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【Vol.10 グローバル人材インタビュー】日本を代表するグローバルカンパニーS社経営企画担当に聞く、Postコロナの働き方。リアルとバーチャルの組合せによる効率化が企業の競争力を左右する

松澤篤樹(以下、あき)
入社4年目でビジネスプランニングマネジャーとしてオランダに駐在。その後アメリカ、ドイツ、スウェーデンを渡り歩き海外駐在経験も通算10年を超える。日本に帰国後、民生並びに業務用イメージング関連事業等に携わり、現在は副部門長職として経営企画業務に従事。グロービス経営大学院卒 MBA

あやの
 コロナの話に入る前に、あきさんの海外業務経験について少しお話しを聞かせて下さい。入社後4年目で海外駐在となるのはとても異例だと思いますが、何か特筆すべき点があったのでしょうか?

あき
 私がS社に入社したいと思ったのは、元々グローバル展開している会社で仕事をしたいと思っていたからです。それが一つの大きな入社動機でした。入社当初から思っていたのは、グローバルで活躍したいという事、それから将来経営に携わり自分で会社を動かしたいという2点でした。海外駐在が早い段階で経験出来たのは、上司にも恵まれていたからだと思います。自分が海外に出たいと言い続けていたというのもありますが、当時の上司が私にチャンスをくれたおかげです。今では非常に感謝しています。


1.海外で働くことの苦労と魅力について

よし
 私も海外駐在を通じて、多くの苦労を経験して来ました。それとともに海外で働く事の魅力も沢山得て来ました。あきさんにとって、何が海外で働く事の苦労であり、魅力だったのか教えて頂けますか?

あき
 スウェーデンである会社とジョイントベンチャーを設立するというプロジェクトに参画しました。一番の苦労は、まず会社が異なるという時点で会社間の文化の違いがあり、それに加えて国民性の違いがあるという2重のチャレンジがありました。

 スウェーデンでは、働き方の価値観が日本人と大きく異なります。個人的見解ですが、背景としてスウェーデンの税制と社会保障の影響があると思います。スウェーデンの税制は所得税50%以上(限界税率)、それから消費税も25%と高率であり、「学校や医療、そして年金などの社会保障は基本的に国が面倒を見るもの」と考えられています。子供の学費の為に個人が自分の時間を切り詰めて働こうという価値観はあまりありません。

 そんな中、プロジェクトでやるべき事をリストアップし、モチベーションを高めようとしても、仕事に対する価値観が異なる彼らには響かず、逆に日本のマネジメント層からはプレッシャーをかけられ、その板挟みになって立ち行かなくなりました。それが異文化の中で働く苦労を味わった最初の経験でした。

 一方、海外で働く事の魅力と言えば、一つは日本で働いていた時よりも相対的に高いポジションにつき、年齢に関わらず組織の代表に近い責任ある仕事を遂行できた事です。入社4年目でオランダに駐在した際も、マネジャーという立場で4名の部下を持ちました。駐在地では会社の代表に近い立場で他社の方々とも話をします。日本にいた時には会話出来ないようなシニアな人達と直接会話が出来る上、自分が本社に提出するレポートもマネジメントの方々が真剣に読んで頂き、私の話も真剣に聞いてくれました。

 私にとっては早い段階で海外駐在の機会を頂き、良い意味で背伸びをする経験を持ち、視野を広げられたことが、今の私の土台になっていています。駐在経験は自分自身のその後のステップアップやキャリアを考える出発点になったと思います。


2.海外勤務を通じて変化した価値観とは?


あやの
 あきさんご自身の価値観も、海外業務を通じて大きく変化しましたか?

あき
 世界観が広がったと言うか、それまでの自分の考え方は常に直球的な考えでした。つまり、「自分が正しいことをやっていれば、必ず正しい答えが出る」みたいな思い込みがありました。ですが、異文化の中では、「最終的に正しい答えを出す為には、価値観の違いにより、何パターンもアプローチがある」という事に気づかされました。自分が成し遂げたい事を実現するためには、何をしなければならないか、誰を動かさないといけないか、そんな事を深く考えられるようになりました。

3.Withコロナの在宅勤務で見えた課題とは?


よし
 それでは、コロナが会社と個人に与える影響について話を聞きたいと思います。あきさんの会社は海外売上高比率も非常に高いと思いますが、現在の会社の状況とあきさんご自身の状況について、どのような影響があったかをお聞かせ下さい。

あき
 会社への影響という観点では、私の担当領域の一つでもあるカメラのような趣向性が強く、必需品ではない高額商品ほど、お客様としては手控えるところがあり、影響を受けていると思います。一方、在宅が増えた為、ゲーム関連や、WEB会議のようにリモートと親和性があるような商品に関しては需要が伸びています。

 私自身に関して言うと、非常事態宣言が出てから会社には一度も行っていません。約2ヶ月在宅勤務という状況が続いています。非常事態宣言前後も、一日中ほぼ打ち合わせが詰まっているので、ミーティングがリアルからネットに変わったというだけで、それ以外は変わっていないと思います。リアルのミーティングの場合は会議室を移動するのが意外と大変だったのに比べ、在宅では会議室の移動もなく、非常に効率的です。リアルだと会議室の席の関係で、スクリーンから遠い人はあまり字が見えなかったり、音が聞こえなかったりするケースがありますが、今はネット上でプレゼン資料をクリアに画面で確認でき、音も鮮明です。私の場合、多くの仕事環境が改善したと思います。

よし
 では、Postコロナもこの効率的な働き方を維持する為に、基本は「在宅勤務」を続けていくというスタンスでしょうか?何か在宅勤務における課題はなかったのでしょうか?

あき
 課題は色々あると思っています。先ほどネット会議でも不自由なく、効率的に運営できると言ったのは、今のチームが国内外問わず、ある程度年数を重ねた社員で構成され、既に「チーム」として機能しているからです。既に自律したメンバーによるチームワークがあり「今何が問題になっていて、自分が何をしなければならないか?」を各人が理解しているので、リアルであってもネットになっても一人一人が自立して考え、自分の役割を認識して動けている気がします。

 これが、ジュニア段階のメンバーや、まだ完全には自立しきれていない人がいる組織ではネットだけの環境を「非効率」と感じていると思います。新入社員や、入社数年目でまだまだ成長ステージにいる人達は「育成」を必要とします。人材育成は単に用意されたプログラムをこなすだけではなく、先輩の仕事の仕方を見たり、会議で場の空気を読んだり、雑談の中で自分から先輩に声をかけて分からないところを聞いたりしながら得るものも多いと思います。そんな育成をリモートでどこまで出来るのかというのが課題だと思っています。

4.Postコロナで競争力を高める為に企業は何をすべきか?そして今後の「グローバル化」の姿とは?

よし
 Postコロナで、今後企業は競争力を高める為に何をしていくべきなのでしょうか?

あき
 バーチャルで出来る事もある程度分かって来たので、今までのように一人が一つの机を持つというオフィス設計ではなくなり、オフィススペースを削減して基本的にフリーアドレス化に移行するというのは確実に起こりうる変化だと思います。ですが、先ほど課題で挙げたような「育成」を考慮して、どの程度のリアル空間を残すべきか、そしてどの程度の頻度で人がリアルに集まるべきか、そしてそれは何を目的としているのか等をきっちりと企業は再設計する必要があると思っています。

 VR やARという技術がありますが、その技術が本当に突き詰められていくと、人材育成や教育ですら恐らくバーチャルで出来るようになると思います。

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 理屈として所詮我々人間が感じていることは、目と耳で、残りは自分の口を使ってコミュニケーションをするのですが、目や耳が何をキャプチャーするかは、見えているものと聞こえてくるものから判断しているだけなので、結局それがリアルなのか、画面を通してなのか、もしくはもっと仮想的なものなのかと言われても、究極的にはテクノロジーが進化してしまうと違いがなくなると思うのです。それがベースにあると、世の中は益々変わると思います。ただそこに行き着くまでにどれだけ時間がかかるかはまだわからないですが、間違いなくそのような未来が来ると思っています。

よし
 日本でも2020年のオリンピックを機にグローバル化が益々加速するだろうと言われていた矢先にコロナが発生してしまいました。それによって、グローバル化そのものの在り方が問われているような気がします。あきさんが思う、Postコロナの「グローバル化」に対する考えをお聞かせ下さい。


あき
 海外でも日本と同じようなことが起きているというのはよく聞きます。通常、アメリカであれば、商談をする為に飛行機で全米を飛び回り、アジアであれば拠点から近隣の国に飛行機で移動し、遠隔地のお客様や社内メンバーと顔を合わせ直接会話するのが通常のビジネススタイルです。販売は大きな影響を受けましたが、コロナの状況下、そういったコミュニケーションという意味では実際に移動しなくても、何とか進めることが出来たという実感を持っている方が多いです。これまでの価値観の中で、物理的に移動しないと仕事が回らないと思っていましたし、お客様側も「来てもらわないと困る」と思っていた考え方は、今回ある程度変わったのではないかと思います。通常の状態に戻ったとしても、移動しなければビジネスが出来ない訳ではないという共通認識が、我々とお客様にも生まれつつあるのは一つの変化と思います。

 また新商品の導入は展示会で新商品を投入し、集まっているお客さんと商談するというのが一般的ですが、昨今は展示会も全てキャンセルになっています。代わりに脚光を浴びているのが「デジタルマーケティング」で、その技術を使って商品を導入する説明会を行い、その後それに付随したミーティングをWEBで設定するなどしています。リアルでやらなければならない事と、そうでなくても出来る事の垣根がいろいろなところでなくなってきました。

 「海外の駐在員も今後変わるのか?」という問いについては、最近の例では、この春先から、コロナの影響でビザが発給できず、海外赴任が決まっていた人が日本で足止めされているケースがあります。その人達は、引き続き日本の仕事をしているわけではなく、既に海外籍に変わったかのごとく、日本に居ながら既に海外の仕事をネットで始めています。それが意味するものは、国や地域毎の組織に分かれて行っていた仕事もある程度、遠隔で集約し効率化を図る可能性があることと同時に、現場にいなければ出せない付加価値の違いが何かを考えさせられる気がします。

 今回私なりに思うのは、リアルにしか出来ないものとバーチャルで解決出来てしまうものをいかに組み合わせて、効率化できるかが重要だと思っています。グローバル化の中で言うと確実に効率性が高まる部分が出てくる反面、やはりリアルでなければダメな部分をどのように見極めて、そこにいかに投資するかが、会社の競争力を今後左右すると思っています。

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