&考察していきます!
企業概要
🏢 企業名:Overtime Sports, Inc.
📱 サービス名:Overtime
🕊Twitter / 📸 Instagram / 📺 Youtube / ♪ TikTok
🗓 創業年:2016年
👨 創業者: Dan Porter(CEO), Zachary Weiner(Cofounder and President)
🌎 本拠地:New York, United States
💰 累計資金調達額:$140M (約150億円)
👥 従業員数:130名
Overtimeとは、端的に言うと、アマチュアスポーツ専門の総合メディアプラットフォームです。上記のように、YoutubeやTikTok、Instagramなどにそれぞれチャンネルを持ち、様々な動画を配信しています。ジャンルとしては、高校バスケから始まり、現在では他にも、アメフト、サッカー、eSportsなどカバーする領域を少しづつ拡大させています。
現在、毎月15億回以上の再生回数を誇り、全7個のプラットフォームでの総フォロワー数は4000万人を超えています。また学生スポーツが主なコンテンツであるため、35歳以下のユーザーが全体の88%を占めます。まさにZ世代によるZ世代のためのスポーツメディアといった様相で、若年層からの支持をガッチリ掴んでいることが窺えます。
WHY NOW?-なぜ急成長しているのか-
以上のような多種多様なコンテンツを展開し、若者から支持を獲得しつつあるOvertimeですが、何故今ここまで受け入れられつつあるのでしょうか。
提供しているサービスのクオリティの高さは勿論ですが、それ以外にも、成長の背後にスポーツメディアビジネスとZ世代に関する2つのメガトレンドが関係しているのではないかと個人的に考えています。
メガトレンド その①:多くのトップスポーツリーグやスポーツ専門チャンネルの視聴者数の減少傾向と高齢化 📺📉まず前提として、スポーツリーグの最大の収入源はテレビ等に関連する放映権料です。ここ数十年、オリンピックやW杯のような国際大会や米欧中日のプロスポーツリーグを中心に放映権料は継続的に増加しています。その主な要因は、メディア権やスポンサーシップ収入の急増です。ここ数十年、オリンピックやトッププロスポーツリーグを中心に放映権料は継続的に増加しています。例えば、世界で最も収益を稼ぎ出すプロスポーツリーグであるNFLの放映権料収入は1997年の11億ドルから2017年には73億ドルに増加しています。このような放映権料の高騰に対応して、多くのプロスポーツチームの価値や選手年棒も高騰し続けています。Forbesが発表しているランキングでは、NFLのダラスカウボーイズが世界一位となり、そのチーム価値は57億ドルと、1989年の1億5,000万ドルから40倍弱にまで高騰しています(ちなみにメルカリ社が広告出稿したNFLのスーパーボウルのハーフタイム間CMは30秒枠でなんと550万ドルもの予算がかかっているとのこと!💸)。これまでは既存メディアでの高い視聴率、そして広告効果が見込まれていたためこのような高騰が許容されてきた側面があります。
このように一見絶好調のように見えるスポーツビジネス業界ですが、その根幹である放映権料を担保している、テレビ視聴者自体が若者を中心に減少しています。スポーツ中継に関してこの傾向は特に顕著です。
2020年は多くの制限がある中でシーズンを迎えたリーグも多かったため視聴者数が減少したのは仕方ないことかと思います。ただこのトレンドは昨年新たに始まったものではなく、2010年代から顕著に表れていた世界的なメガトレンドの一つなのです。例えば、ディズニー傘下で世界最大のスポーツメディアであるESPNの契約者数は2011年に1億人を超えたのをピークに一貫して減少傾向にあります。
ちなみに、日本を例にとっても若年層を中心にスポーツの視聴環境がテレビから、モバイル端末中心に変わってきていることに変わりありません。
この背後にあるのは、従来のケーブルテレビ等による視聴体験から、よりオンデマンドなストリーミング・プラットフォームや短尺動画メディアへの移行というトレンドです。
若者たちは他の世代と同様、スポーツが好きだという人は少なくありません、ただその楽しみ方がこれまでとは違うだけなのです。
個人的にも以前より最近は特別な試合以外をフルで視聴することはかなり減ってしまったなと体感しています。
「ミレニアル世代は、テレビを見ないし、テレビを持っていないし、ケーブルテレビにも加入していない。だからこそ、そのような視聴者を取り込まなければならない。」と、NFLのニューイングランド・ペイトリオッツのオーナーであるロバート・クラフト氏は2017年のインタビューで語っています。これはOvertimeが誕生した翌年のことです。
メガトレンド その②:Z世代の思考傾向から生じる新たなニーズ ⏳💭
Z世代の定義は国や機関によって様々なのですが、基本的には1995年~2000年代にかけて生まれた世代のことを指し、現在世界人口のおよそ3分の1を占めています。そのZ世代から厚い支持を得つつあるOvertimeですが、その背後には、「集中力」と「共感」という2つのキーワードが隠されていると個人的に考えています。
まず「集中力」に関して、これは「テレビからモバイルへ」という流れの背後にある要因の一つかもしれませんが、基本的にZ世代は一つのコンテンツに集中力を注ぎ続けることが他の世代と比べて苦手な傾向が見られます。
人類史上初めてのデジタルネイティブ、そしてスマホファースト世代である僕たちZ世代は、物心着いた時からデジタルデバイスに触れ続けてきていますが、ここ10年でニコ動、Vine、Twitter、Youtube、Snapchat、Instagram、そしてTiktok等々膨大な数のエンタメコンテンツをレコメンドされ続け、それらを日々大量に消費してきています。そのため数時間単位で一つのコンテンツに集中するということに合理性が無くなってきているのではないでしょうか。しかも最近はより短尺かつパーソナライズドされたコンテンツも多く、余計その傾向に拍車が掛かっているような感覚があります。また、集中力が続きづらい原因の一つとして、Z世代は他の世代に比べてよりマルチタスカーであるという傾向も関係してそうです。Z世代の多くは常に様々なコンテンツを行き来しているため、どうしても一つのコンテンツあたりの可処分時間は分散されてしまいがちです。
「子供たちは15秒以上のコンテンツは受け付けないという誤解があると思いますが、そんなことはありません。彼らはNetflixの番組は喜んで見ています。しかし、NBAの試合やスーパーボウルを3時間も連続で見たいとは思っていません。子供たちはスポーツが好きだけど、既存のスポーツメディア企業が力を入れてきたメインコンテンツを欲しているわけではないのです。」、「ライブではなく、ストーリー形式で伝えたり、ハイライトを流したりして、視聴者が望む形で提供した方が、より多くの子供たちや視聴者の関心を集めることができると考えています。」と創業者の2人は語っています。
次に「共感」の部分に関してです。前述のようにデジタルネイティブ世代とも言われるZ世代ですが、このデジタル化の進展と同時に個人のエンパワーメントがここ10年ほどで一気に進みました。そのような中で個性を色濃く発信するインフルエンサーという存在が誕生し、今では当たり前のものになりつつあります。SNSと影響力を持った個々人、この2つを通して様々な意見に日常的に触れることにより、Z世代は他の世代と比較して多様性に寛容であり、変な脚色のないリアルなものなのかどうかということへのこだわりが強い傾向が見られます。
Z世代とは往々にして清廉潔白で完璧な既存のスーパースターではなく、人間味に溢れ、よりリアルに感じられるような、どちらかと言うと友達に近いインフルエンサーに対して共感を示すのです。
Overtimeでは、既存のスポーツメディアでは深堀りすることのできていなかった、リアルなアマチュア選手個々人たちの人間性やストーリーに触れることができます。友情、恋愛、キャリアなど、自分自身と似た等身大の葛藤を抱える将来のスターに共感し、直接応援することができる...、これがZ世代を中心とした若年層ユーザーから支持を集めている理由の一つかと思います。
また、これまでのコンテンツ像としては、あくまで試合が主であり、選手個人の練習風景やプライベートなどはあってもおまけのような扱いでした。しかし今後若いファンを獲得していく上では、より個性が見える、後者のような発信から共感を生み出していくことが以前に増して重要になってくるのはほぼ間違いないでしょう。
スタジアムでの現地観戦という非日常的な体験は今後も支持されるかと思いますが、そこでもZ世代は観戦しながら選手のインスタアカウントを見たがるでしょうし、ましてや3時間の試合をテレビでただ漫然と観るより、5分のハイライトと選手個々人の活躍やインタビューを抜き出したクリップをスマホで観ることを若者は好みます。
下のスクショは恐らく日本のプロスポーツチームの中で最もチャンネル登録者数が多い読売ジャイアンツのチャンネルの再生回数上位の動画です。
これを見て驚くのが、権利的な事情で試合自体のハイライト動画はアップされていないにも関わらず、これだけの人気(登録者数40万人越え、コンスタントに10〜数十万再生)を獲得しているということです。これまでテレビで取り上げられることのなかった選手たちの素顔やチームの雰囲気が見て取れる短尺のちょっとした日常系動画でも、これだけの人々に求められる程のポテンシャルを秘めているのです。
NFLのCMOを務めるブラウニング氏は「若者たちはまずアスリートを追いかけ、次にクラブチームを追いかけ、さらにリーグを追いかけている。ここにスポーツ界の変化が見られる。」と言います。
※ちなみに、上記のように選手やチーム、そしてリーグ自体が、個性やスタンスをしっかり示しすことで若年層からの支持を伸ばしているのがNBAです。リーグのコアファンの40%は35歳以下で、SNS上には約1億4,800万人のフォロワーがいますが、これは米国の他の主要スポーツリーグを合わせた数よりも多く、過去3年間でSNSでの閲覧数を43%増加させることに成功しています(この辺りの細かい施策や選手個人の動きに関してはどこかで別途アウトプットしたいと思ってます)。
今後の展望
創業者のいくつかのインタビューでも言及されているように、Overtimeが長期的な目線で構想している世界観は「次世代(若者だけでなく新しいスポーツの楽しみ方を求める全ての人)のためのグローバルスポーツブランドとそのコミュニティの構築」にあります。
その壮大な目標の実現のために、既存のサービスに加え、いくつか新たな施策を打ち出し始めています。
スポーツジャンルと対象地域の拡大
当初アマチュアバスケから始まったOvertimeですが、その後アメフト、サッカーをメディアブランドに加え、スポーツ産業の中で最も成長著しい分野であるeSports領域にもメディアブランド構築やチーム買収を通じ進出し始めています。
また、現状はアメリカで人気なスポーツにコンテンツが集中していますが、将来的にはよりグローバルで、各地域のアマチュアスポーツに進出する構想を持っているとのことです。まさに次世代のスポーツメディア帝国といった様相ですね。
自社IPの構築
なんと、Overtimeではアマチュアバスケの新リーグ設立に向けての取り組みがスタートしています。今年9月には、男子高校生のトッププレーヤーによるバスケットボールリーグ「Overtime Elite」が開始される予定です。
このリーグは、約30名の未来のトッププロスペクト選手たちがリーグ戦を闘いながら、世界レベルのコーチング、最先端のスポーツ科学とパフォーマンス技術、一流の施設、高校卒業資格取得のための学業等を組み合わせた年間を通じての育成プログラムを提供するというもので、各選手のプロへの道のりを支援する仕組みになっています。
各選手は、最低でも年間10万ドルの給与が保証され、それに加えてボーナスやオーバータイムの株式を取得することもできます。また、オリジナルアパレル、トレーディングカード、ビデオゲーム、NFTなどの販売を通じて、自らの肖像権を使用した収益を得ることができます。また、プロとしてのキャリアを歩まない場合は、大学の授業料として最大10万ドルの支払いが保証されるとのことです。
このような選手本意かつ、新しい形のIP創出は個人的にかなり有意義かつ面白いんじゃないかと思っています。他スポーツにも応用が効きやすいようなモデルでもあるという印象ですが、この取り組みがある程度上手くいけば実際に他スポーツにも横展開されるのではないでしょうか。
このような全く新しいIPの創出によって、スポンサーシップ、ライセンス契約や物販などを通じて、新たな収入を得ることができるとOvertimeは期待しているとのことです。
個人的な感想
全体的に、本当に時流に上手く乗ったサービスだなという印象を持っています。より短くて質の高い(ただ単に画質が良いとかだけでなく)動画にコンテンツ消費の軸が移っていく流れは今後もある程度続いていくと考えていますが、そのような中長期的なトレンドの中で、Overtimeは更にグローバルに拡大する余地を秘めていると考えています。
ただ、プロではない高校生をはじめとしたアマチュア選手にフォーカスすることによる弊害も今後必ず増えてくるかと思います。一般人が国を超えた数百、数千万人のフォロワーに対して発信力を持つという状態はひと昔前では考えられないことでした。これは確実に選手個々人に対してメリットとデメリットの両方をもたらします。SNS等を発端とする、若年層を中心とした精神的なものを含め様々な問題が生じてしまっていることは既に周知のことでしょう。
個人的にOvertimeにとても好感が持てるのは、アマチュア選手たちに多くの可能性を与え個々人をエンパワーメントしているだけでなく、影響力を持つことによる負の側面を取り除こうと企業として取り組んでいる点です。例えば上述のOvertime Eliteでは、自らの影響力の取扱い方や金融リテラシー等に関してもしっかり教育する仕組みが用意する予定だと発表されています。
個人的にこのようなアマチュアスポーツにフォーカスしたサービスが日本にも出てきたら面白いんじゃないかと思っています。そもそも日本はNPBをはじめとしてなかなか大きなスポーツリーグを抱えていたりと、世界的に見てもスポーツ市場の規模はかなり大きく、ある程度の素地はあると見ています。
そして、甲子園や冬の国立や花園、もしくは駅伝や六大学野球など、アマチュアスポーツに関しても、それぞれ数多くのドラマと歴史を持ち、国民に長く親しまれてきました。最近ではeSportsの盛り上がりも合わせて、このようなアマチュアスポーツを更に深ぼりたいというニーズはある程度あるのではないでしょうか。自分自身昔から熱闘甲子園を見る度に、こういう選手たちの情報をもっと深ぼってくれる番組か何かがあればいいのにな〜とずっと思ってきましたし、より選手やチームにフォーカスした情報源を合わせて試合やスポーツ全体を濃く楽しみたいというニーズがあります。
上述したような選手のプライバシーや影響力をどう扱っていくかという課題はあれど、こういったサービスがアマチュア選手たちの可能性を大幅に広げつつ、各スポーツ業界の発展に寄与するという事実はOvertimeの例を見れば明らかです。
是非こういったメガトレンドやニーズに挑戦してみたいという方がいれば一緒にディスカッションさせていただければ嬉しいです。いつでもお気軽にお声がけください!!
ではまた次のNoteでお会いしましょう!🙋♂️
【参考文献&引用文献】
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Spark invests in Overtime
Overtime Co-Founder Zack Weiner On Evolving Nature How Fans Consume, Share Content Socially
Dan Porter Interview, CEO of Overtime
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Episode 32: Dan Porter and Zack Wiener, co-founders of Overtime, the digital sport platform, on the launch of their disruptive new pro hoops league, Overtime Elite, and their formula for growing Overtime’s community.
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