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「問いのデザイン」を読んで(前半)

副題には「創造的対話のファシリテーション」と書かれているが、ファシリテーションするという機会がなくとも、この本に書かれていることは、今直面している問題を自分の中で整理するのに役立つものは多いと感じた。
自分が問題だと思っていることは、実は自分の固定された価値観の中における問題であって、捉える角度や時間軸を変えることで、問題の見え方は大きく変わってくる。
ここまで書いたことはやや教科書的なことだが、著者の多様な経験に基づき、その方法まで詳しく書かれていることは非常に有用だと感じられる。

例えば、企業の採用活動ひとつを取ってみても、担当者一人ひとりが直面する問題は、「いかに優秀な人間を採用目標通りに獲得するか」ということが第一義になりがち。
ただしその観点はあくまでも「企業」の角度からの視点に過ぎない、とも考えられる気がする。具体的には、採用プロセスにおいて顧客と言える学生一人ひとりの角度から見た時に、就職活動はまた別の見え方になるのではないだろうか。
「学生」が就職活動で直面する問題は、「いかに(考え方や価値観、能力などの側面で)自分に合った会社を見つけ、入社できるか」ということである。転職市場が広がった状況下であれば、最初に入る会社を勤め上げるということは少なくなりつつあるものの、最初に入った会社によって「はたらく」という価値観の多くを形成されることは間違いないだろう。
そうした「学生」の角度からの採用活動・就職活動の意義を考えなければならないと考える。

戦後の日本では、「アメリカ」という目指すべき明確な目標があったこともあり、問いをデザインするといった考え方はそこまで求められていなかったかもしれない。
ただ、アメリカに追いつき、さらにVUCAの時代がやってきた昨今では、こうした力はビジネスにおいてどんな場面でも必要になってくるのではないだろうか。
良質の問いを立て、そこに向かってメンバー全員を共闘させる力、私ももっと身につけていきたいと思う。

以下、ネタバレを含む読書メモである。
なお、今回は自分の興味があった「問いをデザインする」部分のみ、具体的には本全体の半分程度のみを読んだため、それまでの記載となっている。
(後半は、問いをデザインした後に行われる「場」のファシリテーションについて解説されているが、その点は書いていないことをご容赦いただきたい)


Part1 問いのデザインの全体像
第1章 問いのデザインとは何か
1.1 問いとは何か
• 問いの基本性質1「問いの設定によって、導かれる答えは変わりうる」ということ。
例)
元の問い:AIが普及した自動運転の世界で、どうカーナビは生き残るべきか?
→もともとのカーアクセサリーの目的は、自動車単体では得られないユーザーのニーズを満たすための手段。自動運転の世界では、ユーザーの目的が変容した。

新しい問い:自動運転社会において、どのような移動の時間をデザインしたいのか?
• 正解はわからなくとも、過去のプロダクト誕生の背後にあったであろう、問いの変化を想像してみると、問いのデザインの想像力が広がる。
(水洗トイレ、シャワートイレ、などなど)

• 問いの基本性質2「問いは思考と感情を刺激する」。
• 人は何かを問われたら、答えるために考えようとする性質がある。ただし、人を考えたいと動機づけることは大変。楽しさや好奇心を刺激すること。
• 問う側が答えを持っていなければいけない、ということはない。問う側と問われる側に優劣などはない。

1.2 創造的対話とは何か
• 問いの基本的性質3「問いが集団に共有された時、主体的なコミュニケーションを誘発する」
• コミュニケーションには、以下4種類がある。
討論:どちらかの立場の意見が正しいのかを決める
議論:合意形成や意思決定のための納得解を決める
対話:自由な雰囲気の中で新たな意味づけを作る
雑談:自由な雰囲気の中で気軽な挨拶や情報のやり取り

• 問いの基本的性質4「対話を通して問いに向き合う過程で、個人の認識は内省される」
• 対話を通して自分の暗黙の前提を「メタ認知」する、そしてそれを内省する。
(例:良い漫画とは何か?→Aさん:非日常の体験、Bさん:日常に役立つ道具、という暗黙の前提を共有し互いに内省)
• そうした対話を通して、互いの共通の意味づけを探ることで関係性が編み直される。

• 問いの基本的性質5「対話を通して問いに向き合う過程で、集団の関係性は再構築される」
• 問いによって、コミュニケーションの活発度は変わるため、創造的対話が促進できるかどうかは、投げかける問いのデザインにかかっている。

• 社会構成主義では、私たちが現実だと思っていることは、客観的に測定できるものではなく、関係者のコミュニケーションによって意味づけられ、合意されたものだけが現実である、と考える。
例えば、組織におけるトラブルにおいて、第三者が組織を診断して、これが問題であると客観的に断定はできない。あくまでも問題は当事者たちのコミュニケーションを通して「これが問題であると合意された現実」が問題であると捉える。
• 対話が深まるプロセスは、抽象と具体の往復。具体的なものやこと、抽象的な意味の解釈の絶えざる往復によって、対話は深まる。
例えば、プロダクト開発において、具体的な商品やその特性ばかりを話して要るのではなく、ユーザーに提案する「意味」も一緒に対話の土台に乗せること。

• 問いの基本的性質7「問いは、創造的対話を通して、新たな別の問いを生み出す」


1.3 基本サイクルとデザイン手順
①課題のデザイン:問題の本質を捉え、解くべき課題を定める
• そもそもなぜワークショップを開催するのか、何のための創造的対話なのか。課題のデザインとは、集団が目指す理想的な状態や、乗り越えるべきハードルを問い直すことに他ならない。
②プロセスのデザイン:問いを投げかけ、創造的対話を促進する
• 無計画に話し合いをしても対話は深まらない。プロセスのデザインが対話の質に大きな影響を与える。

Part2 課題のデザイン 問題の本質を捉え、解くべき課題を決める
2章 問題を捉え直す考え方
2.1 問題と課題の違い
• 問題の定義:何かしらの目標があり、それに対して動機づけられているが、到達の方法や道筋がわからない、試みてもうまくいかない状況のこと
(例:組織としてもっと一致団結したいが、うまくいかない)
• 学校のテストのような問題ではなく、「組織としてもっと〜」というような問題は難定義問題と呼ばれる。この問題の難しさは、自ら形成した固定観念を通して問題と対峙してしまうところにある。

• 課題の定義:関係者の間で「解決すべきだ」と前向きに合意された問題のこと
• 課題設定の罠:
①自分本位
 自社の既存プロダクトが既存市場において生き残ることだけに主眼が置かれ、自社製品が社会においてどんな価値を享受するか、といった観点が抜けている。
②自己目的化
 流行りの手法導入などの課題設定で起こりがち。アクティブラーニングを導入するにはどうしたらいいか?といった課題が典型例。手法を導入することを目的化するのではなく、育てたい人材像や、手法を導入する大義・理由が形成されないといけない。
③ネガティブ・他責
 関係者を巻き込みながら創造的に問題を解決していくためには、関係者の多くが「前向きに取り組みたい」「解決したい」と思える課題を設定することが重要。
④優等生
 社会通念的に「良し」とされていることが前提となった問いの場合、創造的対話が深まらないケースが多くなる。
 ポイ捨てをなくためにはどうしたらいいか?ではなく、ポイ捨てをする人はそれで何を得ているのか?といったひねりのある問いにして、規範的な思考に揺さぶりをかけること。
⑤壮大
 100年後の人類を幸せにする、といった壮大すぎる課題設定の場合、当事者にとって自分ごとになりにくく、現実的な解決に向けて対話が難しくなる。

2.3 問題を捉える思考法
①素朴思考
 好奇心を持ちながら、問題に対して率直に「わからないこと」を掘り下げていく思考法。自分達が日常の中で当たり前と感じていたことを、あえて問い直していくイメージ。
 決して、良い問いを意識することなく、思い切って当事者にぶつけてみること。そうした素朴な疑問を聞いても大丈夫な人間関係が前提。
②天邪鬼思考
 目の前の事象を批判的に疑い、ひねくれた視点から物事をとらえる。自分達の立つ前提の外側に課題の真因を探すこと。
 わざと創造性とは正反対の「アイデアをつぶすような心無い一言」を考える。ただしやりすぎは禁物。
③道具思考
 様々な専門知識の観点から問題を眺めてみる。①や②の思考法で行き詰った時は、関連しそうな知識を参照にしたり、あえて異なる専門分野の考え方の枠組みを通し、別の角度から問題をとらえてみること。
 具体的な人を思い浮かべ、「あの人だったらどう捉えるか」を想像してみる。
④構造化思考
 問題を構成する要素を俯瞰し、構成要素同士の関係性を分析・整理する思考法。特に複雑な問題であればあるほど、様々な変数が関わるため、重要度の高い要素について概観する必要がある。
 構造化しながら、素朴思考と天邪鬼思考を使い、問いを多角的に理解すること。
⑤哲学的思考
 様々な物事の本質に迫る思考。物事の本質を問い、「それが確かに本質かもしれない」という互いに納得できる共通理解に到達すること。
 星野リゾートでは、「観光とは何か?人はなぜ観光するのか?」→「異文化体験、非日常体験」という哲学的思考を行った。
 本質を見抜くための問いは、集団で対話するテーマにも適している。ワークショップでも扱われるテーマである。
3章 課題を定義する手順
3.1 目標を整理する
STEP1 要件の確認
• 当事者が認識している問題の要件を確認する。必ず確認するのは、前提となっている「目標」。
• 当事者が思っている目標、そしてなぜその目標を持っているのかを確認すること。
• ただし、当事者が考えている目標が、かならずしも本当に目指すべき目標とイコールとは限らない。
STEP2 目標の精緻化
• 問題の渦中にいる依頼主は「認識の固定化の病」になっており、偏った視点から問題をとらえていたり、問題の解像度が低い可能性が高い。
• そうした状況を取り払い、目標そのものを明確化するために、目標を精緻化する必要がある。目標の精緻化の観点としては、
①期間
 問題はどれくらいの期間で解決されるべきなのかを明確にする。短期目標と長期目標では課題設定も異なってくる。また、短期的な目標=近視眼的というわけではなく、長期的な目標を見据えるからこそ、期間を区切ってまずは短期的に解決できる具体的な課題を設定することが建設的
②優先順位
 高い目標を掲げることは大切だが、高すぎるがゆえに最低限達成しなければいけないラインが達成できなくなってしまっては本末転倒。
 目標を松竹梅、理想・現実的・最低限それぞれの目標に分ける。どんな状態が大失敗か?を明確にして「梅」目標を見える化すること。
③成果目標・プロセス目標・ビジョン
 成果目標:最終的に生み出したい成果物の要件や質
 プロセス目標:成果目標にたどり着くまでに、当事者たちにどんな気づきや学習を生みたいか等。
 ビジョン:プロセス・成果のその先にある状態。意義や目指す方向性のコンセプトを言語化したもの。
• 目標自体が曖昧だったり、関係者の中で合意が取れていない場合もある。目標自体は変化する「自然」ととらえ、暫定的な目標としてもかまわない。
• また、目標そのものが合意を取れないケースの中で、「基準や指標」に関する考え方が一人ひとりでバラバラ、という場合もある。この場合は基準や指標を関係者間で対話を通して定めることから始めるべき。
3.2 目標のリフレーミング
STEP3 阻害要因の検討
• 例。
ビジョン:多世代にわたる住民が愛着を感じられる地域づくり
成果目標:地域住民が納得する図書館のプランづくり
プロセス目標:若者と高齢者が活発に意見交換し一体感を醸成する
この場合、プロセス目標における阻害要因は、
・若者と高齢者双方にとって魅力的な意見交換のテーマ設定
・双方の居場所となる公共施設のプランへの落とし込み
となる。
• 目標の実現を阻害する5つの要因としては、以下。
①そもそも対話の機会がない
②当事者の固定観念が強固である
 当時者内の暗黙の前提が邪魔している(例:カーナビ、という前提条件にとらわれている)
③意見が分かれ合意が形成できない
 多様な立場の当事者を考慮してフラットに取り組める課題を定義する必要がある。
④目標が自分ごとになっていない
 目標があまりにも壮大だったり、トップダウンの目標で発生しがち。当事者一人ひとりが自分にとっての目標の意味について考えられるようにプロセス目標を設定することが必要。
⑤知識や創造性が不足している
 知識不足を補うため、プロセス目標の中に知識の習得を含め、ゲストメンバーなどを入れてプロジェクトチームを再編することも有効。

STEP4 目標の再設定
• STEP3で阻害要因を検討し、目標そのものの修正の必要性が見えてきた場合に行う。
• 目標を別の視点から再設定することをリフレーミングと呼び、そのテクニックは以下の通り。
①利他的に考える
 設定された目標が自社視点になっている場合、自社の技術で提供できる新しい価値、といった形で考えてみる。
②大義を問い直す
 「〇〇の導入」といったように、目標が自己目的になっている場合、導入する大義を問い直すことで、視野狭窄になるのを防ぐ。
③前向きにとらえる
 「意欲的でない若手社員を改善するアイデア」といったネガティブ・他責に陥らないように、環境や制度の改善に目線を向け、前向きにとらえなおす。
④規範外にはみだす
 優等生的な目標だと、目標達成への動機付けが弱くなってしまう。天邪鬼思考で規範的な思考の枠の外に出てみること。(例:理想の学校教育のアイデア⇒最悪の授業を考えてみることで、理想の学校教育を考える)
⑤小さく分割する
 「地域における理想の図書館」といった壮大な目標になっている場合、解決すべき問題はいくつあるか?問題を2つに分けるとしたら?といった形で問い直すことで、当事者意識を持ちやすい目標に分割できる。
⑥動詞に言い換える
 「新しいオフィスの椅子のアイデア」といったように、名詞にキーワードがある場合、あえてそれを動詞に変換することで視点が変わる。例えば、「未来のオフィスにおける『座る』を再定義する」といった形。
⑦言葉を定義する
 目標に曖昧な言葉が使われている場合、その言葉を定義する目標からスタートするパターン。「主体的に学べる教室のアイデア」であれば、そもそも主体性とは何か?ということをプロセス目標に入れること。
⑧主体を変える
 目標の主体が特定のステークホルダーにのみ偏っている場合、別のステークホルダーに切り替えて目標を考えてみること。例えば、10年後の会社のあり方、から10年後にこの会社で働く私たち、という切り替え。
⑨時間尺度を変える
 例えば、東京オリンピックのその先のビジョン(100年後の社会に価値を残す)に目を向けた上で、今の目標を考えてみる(未来)。または、会社のこれまでの歴史を紐解きアイデンティティを探る(過去)、といった形で視点を変え、目標の意味合いを揺さぶることができる。
⑩第三の道を探る
 目標の視点が「AorB」となっている場合、二項対立ではなく第三の道でAとB両取りできないかを考えてみる。

3.3 課題を定義する
STEP5 課題の定義
• 課題の定義を文章に落とし込む際は、参加メンバーにとって分かりやすく、何に取り組むべきかが明快な内容でないといけない。
• また、この時点で課題が「良い課題」かどうかを以下判断基準で確認する。
①効果性
 問題の本質をきちんと突いた切り口になっているか。問題同士の関係性を理解しておくこと。そうでないと、部分的な問題Aを解決できるが、新たな問題Bを発生させてしまう。もぐらたたきを予防すること。
②社会的意義
 どれくらい社会に付加価値をもたらすか?を自問自答する。プロジェクトに哲学を宿す。課題解決の価値を享受する関係者の視点が抜け落ちてはいけない。
③内発的動機
 プロジェクトメンバーにとって、解決したいと心から思えるものでないと、プロジェクトは上手くいかない。
• 人間の行為の源泉を個人の内側から湧き上がる衝動に置くこと。人間が変化することのモチベーションの出発点は外部から与えられるものではない。
衝動を意味のある目的に変換させるためには、知性が必要で、衝動と知性の両立によってはじめて「習性の再構築」が行われる。
• 具体的には、自己目的化やネガティブ・他責な課題設定は、自分達の外側に正解や原因を求めてしまっている。自分達の内側にある衝動を揺さぶる課題設定が重要。


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