岸田さん

【Vol.4 グローバル人材インタビュー】元・モスバーガーコリア社の営業部部長が語る、海外に挑戦したい人に伝えたい、たった一つの事。そして自分自身がワクワクする新たなる“挑戦”

岸田 卓也
大学卒業後、ハンバーガー専門店「モスバーガー」の全国展開を行う株式会社モスフードサービスに入社。複数の国内事業所を経験した後、2011年より営業次長として韓国の新規店舗展開に従事。その後、営業部部長へ昇格し店舗オペレーションの改善に貢献。2018年にモスフードサービスを退社後、株式会社グローバルエンターテインメントサービスの運営する中華料理店「漁見(YUJIAN)」の事業責任者として浅草蔵前本店を運営。グロービス経営大学院卒(MBA)。

1.ウィーンで目の当たりにした光景が「飲食×海外」という発想を導く

よし
 まずは岸田さんのキャリアについてお聞かせ下さい。海外にはもともと興味があったのですか?

岸田
 2003年に新卒でモスフードサービスに入社しました。モスフードは飲食の中ではいち早く海外に進出しており、台湾では知名度もあって、台北市内の主要交差点にはモス店舗が多く出店しているくらい人気があります。私自身は入社後、国内の事業所を転々としていたのですが、2009年に東京に戻って来た際に、自分自身の将来の希望を伝えることができる「キャリアプラン」という社内制度の中で、「海外希望」を選択しました。背景として、当時モスフードが海外の業務拡大を行おうとしていたタイミングだったのと、オーストラリア店舗の立上げ、駐在を経験し、日本に帰国していた先輩の勧めも影響したと思います。


 海外には実は学生時代から興味があって、高校時代にウィーンに短期留学をしていました。当時、そこで学校に通いながら英語とドイツ語を勉強していました。

よし
 既に学生時代から海外で生活した経験があったのですね。何か海外生活の中での気づきはありましたか?

岸田
 高校時代に留学した1995年当時は、ヨーロッパのあちこちに日本製の電化製品、音響機器、それから自動車があふれていました。ところが、2009年にウィーンを再訪した際、電化製品が韓国製に代わっていたり、車も日本製が少なくなっており、日本製品の影響力の弱体化を感じました。

 一方、ヨーロッパの日本食に目を向けると、まだまだ「なんちゃって日本食」が多く、「飲食はチャンスがあるのではないか?」という、当時は”なんとなくの日本食の可能性”を感じていました。

 2018年に現職に転職する前に1ヶ月程「日本食の現状リサーチ」を目的に欧州を回る機会があったのですが、その時には「日本食のチャンス」を強く感じるようになりましたね。

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よし
 なるほど。そういう理由で、飲食業界、尚且つ海外という発想が生まれたのですね。

岸田
 ヨーロッパで働きたいという希望はあったのですが、海外希望を伝えた2年後の2011年には会社設立したばかりの韓国に赴任を言い渡され、それから韓国駐在がスタートする事になりました。当時32歳でした。

2.「ヒト」「モノ」両側面で想定外の事が発生。日本人2名、ローカル社員5名でスタートした韓国での新たなビジネス

よし
 さて、いよいよ韓国での業務がスタートする訳ですが、会社を設立したばかりで、従業員の構成はどのような状況だったのでしょうか?また岸田さんの当時の役割は何だったのですか?

岸田
 日本人が2名。それからローカル社員が5名という構成でビジネスをスタートさせました。私自身は「営業次長」という役職で(後に営業部部長へ昇格)、役割としては“日本と同様の厨房とオペレーションを実現する”ことでした。厨房機器の選定からレイアウト含め、オペレーションの効率化を図る仕事をしていました。

よし
 グロービスの「オペレーション戦略」の科目で「バーガーキング」と「マクドナルド」の事例がありましたね(笑)。まさにあの事例のような仕事をされていた訳ですね!

 オペレーションの効率化といいますが、異国の地での仕事なので相当苦労があったと推測します。どのような苦労がありましたか?

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岸田
 そもそも厨房機器を入れたけど不良で使えない。日本から送っても通関で機器を分解されて使えなくなったなど、想定外の事が頻発しました。原材料に関しても、原産地証明が必要で、特に原発事故があった日本からの輸入は本当に厳しく、やむなく廃棄させられるケースもありました。原材料は現地調達がベストですが、韓国の財閥系におさえられているケースが多く、なかなか調達先も物流も見つからないという状況でした。

よし
 なるほど。立ち上げフェーズではありがちな苦労ですね。厨房機器や原材料調達など、どちらかというと「モノ」の苦労が多かったように感じますが、一方で「ヒト」の苦労もありましたか?

岸田
 まずは就労意識の違いですね。ローカル社員の中でも日本と同様、店舗にはマネジメント層にあたる社員とアルバイトがいる訳です。社員は日本に留学経験があって、日本語もある程度話せる人を採用していました。立上げ時期ということもありましたし、社員であってもアルバイトがやるような仕事もしなければならず、逆にそれが出来ないと社員はアルバイトを指導出来ない訳です。

 ところが、社員からは「なぜアルバイトがやるような仕事を私がしなければならないのか?」という不満が噴出したり、日本では受け入れられていた仕事の価値観が韓国では最初受け入れてもらえませんでした。マネジャーであっても、座って指示を出すのではなく、現地オペレーションに入りながら、現場で指示を出すというスタイルを浸透させるのが難しかったです。

よし
 店舗運営の人数構成はどのような状況だったのでしょうか?何人くらいでオペレーションを回すものなのでしょうか?

岸田
 当初2店舗のオープンを予定していて、その為に10名のローカル社員を採用しました。その10名に加え、アルバイトを店舗規模に応じて採用し、各店舗を回すようなイメージです。その後、3号店もすぐにオープンしたのですが、アルバイトでは結局店舗をうまく回すことが出来ず、社員採用を拡大せざるを得ない状況になってしまいました。

3.1年間は引きこもり。想定外のトラブルが続く状況を好転させた“日本人コミュニティー”。改善の決め手は、譲れない「軸」とコミュニケーションの「量」

よし
 「モノ」も「ヒト」も予想外の事が発生してしまったと思うのですが、その想定外のトラブルをどのように克服されていったのですか?

岸田
 物流、取引先に関しては、他の日系企業経由で紹介を受けたりしながら助けてもらいました。その日系企業というのも、仕事で繋がった訳ではなく、プライベートで繋がったような感じです。たまたま上司が日系企業の方々と付き合いがあったのですが、その人達と登山に行ったり、サイクリングに参加したりしながら人脈を拡大していきました。

 Facebookで見つけた20代、30代の集まりにも積極的に参加し、そこでも人脈を拡大していったのと、飲食業界が集まるような会にも参加しました。
 
 自分自身が愚痴れる場所、悩みを相談できる気心知れた友達ができたことで、精神的な心強さが得られたのも大きかったと思います。

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よし
 やはり人脈が重要ですね。日本人コミュニティーは海外だと本当に大事で、思ってもいない人が助けてくれたりしますよね。私もベトナムの駐在時そのような感じでした。

岸田
 日本人コミュニティーのおかげで、日本式と現地式の違い、就労意識の違い、他にも悩むところは皆同じだったという部分を知り、自信を失いかけていたのですが、日本のやり方で変えて良いところ、変えてはいけない「譲れない軸」を再確認することができました。それがモスフードの場合では、「理念」でした。コミュニケーションの量も増やし、「何度も言い続ける」ことでローカル社員との関係も改善し、仕事がうまく回るようになりました。

よし
 日本式が全て正しいとは言えないので、変えて良いところといけないところの再確認は重要ですよね。そしてコミュニケーションの量は海外だと日本の3倍必要と言われますし、それも本当に重要だと思います。

4.苦労を克服する事で見える、「海外で働くことの魅力」とは何か?

よし
 そんなビジネスが好転する中で、海外で働くことの魅力ってなんでしょうか?

岸田
 現地で裁量権が拡大したことです。日本だとあらゆる決定も判断を仰がなければなりませんが、現地ではそのような判断を仰いでられないので、自分の判断で実行することが増えました。責任も伴いますが、やりがいも増しました。

 もう一つが、「ヒト」の苦労の部分で仕事の価値観の違いを話しましたが、価値観の違うメンバー同士が、同じ目的を持って、同じように「嬉しい」と思える瞬間が来る時に魅力を感じます。特にモスバーガーはお客様が相手なので、お客様においしいものを提供して、満足してもらうことが目標なので、言葉が通じなくても同じ目的を持って皆が動けるようになった時に本当に喜びを感じました。

よし
 これはまさに海外で働く事の魅力ですね。当初は価値観が異なるところからスタートするのですが、仕事を通じ価値観やゴールが一致する時や、もしくは両者で新しい価値観を創出することができたときは本当に嬉しいですよね。ちなみにそう思えるようになるまでにどれくらいの期間を要したのですか?

岸田
 最初の1年は私自身が完全に引きこもりでしたよ(笑)。2年過ぎたあたりからうまく回り始めました。やはり好転のきっかけは、先ほど話した日本人の人脈が拡大してからでしょうか。色々アドバイスももらえて好転のきっかけになったと思います。

5.なぜグロービス経営大学院に入学しようと考えたのか?

よし
 私と岸田さんは「グロービス経営大学院」で出会ったのですが、当時韓国からオンラインで授業に出てましたよね。MBAを取得しようと思ったきっかけも何かあったのでしょうか?

岸田
 海外赴任で役職や業務範囲も今までにないほど高くなり、現地会社で次長から部長に昇格したことで、更に責任が増しました。それに伴い、自分自身の視座も高くなりました。具体的な事例を言うと、予算や業績報告を任されるようになり、それと共に、現地PLから日本のPLに置き換える時の数字が持っている意味や、PLは読めてもBSが読めないなど、自分自身の課題を持つようになりました。社員も増えて、その社員のマネジメントのやり方にも同様に課題を持ちました。

 2014年にグロービスのオンラインがスタートし、初めは単科生として授業に参加しました。単に動画を視聴するだけではなく、双方向で学べ、実践的だったので単純に「凄い」と思いました。実践でも活かせると確信し、それから本科生として正式に入学しました。

よし
 なるほど。海外で見つかった自分の課題を克服するためにグロービスへの進学を決めた訳ですね。私も海外駐在をスタートし始めた時に、同じような課題を持ち、同じようにグロービスへ進学したので、入学動機としては殆ど同じですね。今、初めて知りました(笑)。

6.海外に挑戦したい人に伝えたい、たった一つの事

よし
 さて、海外で働く為の「マインドや資質」など、海外に挑戦したいと思っている人達に対して伝えたいことはありますか?

岸田
 これは「まずやってみる、行ってみる」というのが重要です。何か準備が整ってから、例えば「TOEICで高得点とってから海外に行こう」と思うのではなく、とにかく「行ってみる」ことが重要だと思います。

 私の場合も韓国語は全く話せなかったですが、現場で必要に迫られると韓国語の勉強もしますし、結果現地での会議も韓国語で出来るレベルになりました。通訳なしで韓国内の出張も行けるようになりました。言葉に関してはどうにかなります。

 数字を読む能力も同様です。学んでから「やろう」と思うのではなく、実践の中で数字と接して、分からない事に対して「能力開発」を行うスタンスが重要です。何事も「怖がらない」というマインドが必要ですね。

 もし「恐怖心」がどうしてもあるのであれば、仕事ではなく旅行で海外に行って、「外を見る」だけでも何か感じる事があると思います。私がウィーンに留学して感じたことと同様に、「怖さ」は薄れると思います。

よし
 説得力がありますよね。飛び込んでみるという「行動力」が重要ですよね。課題は飛び込んでみて初めて分かりますし、確かに必要に迫られて火がつきますもんね。

7.日本へ逆戻りしても得たかった、ワクワクする新たな“挑戦”

よし 
 さて、岸田さんはそんなモスフードを退職し、現在のグローバルエンターテインメントサービスに入社し、逆に「国内」へ戻ってくる訳ですが、その経緯や想いを聞かせて頂けますか?

岸田
 自分が韓国での勤務が長くなったというのもありますし、会社がどんどん大きくなっていったというのも背景にあるのですが、モスバーガーでの物事の意思決定が「遅い」、それからチャレンジが「少ない」と感じるようになったのです。決してそれが不満だった訳ではないのですが、もっと「面白くて、ワクワクするようなことをしたい」と思うようになったのです。

 現在のグローバルエンターテインメントサービスの代表は、韓国時代からの知り合いでした。当時はお互い「日本の食文化を海外に発信する」ことを仕事にしていたのですが、互いに海外で働くようになり、逆に「海外から日本に入って来ていない食文化がまだまだある」と感じるようになったのです。

 今の代表は一足早く日本で飲食コンサルタントとして独立しました。中国東莞市に本店を持つ「漁見」は、現地の若者に大人気の本格中国料理であり、それは「海外から日本へ入れたい食文化」の一つでした。その食文化を日本に取り入れたいという代表の話に「おもしろい」と感じるようになり、自分もそのおもしろい事業に参画しようと決めました。「おもしろい」と感じたのがシンプルな転職の決め手でした(笑)

よし
 「おもしろい」や「ワクワク感」を追求して転職の意思決定をされたのですね。それは歳を重ねても忘れたくない感情ですね。

岸田
 中国料理を日本に展開するだけでなく、シンプルに良いものを海外から日本に、逆に日本から海外へという食文化の双方向展開も今後視野にいれている点にも魅力を感じました。今の中華事業はその第一歩です。

よし
 久しぶりに日本に戻って来て、かつ新しい職場での再出発という事で現在の課題や苦労は何でしょうか?

岸田
 7年ぶりに日本に戻って来たのですが、深刻なのは飲食業の「人員確保」です。アルバイトもなかなか集まらない時代になってますし、時給を上げたとしてもなかなか人は集まりません。飲食業全体の課題とも言えますが、店を安定的に運営して行く上で解決すべき喫緊の課題だと思っています。

 立地が浅草蔵前にあるのですが、ここにいかにお客様を呼び込むことができるかも課題ですし、最近では海外からの旅行者も来てくれるのですが、その旅行者にどのように魅力を伝えるかも課題ですね。

よし
 なるほど。飲食業全体としての課題プラスお店としての魅力をどのような客層にどのように伝えて行くかが課題ですね。SNS戦略なども今後の重要なポイントになるかもしれませんね。

よし
 喫緊の「ヒト」の課題もありますが、岸田さんの今後のキャリアプランなどはどのようにお考えですか?

岸田
 まずは現在の店舗のオペレーションを安定的に回すというのが使命ですが、将来的には欧州への進出が夢ですね。大都市は飽和した感はあるのですが、中央ヨーロッパや東ヨーロッパはまだまだチャンスがあると思います。そこで興味あるのが、「うどん」や「おにぎり」の展開です。ただ店を出すだけではなく、のれん分けが出来るようなビジネスモデルを考えてます。とは言え、まずは現在の店舗で結果を残したいと思っています。

よし
 数年先のビジョンまで見えてますし、現在課題はあると思いますが、岸田さんならしっかり乗り切れていけそうですね。

8.日本へ出戻り、改めて見える「グローバル人材」の姿

よし
 さて、最後に岸田さんは日本から韓国、そして韓国から日本へ出戻って現在働いていますが、これまでの岸田さんの経験や今の立場から見える「グローバル人材」とはどのような人を指しますか?

岸田
 「固定概念に捕らわれず、価値観の多様性を受け入れられる人」だと思います。世界では価値観が違って当たり前なので、自分の価値観を押しつけるのではなく、そこをいかにうまくすり合わせることが出来るか、「価値観の接点」を見つけられる人がある種グローバル人材だと思います。

よし
 なるほど。そんなグローバル人材になるためには、どのような事に取り組むべきでしょうか?

岸田
 「自分の殻を破る体験を多く積む」ことだと思います。実際に海外に出てみて、色々な人達に接してみて、特にインドネシアなど宗教感の異なる国に行くと学びは深いと思います。お祈りをする習慣が彼らにはありますが、「日系企業だからお祈りはダメだ」とは決して言えません。そのような違いを理解した上で、自分ならどのようにするかという問いを何度も繰り返すことが重要だと思います。

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インタビュー後、グロービス卒業生、在校生を交えての懇親会@漁見


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