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【Vol.12 グローバル人材インタビュー】With/Post コロナの状況下、「世界のどこでも働けるようになる」ために今何をすべきか?「組織」と「人事」のプロが考える近未来のビジネスの姿

中村 勝裕(愛称:Jack)
Asian Identity Co., Ltd. CEO & Founder. 愛知県出身、上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。ネスレ日本、リンクアンドモチベーション、グロービスを経て、2014年、東南アジア発の組織人事コンサルティング会社として、Asian Identity を設立し、同社代表に就任。現在はタイを拠点としながらアジア各国でのコンサルティングや講演活動を手がける。

よし
Jackさん、まずは日本からバンコクへお帰りなさい!お待ちしておりました。そしてツイッターのバズり方が凄かったですね!

(注)Jackさんはコロナ禍の中、日本からバンコクへ帰国し、到着した空港の様子を事細かにツイートした内容がバズり、いいね数2.3万、1万リツイートを記録(インタビュー当日現在)

Jack
いえいえ、びっくりしましたが、日本のテレビにも取り上げられたり、おかげでフォロワー数も増えたので良かったです(笑)

よし
コロナ禍の状況におけるビジネスについても後程伺いたいと思いますので、本日はよろしくお願いします。

Jack
はい、お願いします。

転職を経験し見つけた仕事の原点。「自分は何を大事にしたい人なのか?」「自分が大事にするものに従って生きて行きたい」

よし
Jackさんは現在のAsian Identityを起業される前に、2度 “転職” を経験されています。しかも新卒1社目に入社したのは「ネスレ日本」です。大企業を去る事に抵抗はなかったのでしょうか?転職に至った背景を教えて下さい。

Jack
ネスレ時代に若手社員を中心に「社内変革プロジェクト」に参画させて頂く機会を得ました。そのプロジェクトを通じて、変革にはやはり「組織」それから「人」が重要であることに気づきました。「組織変革案」や「人をいかにモチベートさせるか」を考えている間は自分の中で不思議と“スイッチ”が入った状態になり、徐々に自分は「組織の中で人が育つサポートをしたい」と思うようになったのです。

リンクアンドモチベーションもグロービスも「組織や人を育てる」というサポートが出来る会社でした。改めて転職を振り返ると、「自分は何を大事にしたい人なのか?」を常に考えていましたし、最終的には「自分が大事にするものに従って生きて行きたい」と思うようになりました。それを追い求め、一番適した場所を探した結果が「転職」だったので、大企業を去る事に抵抗はありませんでした。

コンサルティング業務を通じて見えて来た東南アジアの人事課題。東南アジアの人事をアップデートしたい!

よし
現在のAsian Identityはタイで起業された訳ですが、なぜタイだったのでしょうか?起業に至った背景を教えて下さい。

Jack
前職のグロービスには3年半いたのですが、そのうち2年はシンガポールに住みながらシンガポールとタイの2ヵ国で、主に企業向けのコンサルティング業務を行っていました。ミッションは「日系企業の海外における人材育成」であり、現地のニーズを聞いた上で、「アジアリーダーシッププログラム」を構築したり、「現地化のサポート」を行っていました。

このグロービスのコンサル業務を通じて初めてタイに来ましたし、業務を遂行する中で、次第に「東南アジアの人事が抱える課題」を感じるようになったのです。

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人事の世界は、基本アメリカ人が理論を作っています。リーダーシップのセオリーや評価、コンピテンシーも同様です。具体的なケースだと、日本でもかつて成果主義をそのまま導入する企業がありましたが、マッチしないケースが続出しました。それは、「メンバーシップ型」で動いている日本の組織文化に、単純に個人のパフォーマンスのみで評価するのは無理があったからです。現在ではアジャストして「日本型成果主義」みたいなものが出来ています。

国民性や組織文化と合わないような人事制度を導入しても全然うまくいかないのですが、以前の日本と同じようにマッチしない制度導入が東南アジアでもなされているという事に気づいたのです。

特にオーナー企業が多くを占めるタイは文化が物凄く濃いにも関わらず、その文化や国民性にあった人事制度が構築出来ていないと感じるようになりました。そんなタイを起点に「東南アジアのHRファーム」という旗を立てて、「東南アジアの人事をアップデートしたい」と思うようになったのが、Asian Identityを起業したきっかけになります。

よし
なるほど。とは言え、タイでゼロからの起業だったと思うのですが、どのように顧客を獲得して行ったのでしょうか?

Jack
顧客分析は起業する前に実施しており、タイにおいて「人や組織を伸ばしたい」という課題感を持っている日系企業は当時から山ほどありました。一方そのサポートが出来る競合がいたかというと、ローカル企業は複数いましたが、日系で例えばリクルートさんのような大手が参入している訳でもなく、タイ人とチームを作り、タイ語でニーズに合ったサポートが提供出来れば、そこには大きなチャンスがあると確信していました。

リモートワークでもグローバルビジネスを可能にさせる方法。それはいかに「リモートトラスト」を構築できるか否か

よし
Jackさんの考える通りのニーズがあり、起業から順調に顧客獲得も出来た訳ですが、そこに「コロナショック」が起きてしまいました。Jackさんもコロナ禍の記録をご自身のnoteに『バンコク封鎖日記』という題目で書き留めていて、私も毎日拝見していました。タイは随分状況が好転して来たものの、コロナ以降Jackさんのビジネスにはどのような影響が出ていますか?

【バンコク封鎖日記】

Jack
我々の仕事は人と人との接触が前提だったので、コロナ発生当初は予定されていた研修が延期される、もしくはキャンセルされるという事態が起きました。しかし現在では「リモートで、研修や人事変革プロジェクトをやりたい」という新しい顧客ニーズも増えており、我々もそれに迅速に対応したので、“ソーシャルディスタンス”を理由に研修が延期される、もしくはなくなるという事態はほぼなくなりました。

一方で、“グローバルコロナ不況”の影響が出て来るのはこれからだと思っています。そもそも海外ビジネスを撤退するお客様や、人事企画に関する予算削減も今後各企業で行われると思うので、研修など人事関連サービスを提供している我々へのダメージもこれから大きくなるのではないかと予想しています。

よし
そんなコロナ禍で得た新しい「気づき」みたいなものは何かありますか?

Jack
飲み会がわかり易い例だと思うのですが、「リアル」と「バーチャル」では当然雰囲気は異なります。これまでは「リアルのほうが良い」という先入観があったと思いますが、コロナ禍を通じ、「バーチャルでも出来る事」にも気づきました。「移動がいらない」というわかり易い利点にも気づけたと思います。

Zoom会議も回数をこなせば皆慣れてくるので、研修においても「それなりのバリューは出せるな」という手ごたえはつかめています。我々からすると研修はこれまでは「リアル」で提供するのが前提でしたが、これからは「バーチャル」というオプションが追加されましたし、お客様もどちらかのオプションを選択できる訳です。場所を理由に研修が受けられないという事もなくなるので、考え方によってはチャンスと思っています。


よし
そんな中、今後ビジネス、特にグローバル化はどのように変わっていくとお考えですか?先日『「駐在員制度のおわり」は本当か?』というnoteも書かれていて、多くの反響を得ていたと思います。私も駐在員の立場として興味深く読ませて頂きました。

「駐在員制度のおわり」は本当か?

Jack
一時的には国内で経済を回す「ドメスティック化」が起こるかもしれませんが、今後グローバル化が無くなるかと言えば、私は逆にグローバル化が進むと思っています。

コロナ禍では「人・モノ・カネ・情報」の中で“人”だけが動けなくなってしまいました。残りの“モノ・カネ・情報”はこれまで同様動いている訳です。

では、「人が動かなければならない理由」を改めて探すと、実はそれって意外と少なかった訳です。駐在員が一つの例ですが、別に現地に駐在しなくてもリモートでマネージが出来てしまえば全体のコストを下げて、かつグローバルビジネスも加速出来てしまう訳です。日本にいながら海外のプロジェクトを回す人も今後出て来ると思います。

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ここでキーになるのが、リモートにおける「組織マネジメントやリーダーシップ」、更にはリモートにおける「異文化理解・異文化コミュニケーション」が出来るかどうかだと思うのです。そのような新しい課題がこれから顕在化してくると思っていて、それらの課題に対し我々の現在のサービスをリビルドし、「スキルのアップデート」をサポート出来れば、お客様の新しいニーズを捉えられるのではないかと思っています。

よし
私も現在タイにいながらマレーシア、フィリピン、台湾をリモートマネジメントしているのですが、まさに今Jackさんがご説明された課題に直面しております。具体的にはどのようなスキルアップデートが必要とお考えでしょうか?

Jack
今後のリモートマネジメントで重要になって来るのは、何に対してもバイアスを持たず、いかにチームと「リモートトラスト」を構築できるかだと思っています。

人間は顔を見るだけで信用する傾向があって、例えばメールのやり取りしかしたことのない本社の人に苦手意識を持っていても、実際会ってみると全然良い人で信用できたというケースってありますよね?これは自分の頭の中で何かバイアスがかかっていたからだと思います。

リモートで自分の部下からメールがないだけで「さぼっているんじゃないか?」「この間与えた指示ちゃんとやってるかな?」と思う上司が多く、それで怒りのメールを送ってしまうケースって実際起こっているんですよ。結果部下が離れていくというのは最悪のパターンです。

メールがないという事実に対し、裏では滅茶苦茶頑張って仕事しているケースもあります。こちらで勝手に「働いていない」というネガティブな想像力を働かせているだけかもしれません。ポジティブな想像力を働かせ、自分の思考を極力相手を信用する方向に持って行く度量の大きさが必要です。

よし
そう言った意味では、コミュニケーションがより一層重要になって来るという事でしょうか?

Jack
はい、コミュニケーション力も「ノンバーバル」から「バーバル」へ重要度がシフトしていくと思います。また、適切な言葉を選択できる、「テキストコミュニケーション能力」も必要になってくると思います。これまで身振り手振りで何とかしていた人には厳しくなるので、このようなコミュニケーション力のアップデートも間違いなく必要になって来ると思っています。

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よし
その為に我々が普段からすべきことは何でしょうか?どのようにそれらのスキルアップデートをしていけば良いのでしょうか?

Jack
一言で言うと、「内省の習慣化」が必要になって来ると思います。毎日感じた事を自分の言葉にしておくことです。このような内省を通じて言語化した言葉をチーム間で共有する事によって、今誰がモチベーションが上がっているのか、下がっているのかも読み取ることが出来ます。そのようなチーム内の小さな変化を読み取り、ケアをしていく事で「信頼」も醸成されていくのだと思います。

With/Postコロナで、近未来の働き方はどうなるか?

よし
現在はまだWithコロナの状態ですが、仮にPostコロナの時代が来るとすれば、働き方はどのように変化するとお考えでしょうか?

Jack
一つ大きく変わるのは「世界のどこでも働けるようになる」ということだと思います。先ほどお伝えしたように「日本にいながら、海外のプロジェクトを回す」というような「プロジェクト型」の仕事が増えていくのではないかと予想しています。

バーチャルに「プロジェクト型」で働くために、プロジェクトの適任を世界中から採用できると思います。タイのプロジェクトなのでタイに住んでいる誰かを選択しなければならないという訳ではないのです。

個人からすると世界中にキャリアを積む可能性も広がります。ただ、それは2極化することを意味していて、自分にもチャンスは増えますし、それはライバルが増えることを意味しています。

このような状況下では、“自分が何者なのか”を説明できないと声がかからないと思います。良くWill(やりたいこと)、Must(やるべきこと)、Can(できること)が重要と言われますが、このうち特にCanが重要になります。長期スパンにおいては、相手はあなたのWillを見る事もありますが、プロジェクトのような短期スパンでは、相手はあなたの“出来ること”を見ます。ですので、自分のCanをしっかり言語化できる人に今後チャンスが巡ってくるでしょう。

よし
では最後に、Jackさんは今後”海外で働く事の意味”についてどのように考えているのか、そして海外に挑戦したいと思っている人にメッセージをお願いします。


Jack
今後は世界のどこでも働く事ができ、バーチャルに海外業務をマネージする事も可能なので、駐在員のようにリアルに海外に住まなければ海外業務が出来ないという制約はなくなると思います。

この状況下なので、海外に出る機会も今より少なくなるのは確かだと思います。だからこそ、海外にリアルに来ることの“希少性”がより高くなるのも事実です。なので、もし20代や30代の若い段階で海外に出るチャンスがあれば、それはより貴重な経験になると思います。

訪日外国人の増加やオリンピックの影響もあり、グローバルに目が向いていた日本人がまた内向きになるのは勿体ないと思います。不透明な事もあり、外に出る事のリスクを感じる事もありますが、グローバルを引き続き意識して欲しいと思っています。その為にも既に海外に出ている我々のようなビジネスパーソンも、内向きにならず頑張らなければならないと思っています。

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2020年8月15日インタビュー@Asian Identity Office


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