実験・調査実習は遠隔授業で可能なのか #1 質問紙型の場合

筆者は,地方の中小規模の私大で心理学を教えています。同業の皆さんはこのコロナ・パンデミックの中,同じような悩みを抱えていることと思います。

「授業のオンライン化とは言うけど,講義はともかく,演習とか実習とかどうしたらいいんだべか」

私自身も,いままで授業の遠隔化について,あまり積極的に取り組んで来てませんでしたし,そもそも専門家じゃないので,どうしたらいいのかは正直言ってわかりません。講義は90分のライブ配信は色々ときつそうだから,e-learning システムを使おうか(勤務校では Moodle が用意されているので,慌てて勉強してます)とか,演習(ゼミ)なら研究ミーティングみたいなもんだし人数も少ないから zoom とか Slack とか駆使すればなんとかなるか,とか漠然と考えている程度です。

しかし,そういった手段が使えず悩ましいのが実習科目ですよね。心理学を看板に掲げている学科・専攻では,ほぼ確実に1,2年次あたりにいわゆる「基礎実験」的な実習科目が配されていることと思います。これまでの標準的なやり方だと,受講生が教室・実習室に集まって,場合によっては小グループに分かれて実験を行い,データを集めて分析の後,レポートを書く,というスタイルになるでしょうか。この中で「実験を行い」の部分は遠隔化がとても難しいところだと思います。集まったデータを1つのファイルにして,分析を行うことと,レポートを書くという部分はやり方次第で,遠隔化はそんなに難しくないと思います(もちろん,教材をきちんと整備するということは大前提ですが)。

そこで,いわゆる心理学の初等実験実習という授業の中で,実験を行うという部分に特化して,どのような方法があるかを考えてみました。もちろん,ここに書かれていることが全てではないですし,他にもっと良い方法もあると思います。とりあえず,情報収集の入り口くらいのつもりで見ていただけますと幸いです。一応の選択基準は,自前でサーバを立ち上げる必要があるなど,前準備が面倒なものは基本的に対象外としています。

なお,中には自分では試したことのないものも入っています。経験が無いものについては,その旨を書いてありますので,話半分でご覧ください。それでは,まず質問紙を配って行うタイプの実験です(調査実習にも当てはまると思います)。

Qualtrics [有料]

説明するまでもなく,トップクラスの価格と機能を併せ持つ調査環境ですね。

お高いだけに,できることも豊富です(質問の順序のランダム化はもちろん,ランダム化したうえで1ページあたりの質問数を指定したりとか,ブロックごとのランダム化とか,終了の分岐とか,まあほんとに色々)。ただし,無料アカウントはほとんど使い物になりません。本当にお試しのみ。ライセンスをお持ちであれば,間違いなくオススメ。ペーパー・アンド・ペンシルタイプのものであれば,調査であれ実験であれほぼ何でもできます。紙の冊子では不可能な動画の再生ももちろん可。回答者は基本的にマウスでポチポチ(モバイルならタップ)で進んでいきますが,質問によってはテキスト入力も可。反応の種類もラジオボタン,複数選択ボタン,スライダー,並べ替え,合計が特定の値になるよう割り振るとかいろいろあります。回答に要した時間も測定可能です。工夫すれば,一部の認知・行動実験も実施可(#2 実験の場合で少し述べる予定)。

なお,価格はライセンス形態によってだいぶ違うようです。以前一人で契約していたときは年間で15万くらい。今は学内の複数の教員と,invoice にそれぞれへの請求を書いてもらうようにして,チームライセンスで使っています(ただ,その辺の支出が可能かどうかは,大学の会計基準によると思いますので,保証はいたしかねます)。チームライセンスにすると,1人あたりの価格はだいぶ下がります。チームでの利用だと5ライセンスからのプランが最小かな?と思います(例えば,研究費で払うことを想定してますが,5人でお金を出し合うと↑の個人契約よりは大分安いです)。ただ,公式サイトにその辺の記載がないので,直接セールスにコンタクトをとる必要があります。もっと大規模な組織ライセンスは使ったことがないのでわかりません。

SurveyMonkey [有料]

こちらも有名なオンライン調査ソフトです。Qualtrics よりは安いです。

Qualtrics ほど色々な機能はないですが,ペーパー・アンド・ペンシルタイプの実験・調査をする範囲では必要な機能はそろっていると思います。無料のプランだと項目数が10,40件までしか収集できません。なので,本当にお試しのみ。ですが,有償契約をしても最高グレードの契約にしない限り,Qualtrics よりは安いです。以前,ちょっとだけ一番安い標準月間プランを使ってました。いわゆる調査というか,質問紙型のものであれば問題ないと思います。ただし,使っていたのがかれこれ5年ほど前なので,その頃と今がどの程度違うのかはわかりかねます。

Google Forms [無料]

おなじみ Google の無料フォームです。

一番の売りは,無料であることと,回答を直接 Google スプレッドシートに出力できることでしょうか。ただし,できることはだいぶ限られます。質問のランダム化とかはできませんし,回答による分岐などもできません。フォーマットが完全に固定した質問紙型の調査をちょっとするくらいなら問題ないです。なので,基礎実験に限った利用であれば,多くの場合はこれでいいのかもしれません。あと,日本語のリソースがふんだんにあります。そこも利点かも。

Google Forms をつかった調査の場合は,

あたりも参考になると思います。なお,私自身はちゃんとした調査では使ったことはありません。簡単なアンケートくらいならありますが。

QuestionPro [有料]

最近,twitter で知ったオンライン調査ソフトです。

まだ,テストでしか使っていません。有料契約をしないと機能はだいぶ制限されますが,基本的な機能は備えていますし,質問のタイプも豊富です(スキップロジックも使えます)。インターフェースは Qualtrics より良いかも。無料契約で一つ良いなと思うのは,1調査あたりの回答数は1000に制限されてます(実習なら問題ないですよね)が,調査は無制限で作成可能ですし,質問数の制限もありません。ただし,終了メッセージなどは自由度が低く,末尾に QuestionPro で調査をしましょう,的なリンクが表示されるので,学生がその辺のリンクを踏まないように注意する必要があります。あと,例えば調査に同意しない場合は終了する,ということを実現しようとすると,同意しないを選択した人が - Terminate Survey - という分岐をするように設定するのですが,そのメッセージが「あなたはこの調査に参加する基準を満たしていません」的な,やや不穏なメッセージになっています(変更できるのかどうかはしりません)。ちなみに,調査の言語は日本語に設定できますが,QuestionPro  のサイト自体は英語ですので,調査を作成する側は全て英語で作業する必要があります。なお,Qualtrics のような多言語サーベイを実装するためには,有料契約が必要です。まあ,有料契約が必要なオプションは Upgrade というサインがついているのでわかりやすいです。

なので,うまいこと環境整備ができれば,授業で使う分には困らないと思います。 ただひとつだけ,公式サイトの日本語訳,おまえはダメだ(もろ機械翻訳チック)。

まとめというか

さて,まずは調査に使える環境を眺めてみましたが,まあ結論から言えばお金をかければ良いものが使えるのは当たり前なので,これを気に自分の研究の実験や調査について,オンラインも併用することを考えているなら,思い切って有料のサービスを契約するのも手です。予算がねえよ,という場合は QuestionPro とか,Google Forms あたりでしょうか。どちらが良いかは,それぞれの事情によって異なると思いますので,無料アカウントでできる範囲で色々と試していただくのが良いかと思います。

なお,調査実習の中で対面でのインタビューの実習が含まれる場合は,この方法は使えないです。私自身は,いわゆる面接手法を自分の研究で使ったことがないので,こちらについてはどうしたら良いか思いつきません。面接型の実習については,他に詳しい解説をご覧ください。

次回はオンラインで認知実験を行う場合についてまとめてみたいとおもいます。

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