パンみみ日記「店員さんに店の外でばったり会う」
日々のできごとをかき集めました。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。
7月8日(月)
有休。特に予定がないのでダラダラと過ごす。だがしかし、「何もしてないな今日」という気分で終わるのは嫌だ。こんな日には、新しいごはん屋さんを開拓しよう。
散策の上たどり着いた定食屋へ。のれんが揺れている、昔ながらのお店だ。横開きの扉をガラガラと開けると、明るい笑顔のおばちゃんに迎えられた。
「お兄ちゃん、ひとり?」
当たりを確信した。食べてないけど、もう好きだ。ごはん屋開拓者たる者、店内に踏み出した一歩にて全てを把握するのだ。
カウンターでメニューと睨めっこして悩んだ末、塩サバ定食を頼んだ。
ごはんがふわっふわで、定食の魅力を改めて思い知る。塩サバも身がホクホクでおいしい。
優しい味が体に染み渡っていくのを感じながら考える。定食屋で「お兄ちゃん」って呼ばれるの、あと何年くらいかな。35歳まで行けるかな。いけたらいいな。
7月9日(火)
仕事終わり。同僚の4人で居酒屋に集合した。これは昨年結成された「バチェラー評議委員」のメンバーたちだ。
現在配信されているバチェロレッテの感想戦を開催すべく、1年越しに顔を合わせている。
「あの男性の行動の真意は?」「バチェロレッテの決断の理由はここにあるのでは?」などという議論がノンストップで繰り返された。
あるシーンひとつをとっても人によって解釈が全く異なり、それぞれの恋愛観が浮き彫りになっていく瞬間がいくつもあった。
そしてこのメンバーで集まると「番組の名シーンにちなんだおみやげ」を渡すのが定番になっている。先輩は讃岐うどんを持ってきており、ぼくはマヌカハニーを持って行った。こういうエンターテイメントを重視する集まり、いつまでも大事にしたい。
7月10日(水)
最近ハマっているバンド、サバシスターのライブへ。アーティストの初ワンマンライブに行くというのは人生ではじめて。何年後かに「初ワンマン、いたんですよ」と古参ファンぶれるのが楽しみ。
ホールなどの大きな会場でのライブは何度か行っているけど、立見のライブハウスで鑑賞するなんてほとんどなかった。しかもここ数年は声を出してはいけないライブばかりだった。
上演時間を迎える。サバシスターのメンバーたちが登場し、アルバムの代表曲を歌いはじめた瞬間、会場は一気に熱を上げた。各々が拳をあげ、声を張り上げ、熱い視線を目の前に注いでいる。「これが…ライブだったんだ…」と失われていた記憶を取り戻したような感覚がよぎった。
印象に残った場面がいくつかある。「よしよしマシーン」という曲のサビで、みんなが手を「よしよし」と振り続ける瞬間。微笑ましい。
「ヘイまま!プリーズコールミー」という曲のサビで「ヘイ!!ママ!!!」と大人たちが全力で叫んでいる瞬間。おかしい。
ライブハウスって、そこにいる誰しもの感情出力が最大限に高まる空間なんだ。
今回のツアーでハイエースに揺られながら全国を旅する間に書いた新曲「ハイエースナンバー」のおかげで、このライブの感情をずっと保存できる気がする。
7月11日(木)
仕事終わり。自宅のテレビを、会社の同僚たちと覗き込んでいる。
今日はバチェロレッテ3の最終回配信日だ。先日の評議委員会にて、「最終話をみんなで一緒に観たらいいのでは?」という話になり、「ならば我が家を解放しましょう」とぼくが名乗りをあげた。
今働いている会社の人たちを自宅に入れるのは初めてだったのでドキドキしたけど、誘ってよかった。肩を並べて番組を観ながら、全員全力ではしゃいでいた。
「えっ! 好きの気持ち溢れちゃってるじゃん!」
「いったん停止して、各々の意見を聞こう」
「なんでそっち選ぶのーー??」
などと、感情を外にこぼしながら鑑賞する恋愛リアリティショー、楽しすぎる。
最終結果に驚きつつも、感情を共にしている高揚感に包まれながら鑑賞会は終了した。
転勤しているときは同僚みんなの家が近かったから、誰かの家で遊ぶのは普通だった。けれど、東京ではなかなか誘いにくくて。
でも、こんな風に家にお招きしちゃうほどの関係性が、今の会社でもできた。この1日は、ぼくにとってとても大きな意味を持つ日になったような気がする。
7月13日(土)
図書館へ向かうため、近所の道をてくてくと歩く。すると、横断歩道の向こう側にエプロン姿の男性が自転車に乗っているのが見えた。あの黒いエプロン…とても見覚えがある。ふと目線を上げると、見知った顔が映った。行きつけの喫茶店で働いている、青年バイト君だ。買い出しか何かだろうか。
すれ違いざまに目が合う。彼もぼくのことを認識し、少し驚いた顔を見せた。
「こんにちは」
ほとんど同時に放った挨拶。お店の外で会うのは照れくさくて、思わず表情がクスクスとしてしまう。
5文字だけだけど、青年バイト君と少し距離が縮まった気がする。
*
図書館でゆっくり過ごしたあとは、お昼ごはんを食べにそば屋へ。昔ながらの店構えで、感じのいいおじちゃんとおばちゃんがチャキチャキと天ぷらを揚げている姿が目に映る。
山菜うどんを頼むと、これが出てきた。
おかしい。山菜は確かにいるけれど、中にひっそりと佇んでいる。主演俳優よりなぜか脇役たちが豪華キャストの映画みたいになってる。絶対これ「かき揚げうどん」じゃん。
どうやら、このお店ではかき揚げ×2と野菜の天ぷらが標準装備になっているらしい。これでお値段は480円。どうなってるんだ。物価が上がらなかった世界線で材料調達してるのかな。
たくさんの天ぷらをもりもりといただいた。最近、当たりのお店を引く力が強い。休日の醍醐味は、やっぱりごはんとの出会いにある。
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