見出し画像

パンみみ日記「ラッコガチ勢と、にわかラッコ」

日々のできごとをかき集めました。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。


5月26日(日)
大学の友人の結婚式へ。新郎はサークルの同期であり、大学時代は多くの時間を共にした。一緒に変な企画もいっぱいしたなあ。

山手線一周を歩いたり、大学からぼくの地元まで60キロを夜通し歩いたり。冷静に考えて意味がわからない遊び方だけど、今も当時の感情が滲み出るほど、心に植え付けられている思い出。

そんな彼が、結婚する。彼が彼女と同棲を始めてからは会う機会が減ってしまっていたけれど、あらためて寂しい気持ちがよぎる。あーあ、そっち側行っちゃうよなぁ。

披露宴で流れるスライドショーには、ぼくの知らない彼の姿がどんどんと流れていく。大学時代は、君の知らない日常なんてあまりなかったのに。

隣の席にいる未婚の友人がつぶやく。

「結婚したいとかもあるんだけどさ、それより周りが結婚して遊べなくなるのが嫌なんだよなぁ」

わかる。結婚を見送る側は、どうすればいいんだろうね。

披露宴が終わり、会場を出る。二次会の会場へそのまま向かうには早いし、一杯やるには短い時間だ。

みんながどうしようかと迷っていると、当時の幹事長が口を開いた。

「俺さぁ、やりたいことあるんだよね」

同期たちが、一斉に幹事長へ顔を向ける。はて、何を提案するんだろう。

「プリクラとろうぜ」

なぜそうなるんだ。アラサー男性が7人集まってやることの、1番選ばない選択肢だろ。

みんなはゲラゲラと笑いながらも、一斉にゲームセンターへと足を向けた。プリクラを発見し、女子高生たちに紛れてブースに入り込む。

終始ノリノリで撮影に臨み、おえかきコーナーで存分に筆を走らせ、印刷された写真にお腹をよじらせた。みんなバカ盛れてた。

何歳まで、こういうことできるんだろう。大学当時がキラキラとして見えるように、意外に今も、10年後からは輝いて見えるのかもしれない。


5月27日(月)
仕事終わりにスーパーへ。レジには見ない顔の店員さんだ。カゴを置くと同時に、チラリと名札に目を向ける。

「応援スタッフ 丸山」

なるほど。普段見ないわけだ。どこの店舗から来たんだろう。

ぼくが考えているのも束の間、丸山さんは手際良く商品をスキャンしていく。いや、「手際が良い」なんてもんじゃない。早すぎる。気がついたら、全ての商品がスキャンを終えていた。

それでいて「レジ袋が必要か」「ポイントカードはあるか」といった確認をする声は聞き取りやすく、スピーディーなのに不快感がない。

感動した。ぼくがエリアマネージャーだとしたら、彼女に「S」評価をつけているだろう。

また応援に来てほしい。


5月28日(火)
職場でランチ。「ボードゲームって楽しいよね」という話が展開し、「ボードゲームを作っている会社にはどんな仕事があるんだろう?」という疑問にぶち当たる。

ネットで求人を検索すると、こんなアルバイトに行き着いた。

募集職種: カードゲームのテストプレイスタッフ
必要な資格・経験: カードゲーム経験者

大学時代に見つけたかった〜! と全員で膝を打った。というか「カードゲーム経験者」って何? どんくらいやれば「経験者です」って言えるんだろう。


5月30日(木)
仕事終わりにテニスサークルへ。初めて会ったメンバーがいたので、コート脇で挨拶をする。

するとその方がラッコ好きであることが発覚し、「ぼくもなんです!」と距離を詰める。

お話を進めていくと、彼女はラッコガチ勢らしく、鳥羽水族館の24時間ラッコ水槽生配信を自宅で流しており、伝説のラッコ飼育員「石原さん」のこともご存じだった。

あまりにもレベルの違いを感じ、軽々しく「ラッコ好き」なんて言えたもんではない。思わずこう口走っていた。

「すみません! 好きって言っちゃったんですけど、ぼくなんか全然にわかラッコなんです!」

にわかラッコって何。


6月1日(土)
行きつけの喫茶店へ。マスターとマダムとはおしゃべりをするようになったけれど、まだ青年バイト君とは気軽に話せる間柄にはなっていない。

そもそも、彼はバイトなのだろうか。土日に行くと9割の確率でお店にいる。もしかして親族なのだろうか。ただマスターとマダムの息子にしては若すぎるし、孫にしては大きすぎる気がする。

彼の正体を聞いてみたいな、とモヤモヤしながらコーヒーを啜る。すると、カウンターに座る男性客が青年バイト君に話しかけていた。

とても楽しそうにおしゃべりをしている。いつもクールな雰囲気を漂わせる青年バイト君も、心を許しているよう様子だ。

……常連レベルが高い。ぼくも常連界でそれなりの位置をキープしていると自負していたけど、まだまだ甘かった。

「もっと通わなければ」という自覚を胸に喫茶店を後にする。

午後は同僚と合流。おすすめの本を交換しており、返却とともに感想大会をすることになっていたのだ。

それぞれの作品の中で印象に残ったセリフや、登場人物の言動に対する解釈について話し合う。本以外にもお互いに好きなコンテンツの話をしていくうちに、時間があっという間に溶けていく。

ふと時計を見ると、集合時間から5時間が経過していた。えっ! そんなことある!? お互いにビックリ。

「また本の交換をしましょう」とお別れした。自宅に戻り、返ってきた本の表紙をなでる。素敵な時間を連れてきてくれて、ありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?