[ルクさめ SS] 10割の夜

『やあみんな、こんばんは。さめのうたです。今日はルクと一緒にコラボ配信をします』
ルーム主のうたがマイクに向かって話す。うたはそのまま隣にいる人物に目配せをした。
『今日はさめくんのおうちに遊びに来ています。夜宙ルクです。みんなよろしくー。』
それを受けたルクが自己紹介をする。少しだけ緊張しているような声色のルクに、うたがやさしく微笑む。
『ルクは少し緊張してるみたいだから、ボクの勝ちは決まったかな』
配信に乗るうたの声は楽しそうに笑っている。
『緊張してないよ。ちょっと慣れない環境だからってだけ』
ルクが少しむっとして答えるのを意に介さずうたが話を続ける。
『今日は前半ボクのルームで宇宙人狼ゲームをやった後、後半はルクのルームで左右決戦をします。左右決戦は告白ボードゲームとかをやろうと思ってるよ。まあもちろんボクが勝つから、何をやっても一緒だと思うんだけどね?』
『みんなの中では俺の勝ちは揺るがないみたいだけど。みんなの期待を背負ってるから負けられないな』
二人が交わす言葉が配信に乗り、リスナーからは期待のコメントが寄せられる。
『ほら、やっぱり俺有利じゃん』
『言ってられるのも今だけだからね。さ、まずは人狼ゲームをするよ。というわけであとはルク!進行よろしく』
そういってうたがPCの前を明け渡す。うたが未経験のゲームのため、ルクが主導でやることになっていた。ルクがゲームを起動し、慣れた手つきで操作をする。こうして、コラボ配信が始まった。

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『みんな来てくれてありがとう。夜宙ルクです。コラボの後半は俺のルームで配信します。というわけで、さめくん自己紹介どうぞ』
今度はルクがうたを紹介する。
『さめのうたです。みんなよろしくね。前半から引き続き遊びに来てくれている人もありがとう。この枠では左右頂上決戦をするよ』
コメント欄は早くも結果予想であふれていた。
『ルクさめ、ルクさめ、ルクさめ。やっぱりみんな分かってんな~』
『みんなの期待を裏切ることになって申し訳ないけど、今日はボクが攻めだってちゃんと証明するからね』
うたの強気な発言を受け流してルクが問いかける。
『最初何するんだっけ?告白ボードゲーム?』
『うん。最初はボードゲームをやろうと思ってるよ。じゃあ今度はボクがルールの説明をするね』
うたの主導でボードゲームが始まった。

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『今の告白は攻めじゃなかったな~』
『やっぱり俺の勝ちかな?』
『まあルクがちゃんと告白できるか見てみないとね』
『俺は結構手札いいよ』

『あ、これはボク攻めなのでは?』
『いや今の言い方だけだったじゃん』
『左気質の人間は何を言っても攻めに聞こえるみたいなところあるからね』
『聞こえるだけで実際は、ね…』

『俺のものになれよ、うた。愛してる』
『うわー今のはずるい。手札良すぎる!』
『負けを認めた?』
『ルクちょっと顔赤くなってない?これは…?』

**

『これで1セット終わりかな。ほんとは最初に言ったんだけど審査員役がいるんだよね。でも今日はみんなにアンケートを取って勝敗を決めるよ』
うたが投票開始ボタンを押す。リスナーからの票がボールによって可視化され画面を舞った。ルクの勝利を示す黄色いボールに紛れて、ところどころうたの勝利を示す青いボールが見える。
『これは俺の勝ちじゃない?』
『分かんないじゃん!みんな投げ終わった?ちゃんと青色投げた?投票終了するよ?』
画面に黄色80%、青20%という結果が表示される。コメント欄はルクさめの文字であふれていた。
『違うじゃん!これは明らかに手札が悪かったって!』
『その運も含めてのルクさめでしょ、さめくんもう諦めな?』
『もう1回やろう!今度は手札とか無しで!自分で考えて告白して照れた方が負けね?』
負けたのに納得がいかないうたがルクに食い下がる。
『いやそれは…時間…は結構余ってるのか』
『ほら、みんなも見たいって言ってるよ?』
『みんなが見たいのはルクさめだからね?まあじゃあいいよ。みんなが見たいなら』
『よし。じゃあ本気でいくからね』
そういうとうたがPCから視線を離しルクに向き合う。
『ボクが先攻でいいよね?ルク、ちゃんとこっち向いて』
マイクを向いて喋っていたルクがうたの手によって向きを変えられる。二人の視線がぶつかった。うたがルクの手を取り、両手で握りしめる。
『ルク、大好きだよ。ルクがVtuber始めてくれてよかった。おかげで毎日楽しいよ。ずっとボクと一緒にいてね。ルク、…愛してる』
ルクが目を逸らし押し黙る。ルクは耳まで真っ赤にして何かを耐えているように見えた。
『ルク?おーい?すごい顔真っ赤だよ?返事はくれないの?』
『ごめんめちゃくちゃ恥ずかしい…』
『見た?みんな見た?ルクの反応めちゃくちゃかわいい!すごい真っ赤になってる!完全にボクの勝ちじゃん』
『何も反論できない…』
コメント欄も意外な反応に沸いていた。ルク様のターンがまだ残ってるから、というコメントが流れていく。
『そうだね、一応ルクのターンもやっておこうか。じゃあルク、準備ができたらどうぞ』
うたは上機嫌でルクに話しかける。ルクがまだ赤みの残る頬を抑えながら、自分を落ち着けようと深く息を吐いていた。
『じゃあ、俺の番、いくね。さめくん。…その、好き、だよ。えーっと、あー、愛して、る……』
『ありがとう、ルク。でも、もっとちゃんと、はっきり言ってほしいな。ボクも愛してるよ』
『っ…!』
ルクがまたしても言葉に詰まる。息を飲む音をマイクが拾う。コメント欄は急な展開に騒然としていた。
『はい、じゃあ終わりでいいかな。もう一回投票するね。……9:1でさめルクの勝利!ルク、何かコメントは?』
投票を終えてもまだ顔を赤らめているルクにうたがコメントを促す。
『いやもうほんとに恥ずかしい…みんなごめん』
『というわけで今日はここまで。いやーやっぱりさめルクだったってことが証明されてしまったね。まあ創作は自由なのでルクさめも否定はしないけど、公式はさめルクということで』
うたが機嫌よく終わりを告げて、配信は終了となった。
『みんなきてくれてありがとうね』
『じゃあみんな、いいクリスマスを過ごしてね。それじゃ、おやすみなさい』
『みんなおやすみ』

**

「ねえ、ルクどうしちゃったの?」
配信を終えると、真っ先にうたが心配そうに尋ねる。ルクは何も言わず目を逸らした。
「即興の告白ゲーム嫌だった?だったらごめんね?」
うたが心配そうにルクの目をのぞき込む。
「さめくんはさ、本当ににぶいよね」
ルクが見つめ返して答える。
「え?」
「嫌だったかって?嬉しかったよ。たとえゲームで、嘘だと分かってても、さめくんに、好きだよ、って、愛してる、って言ってもらえて。ボードゲームはさ、そういうルールじゃん。だからなんとか平気だったけど、あれもほんとは嬉しかった」
事態を飲み込めていないうたの顔を見つめながらルクがふわりと笑った。
「でもさめくんが俺のために言葉を選んで、愛してるって言ってくれて、なんでかわかんないけど、耐えられなくなっちゃった。馬鹿だな、俺」
「なに、どういうこと…?」
うたは戸惑ったままルクを見つめている。
「さめくんはまた冗談だったかもしれないけど、俺はまた本気だったってこと。これじゃ伝わんないか」
今度はルクがうたの手を取り、握りしめた。
「ずっと前からさめくんと友達だったけど、ずっと前から俺はさめくんが好きだったよ。さめくんは冗談で俺をVtuberに誘ったのかもしれないけど、俺は本気で嬉しかった。さめくんが新しいことやってるのずっと羨ましく見てたから。さめくんは冗談になると思って告白ゲームをやろうって言ってくれたのかもしれないけど、俺は冗談にはできなかった。開き直ってちゃんと告白すればよかったな。配信中だから恥ずかしくて。いや、さめくんに好きって言ってもらえたのが嬉しくて、かな。今更なんか覚悟決まってきたなあ」
握られた手から熱が伝わる。突然の告白に混乱していたうたも、言葉が紡がれるにつれてルクの想いを理解する。いつも見慣れているはずのルクに見つめられているのがやけに恥ずかしく感じた。
「もう一回、今度はちゃんとやるね。言っておくけど冗談一切なしの本気だから。さめくん。ずっと好きだったよ。今こうして隣にいられるのが何よりも嬉しい。そしてできれば、これからも。ずっと一緒にいてほしい。友達じゃなくて、恋人として」
ルクが握った手を離しうたの肩に置いた。二人の顔が少し近づく。
「愛してるよ、うた」
何が起こったのかうたが理解したのは、顔が離れた後だった。唇にやさしく残るぬくもりがうたの脳を酔わせる。熱を醒ますために集まった血流が顔を赤く染めていくのをうたははっきりと感じていた。
「ねえ、さめくん――」
ルクが沈黙を破る。ルクの顔もまた赤かった。それでも先ほどの狼狽は感じられない。声をかけられて初めて、うたが顔を逸らした。
「ごめん!いやそういうごめんじゃなくて、今ちょっと混乱して、というか恥ずかしくてそっち見れない、から…」
「もしかしてさめくん、照れてる?」
うたの慌てようはまさに先ほどの自分を見ているようだった。つまりは拒否感ではなく恥ずかしさで顔を背けていて、その背後にあるのは喜びだということがはっきりと分かった。
「俺もこんな顔してたのかな。こんなんされたら相手に好意があるって丸わかりじゃん。さめくんは本当に鈍感だ」
ルクが手を伸ばしうたの頬に触れる。冷たい指が熱くなった頬の表面をなぞった。そのまま逸らした顔を自分のほうに持ち上げる。
「俺は10割本気だからさ。ちゃんと伝わるまで何度でも言うよ。好きだよ、さめくん」
2度目の口づけは1度目よりはるかに長かった。

**

「メリークリスマス、さめくん」
「おはよう、ルク」
朝が弱い2人がどちらともなく目を覚ます。クリスマスの朝はひんやりとして静かだった。ルクが横になりながらスマホを操作する。
「ねえ、昨日の配信の感想いっぱい来てるよ。さめルクコメントめっちゃ多い。俺たちあの後ツイートしないで寝ちゃったから変に邪推してる人もいるね」
「ふーん。邪推ですかそうですか」
うたが機嫌を損ねたふうに言う。
「まあ表ではさめルクってことにしておいてあげるよ」
「何寝ぼけたこと言ってるの?表も裏もないでしょ」
うたがルクのスマホを取り上げ、ルクの顔に手を伸ばす。
「さめくん攻めてくれるの?」
ルクの言葉に手が止まる。わずかに躊躇している間に、ルクの手がうたの顔を引き寄せた。
「そこは躊躇しないでくれていいんだけどな。そんなさめくんもかわいいよ」
ルクが躊躇なく唇を重ねる。軽いキスを終えて顔を見ると、うたは不服そうにルクを見つめていた。
「ごめんごめん、足りなかった?」
「ちが――っ」
うたの反論が遮られる。宙に浮いた反論は、しばらくの間クリスマスの朝の空気に放置されていたのだった。

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