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パンみみ日記「いる人全員が本を読んでる喫茶店」

日々のできごとをかき集めました。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。


6月24日(月)
有休。9時ごろに起き、ベッドでデロデロとスマホを眺める。はっ、このままではカバのように寝て1日が終わってしまう。

意を決して、陽の光を浴びに外へ出る。ドトールで眠気覚ましのコーヒーを飲み、自転車でチャリチャリと近所を散策。

むむ。見たことのない、ごはんカフェが新しくできている。この辺そんなに通ったことなかったな。行ってみよう。

店前で自転車をどこに停めようかウロウロしていると、ガラガラと扉が開いた。

「こんにちは! 自転車はね、こっちの方に置いてもらえると」

黒縁メガネをかけた、感じの良いお父さんが顔を出した。アドバイスに従って駐輪し、店内へ。すると、ほがらかな表情のお母さんがお水を持ってきてくれた。夫婦で営んでるのかな。

メニューを開き、ひとり暮らしでご無沙汰になりがちな焼き魚定食を注文。

途中でお母さんから「お兄ちゃん、茗荷食べられる?」と聞かれ、「食べられます!」と答えた。この些細なやりとりで「ここは信頼できるお店だ」と納得した。なんでか知らんけど。

実家のような安心感のある小鉢たち

どれも丁寧に作られたことが一品ずつぼくに語りかけてくれるような、優しい味わいだった。

おいしくいただき、食後のコーヒーでゆっくりしてお会計に。おいしかったこと、また来たいことを夫婦に伝えた。とても喜んでくださり、お店の案内を渡してくれた。

どうやら、今月できたばかりのお店らしい。どうりで、店内は綺麗なわけだ。2人からも初々しい雰囲気が漂っている。

ぼくの心の中の常連センサーが告げている。「ここに通え」と。この夫婦と、関係性を育んでいく未来が見える。しかもオープンしたばかりのお店だ。「デビュー当時から応援してた古参ファン」みたいなポジションにつくことができるかもしれない。なぜそこを目指しているのかは自分でもわからないけど。

「全然、リモートワークとかもここでやっていいですから」

お父さんが去り際に声をかけてくれた。いいんですか。本当にやっちゃいますよ。入り浸っちゃいますよ。

こんな素敵なお店を見つけた日は、一日中機嫌がいい。


6月25日(火)
営業。訪問先へ向かう途中、ホームで立ち尽くす。ふと、何者かに語りかけられるようにして言葉が浮かんだ。

「このままでいいのだろうか」

またこれだ。時々、ポトンと足元に落ちてくる不安。転職を果たし、自分の興味ある業界へ足を踏み入れることができた。ワークライフバランスも保たれ、自分のための時間を充分に確保できている。

けれど、何かが足りない気がする。このままじゃ、とてつもなく大切なものを置いたまま30歳を通り越してしまう気がする。でも、その「何か」が何を指しているのかは自分でもわからない。

見えない焦燥感に後ろから両腕を回され、心臓を触れられている心地がする。がむしゃらに今を生きているとき、こんな不安に飲み込まれることなんてなかった。

心にゆとりがあるときほど、1番しんどかった時期を輝かしく見てしまう。台本には少しの脚色を入れて。だから「都合のいいことを言っている」とはわかっている。わかってはいるのだけど。

夢に欠乏しているときほど、息がしやすい。そんな矛盾が世の中にはあるのだろうか。


6月27日(木)
会社。斜め向かいの席のタイヨウさん(この世の主人公みたいな先輩)に話しかけられる。

「よさくさんって、どら焼き好きじゃないですか。だから実家からどら焼きもらってきたんですよ!」

おい。好きになっちゃうよ。タイヨウさんの実家は和菓子屋さんなのだ。しかし、急にタイヨウさんは頭を抱え出した。

「でもっ! 家に置いて来ちゃったんですよ〜! うわぁぁ、絶対今日だった〜!」

おい。お茶目すぎるよ。人を喜ばせたいのに、すぐに実現できないもどかしさに包まれるタイヨウさん。無限に眺めていられるな。

今日もこの人は主人公なのだ。


6月29日(土)
行きつけの喫茶店へ。カウンターでマスターとおしゃべり。なんと、このお店がドラマの撮影で使われることになったらしい。マスターに誇らしげに伝えられた。

出演する俳優の名前を聞き、胸を躍らせる。めっちゃ知ってる人だ。放映はしばらく先だろうけど、楽しみだな。

「撮影の日さ、来る? 身内っていうことにしておいてあげるよ」

ほんと? 冗談テンションだったのでどこまで信じていいのかわからないけど、とても行きたい。



喫茶店を後にして初台へ。目的地は読書特化型喫茶店「fuzkue」。

システムが天才。席料がかかるのだけど、フードやドリンクを頼めば席料が安くなる。何も頼まなくてもOK。「そろそろ飲みもの追加したほうがいいかな」という感情に邪魔されずに読書に集中できる。

お昼時に行ったので、気になっていたお味噌汁の定食を注文。

優しさを受信できる系ごはん

みんなが黙々と本を読んでいる中、「チチチ…」というガスの音や「コポコポコポ」とお茶を沸かしている音がささやかに聞こえてくるのが良い。

そして興味深いのがメニュー表。50ページある。本じゃん。このお店のコンセプトやルール、料金システムがと〜っても丁寧に書かれている。ドリンク1品についても文章で解説や店主の方の想いが綴られているのだ。読みものとして楽しかった。

気になる過ごし方については、事細かに決まっている。「雑談NG」だけでなく、タイピングや文字を書き続けることも推奨されていない。よって仕事や勉強をしている人はおらず、全員「淡々と読書」をしている。

「厳しくない?」と思われるかもしれないけれど、このルールがあるからこそ秩序が保たれている。その想いも込めてメニュー表に記載されているので、全然嫌な気がしない。むしろ「こんな空間待ってました!」という感じ。

このお店に来る人は全員がそれを理解しているので、勝手に一体感を覚えていた。みんな…この空間に居合わせてるだけだけど…心はひとつだよね…!

結果的に4時間いた。こんなお店を立ち上げる人が世の中にいるんだ、というだけで少し勇気がもらえた。

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