実験・調査実習は遠隔授業で可能なのか #2 実験の場合 (3) 無料ソフトウェア編

はい,長くなりました実験編の (3),前回に引き続いて,無料版の解説です。

ただし,無料と言っても全てが無料ではありません。実験プログラムの作成にかかる部分は無料でも,公開してデータをとるとなるとその部分で有料のサービスが必要だったり,実験自体を走らせるサーバの契約が必要だったりします。その辺はご了承ください。

jsPsych

これ自体は,いわゆるアプリケーションではなく,javascript のライブラリ集です。

jsPsych で実験を行う場合は,ライブラリをダウンロードして,手元で画面表示用の HTML や css と,裏でのさまざまな処理をする javascript の両方を自分で作る必要があります。ですので,プログラミング経験がないとちょっと大変かもしれません。あと,jsPsych を使った実験はブラウザで実行できますので,必ずしもサーバ上になくても,実験自体はできます。その場合は,一連のファイルを全て参加者にダウンロードしてもらって,結果だけ返送してもらうという方法になりますかね。実際の研究では,そのような方法は使えませんが,実習用途としてはアリと言えばアリかもしれません。ただ,参加者になる学生が,きちんとそのようなタスクをこなせるかどうかは見極める必要があります。その場合は,教員がどこかのサーバ上に実験環境を構築して,そこにアクセスさせてデータをとるという方が安全でしょうか。

なお,jsPsych を使った心理学実験については,すでにいくつものページやプロジェクトが立ち上がっています。すでに,

こんな猛者揃いのプロジェクトとか,

こんな素晴らしいまとめがあるので,そちらをご覧くださいませ。

(追記)こんなサイトも見つけてしまった。

PsychoPy

python  ベースの実験環境構築ソフトです。

十河先生の Web,書籍で有名な PsychoPy,すでに使ったことのある人もいらっしゃいますよね。

PsychoPy,以前はスタンドアローンの PC でしか動きませんでした。が,ver.3 になってオンライン実験に対応しました。PsychoPy のチームが作成した Pavlovia.org というサービスと連携していますので,PsychoPy -> Pavlovia という順序でオンライン実験を簡単に実行できます(多分,です。すいません。私はまだ試してないです)。Pavlovia,以前は Welcome Trust の支援を受けていて無料で使えましたが,今は有料になっています (価格は Docs -> Store -> Pricing で進んで見ることができます)。

参加者一人あたりでは 0.2£ の従量課金,サイトライセンスだと1年あたり 1,500£ となっています。環境構築ソフトの機能がない分,ちょっとお安いようです。なお,Pavlovia では,PsychoPy だけでなく,先に述べた jsPsych や,lab.js というツールで作成された実験も実行できるようです。

OpenSesame

PsychoPy とは別ですが,同じく python ベースで作成された実験環境構築ソフトです。

こちらは,実験画面の設計をドラッグアンドドロップでオブジェクトを配置していくような感じで行います。細かな制御がしたい時は Python のスクリプトを挟むことでいろいろ可能になります。割と簡単に実験を作成することができるので,私の指導しているゼミ生で実験室実験が必要な学生にはこのソフトを勧めています(マニュアルとサンプル見て作っといてー,といういい加減な指導でも割とものになってます)。

PsychoPy と同様,ソフト自体はオープンソースで無料で利用できますので,学生にソフトをインストールさせて,手元で実験を行わせるという方法も使えると思います(実行するだけなら操作は難しくありません)。結果が CSV ファイルで保存されるので,それをメールとかで送ってもらえば,後は全員分をマージするだけで良いです。ちなみに勤務校では,情報実習室で,一人一台PCを使って OpenSesame で実験させ,できあがった CSV ファイルをメールで送らせて,マージという方法をとっています(した)。慣れれば最後に実験を終えた学生の終了時刻プラス15分くらいで全員分のデータを1つのファイルにして提供できます。

OpenSesame で作られた実験も,オンライン上で実行することができます (OSWeb という javascript ライブラリを使います)。ただし,OpenSesame  で作られた実験を実行するためには,JATOS というサーバツールを,自分で用意したサーバ上に置く必要があります。

ですので,OpenSesame で作った実験をオンライン上で実行するためには,サーバを自前で用意しなければならない,という点は考慮する必要があります。ただ,JATOS のインストール自体は大して難しくなく,Web サーバにシェルでログインできる環境があれば,必要なパッケージ (zip) をアップロードして解凍し,JATOS のスタートスクリプトを実行するだけです。

外部のサーバではまだ試していませんが,手元にある iMac で HTTP サーバを立ち上げてテストした限りでは,あっけなく成功しました。

公式マニュアルが,OSWeb  のものと,JATOS のものが分かれていますので,両方に目を通してください。

また,ちょっと注意が必要なのはデスクトップアプリで作成した実験の機能が全て OSWeb で使えるわけではないということ,python スクリプトは javascript に置き換えなければいけないというところです。OSWeb を使った実験については,また改めてテストしてみたいと思います。

なお,OpenSesame については,公式サイトにサンプルプログラムもありますが,以下に3つほど,拙作のプログラムも置いておきます(急ごしらえで十分なテストをしていませんが,サイモン効果は,勤務校の実習で使ったものをちょっと変更しただけなので,大丈夫だろうと思います)。OpenSesame というフォルダにあります。

PsyToolkit

さて,無料版,最後のソフトです。PsyToolkit,完全無料で使えるブラウザベースの実験環境です。

これで実験して論文書くなら,きちんと引用してねとか,寄付してねとか,SNSで広めてね,とかいろんなお願いはされますが,使うだけなら無料です。そんなこんなで色々と書いているうちに

やばい。ハードル上がりました。実は PsyToolkit 使ったことないなんて言えない...

はい,白状しますが,大分昔から存在だけは知っていて,使おうかなあどうしようかなあと迷っているうちに,自分とこの心理学実験実習用には OpenSesame でいいんじゃね?ということになり(本学の情報センターは,一年ごとにインストールするソフトウェアの見直しをかけますが,授業で使うんです!というと,オープンソースソフトなら割とフレキシブルにインストールしてくれるのです),そのまま使わずじまいで来てしまいました。

その後,オンライン研究を始めてからも,昔の Qualtrics では QRTEngine というサードパーティーの javascript ライブラリが使えたりしたので,それでなんとかなってしまっていたのでした。

※ なお,この QRTEngine ですが,Qualtrics の大幅な改変に伴って,開発維持困難ということで現在は終了しています。残念。

その後は,反応時間を測定するような実験はほとんどやっておらず,今年のこの騒ぎがあるまでは色々挙げたサービスを眺めながら,ちまちまとテストだけをしていたのでした。

ということで,PsyToolkit の解説を書けるほど,経験はありませんので,今の段階ではご紹介するだけでお許しくださいませ。ちなみに,サンプルを見る限りでは,Inquisit に似た,色々なパラメータを設定ファイルに順に書いていくタイプのようです。他のソフトもそうなのですが,サンプル見ながら勉強するのが一番手っ取り早いと思います。PsyToolkit については,後日また改めて何か書くかもしれません。

[追記] oTree

行動経済学とか経済ゲーム実験とか,インタラクションを含むような実験をPC,さらにはオンライン上で行うツールです。PsychoPy や OpenSesame と同じように Python ベースのソフトです。

そういえば,いつだったかの認知科学会のオーガナイズドセッションでこのツールの話を聞いていて,すっかり忘れていました。このソフトについては,私は全くの未経験ですので,詳しくは,以下のサイトなどをご覧下さい。

信頼ゲーム,公共財ゲームの例が載っています。また,外部サイトでオンライン実施する例として,Amazon Web Service での設定の仕方が載っています。

さて,ソフトウェアの紹介はこの辺りで終わりにしたいと思います。こんなソフトあるよ,とか教えていただければ,後日加筆するかもしれません(いや,むしろ書いていただければ,喜んでリンクさせていただきます)。オンラインで実験実習をする場合,いくつか注意しなければならない点があります。これについては,近日中にまた改めてまとめを作りたいと思います。

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