死ぬまでずっと-『ゆれる』TK(2023年)
アニメ『チェンソーマン』第8話エンディング「first death」と『東京喰種』の主題歌「unravel」。
2月、打ちのめされた私は、この2曲以外顔も知らない「TKfrom凛として時雨」のファンクラブに入った。
同時に春のツアーに申し込んで当選した。5月には会える。
この本に出てくる知らない単語はすべて意味を調べて読んだ。
途中で出てくる楽曲も全部YouTubeで聞いた。どちらも普段の読書ならしないことだ。
TKさんの同級生が歌ってた奥田民生の「イージュー★ライダー」や、中学生のTKさんがお姉さんに聞かせた「白い雲のように」、大学生のときバンドに入りたくて他のメンバーに聞かせたB'zの「Calling」のデモテープ、高校のクラスメイトが音楽の時間に演奏したTHE OFFSPRINGSの「Prtty Fly(For A White Guy)」。
思い出のなかで楽曲の名前がたくさん出てくるのは、TKさんの人生にそれほど多くの音楽が印象強くあったからだろう。
それというのも、おこがましいが、私も日々小説のタイトルやシーンが浮かぶからだ。私の人生のそばにも常に小説があった。
TKさんはカメラのファインダーを覗いて画角をきめ、光量を絞りこむみたいに、鮮明な記憶と曖昧にぼやけた記憶を持っている。その計算していないバランスが、この本の大きな魅力だと思う。
たとえば、ロンドンの曇り空や初めてギターを買いにいったお茶ノ水の暑さや車中での冷房の具合、イギリスに向かったときのバゲージタグの配色といった細かなことを憶えているが、高2のときの初ライブはこう書かれている。
曲を制作したときの記憶もないらしい。ないというか、正確に言うと一言で言い表したくないから話せないのだという。音楽に対する真摯な姿勢だと思う。
この本は多くの著名人の本のように、ライターにインタビューしてもらい、文章にまとめてもらったものを出版するはずだった。しかし出来上がった原稿を読んで、改めて自分で書きはじめたそうだ。だからこそTKさんしか書けない景色ー曇天の、日差しの、孤独なスタジオの—ある文章になった。
TKさんはこの文章たちの特別さに気付いてるだろうか?
バンド結成時のエピソードの愛おしさに泣きたくなった。
この人は私が眉をひそめるようなことは言わないし、しないだろう、と思わせる信頼がある。
この人の生み出すものは全部大好き。
そう思える信頼がTKさんにはある。
私に音楽の知識がまるでないので、どの音がどの楽器なのかも音楽用語もジャンルも知らない。唯一読み取れるのは歌詞だ。
歌詞カードを見ながら聴くと、信じられない思いがした。素敵すぎて、私の手に余る。メッセージがない純粋な歌詞が心地よいのだと気づいた。
TKさんの音楽を聴いている間、私は強い気持ちでいられた。
そして、イヤホンを外すといつもの無力な私に戻る。
最後、すごく大切なことが書かれてあると感じて、今読んでしまっていいのか自問した。
TKさんか私か、どちらが先かわからないけれど、死ぬまでずっと、私はTKさんの音楽を聴く。
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