ユキ

本の感想と本の感想にかこつけた日記と単なる日記など書いていくつもりです。 生きててあ…

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本の感想と本の感想にかこつけた日記と単なる日記など書いていくつもりです。 生きててあまり楽しくない私が、自分の人生を取り戻す過程を書けたら、と思っています。 ※このアカウントに書かれてあることはすべてフィクションです。 (2024.2.11)

最近の記事

不思議の国のサラリーマン-「馬」小島信夫(1954年)/村上春樹『若い読者のための短編小説案内』②

 理屈のちがった世界に放り込まれたみたいだ。  受け身に次ぐ受け身の主人公におかしさと切なさと心細さが止まらない。笑えるという意味も含めて傑作中の傑作だ。なにもかも巻き込まれているはずなのに、これを引き起こしたのはどうやら僕自身らしいという無責任具合。  夫婦小説?妄想小説?リアリズム?それとも狂人小説?落ち着いているのに狂ってる。いちいちつっこんでいたらキリがないほど仰天させられた。  村上春樹は『若い読者のための短編小説案内』で「馬」について、これでもかというくらい「変

    • ロックの定義がわからない-『尾崎世界観対談集』(2024年)

      猛烈に暗くて、死んだこころと殺したい気持ちで本屋を彷徨うと目が合った。過去の嫌だったことが私の思考を襲うのを無表情にされるがままあしらう。この人の音楽は知らないけどこの人の文章は知ってる。町田康みたいに。なぜか?私の好きな作家金原ひとみが彼らクリープハイプ(バンド名を別のグループと混同しててちゃんと書けてるか心配)のファンで、よく話に出てくるからだ。音楽もできて小説も書けるなんていいですね。でも、この人にヒントを教えてもらいたかった。壊してほしかった。尾崎さんは前髪が長くて、

      • 雨に閉じこめられるー「水の畔り」吉行淳之介(1955年)/村上春樹『若い読者のための短編小説案内』①

         よくまじめな読書をしている。  金原ひとみの『マザーズ』が読みたいから、外堀を埋めるように彼女の作品を出版順に読破したし、川上未映子の『夏物語』を読みたくて、同じ登場人物が出るという『乳と卵』を再読した。(読んだらわかるが、これはやめておいた方がいい。) 書評家で近畿大学で教鞭をとる江南亜美子さんに会えるときは先生の著名の入った本を片っ端から読んだ。  何年も放置していた村上春樹の『若い読者のための短編小説案内』に再挑戦すると決めたとき、まじめな私が再燃した。  この本は

        • 死ぬまでずっと-『ゆれる』TK(2023年)

           アニメ『チェンソーマン』第8話エンディング「first death」と『東京喰種』の主題歌「unravel」。  2月、打ちのめされた私は、この2曲以外顔も知らない「TKfrom凛として時雨」のファンクラブに入った。  同時に春のツアーに申し込んで当選した。5月には会える。  この本に出てくる知らない単語はすべて意味を調べて読んだ。  途中で出てくる楽曲も全部YouTubeで聞いた。どちらも普段の読書ならしないことだ。  TKさんの同級生が歌ってた奥田民生の「イージュー★

        不思議の国のサラリーマン-「馬」小島信夫(1954年)/村上春樹『若い読者のための短編小説案内』②

        • ロックの定義がわからない-『尾崎世界観対談集』(2024年)

        • 雨に閉じこめられるー「水の畔り」吉行淳之介(1955年)/村上春樹『若い読者のための短編小説案内』①

        • 死ぬまでずっと-『ゆれる』TK(2023年)

          物語を生きたくなるだろう-『箱の中のあなた』山川方夫(2022年刊行/1959-65年作)

           子どもの頃、星新一を浴びるほど読んだ。一編がすぐ終わるのがどんどん読めているようでうれしかった。エヌ氏だとかエス氏だとか、頭文字だけにされたカタカナ表記の登場人物は、小学生の私には外国人よりも未来人に思えた。  あれが私の読書の始まりだった。  だから、ショートショートの本と聞いて、すぐに思い浮かんだのは星新一だった。どの時代か、どの系統か、誰と親しいか、まったく知らない作家・山川方夫を知れて嬉しかった。  2022年刊行のちくま文庫の表紙は素敵で、さらに時代がわからなく

          物語を生きたくなるだろう-『箱の中のあなた』山川方夫(2022年刊行/1959-65年作)

          幸福だと思ってみたい―『自殺』末井昭(2013年)

           ノンフィクション作家・河合香織の『絶望に効くブックカフェ』(小学館文庫/2017年)で紹介されていて、ずっと死にたいと思っていたので購入した。文庫本はなく、買うのに逡巡したが、その迷いがめぐりめぐって私を死にたくさせているのだ。  小学校にあがったばかりの頃に母親が自殺した話  青木ヶ原樹海で仕事をしている人の話  両親が心中した女性へのインタビュー  お金と自殺について  最後の「迷ってる人へ」など、18章からなる。  簡潔な文章。何より印象的なのは、母親のダイナマイ

          幸福だと思ってみたい―『自殺』末井昭(2013年)

          書く、書きたい、書くことしかできない-『ここから世界が始まる』トルーマン•カポーティ

           物語を読みたいとずっと思っていた。物語に逃げこんでそこを居場所にしたいと。この頃本を買いすぎているのにどれも気分に合わないように思えた。    青山ブックセンターの目の高さの棚に並べられたカポーティの私の知らない短編集を、なぜ手に取ったのかわからない。彼はずっと前に亡くなっているのに、こうしてちらほら新刊や新編集が出版されるのだ。文庫本のあらすじに目を通してから、帯の裏面の村上春樹の解説の抜粋を読むと、私はもう買うことを決めていた。  そのあと表参道にあるジュエリーショッ

          書く、書きたい、書くことしかできない-『ここから世界が始まる』トルーマン•カポーティ

          あなたには見えない人生の前提-『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ(2021年)

           同じ作家を何冊か読んでると、その作家が無意識にこの世界をどう見てるかが読み取れるときがあります。 「世界をどう見てるか」もだし、 「世界をどんな前提として生きているか」もです。  たとえば江國香織は世界を(人よりも)美しいものように見えているし、小川洋子は(人よりも)さまざまなものの重なりが微細に見えているし、金原ひとみは(人よりも)絶望と恋愛の目で見ています。 「人よりも」ってところがポイントで、全員同じこの世を見ているんです。  それは文章を書いていない人にもあ

          あなたには見えない人生の前提-『アンソーシャル ディスタンス』金原ひとみ(2021年)

          世界の半分のあなたたち-『永遠も半ばを過ぎて』中島らも

           現代男性作家を読むことはめったにない。  それに危惧を感じて中村文則の『掏摸』や吉田修一の『悪人』を買ったこともあった。どちらも最高に好きな小説になったけれど、習慣的に読む対象にはならなかった。  なぜなら男性作家は私からもっとも離れた存在だからだ。私は自分を弱いと思っており、読書に居場所と共感と自浄作用を求めている。男性作家ではその対象になり得ない。  それに私は男性に冷たすぎるし、警戒しすぎているし、憎みすぎているのかもしれない。嫌いな人間を視界に入らないようにし、声を

          世界の半分のあなたたち-『永遠も半ばを過ぎて』中島らも

          「わたしわたしわたし!!!」のことを書きつけろ ー『かみにえともじ』本谷有希子・イラスト:榎本俊二

          〈当初の感想〉  実にくだらない。私は元来「くだらない」をむしろ愛することばとして使用しているが、これは本来的な意味においてくだらない。  自意識過剰じゃない人なんていないと思っていたが本谷有希子のそれは度を超えている。これが本物だった。私なんて全然だったんだ。私は私は私はて、この本の内容に興味の持てる人は本谷有希子のストーカーか本人くらいのものだろう。誰もが、「私は」で始まる文章を即座に100は思いつくとおもう。私は人見知り(なんて便利なことばだろう?)、私はチョコレートを

          「わたしわたしわたし!!!」のことを書きつけろ ー『かみにえともじ』本谷有希子・イラスト:榎本俊二

          津村記久子さんにお会いした(2023/11/25)

           「超庶民派芥川賞作家」という紹介を見たことがある。私の中では「友だちになりたい作家No. 1」だ。  大阪市立図書館のイベントで、津村記久子さんの講演に参加した!インフルエンザの病みあがりの体で、「来て良かった」と何度も思った。  最新作についてや創作秘話が聞けて、サイン会もあり、直接お話ができて感激だった。  数日前、眠りがくるまでの暗闇のなかで、好きな作家を数えてみた。読んでいる冊数が多くても、ファンとは言い切れない作家は入れなかった。7人だった。6番目に数えたのが津

          津村記久子さんにお会いした(2023/11/25)

          あなたも強い気持ちになれるー『憂鬱たち』金原ひとみ 

           彼女のことをなんとも思ってない時期の私が見たら「安直なタイトル!この人、同じことしか書けないの?」と思っただろうが、私は今や何をおいても金原ひとみ読者なので「なんて端的で率直なタイトルなんだろう」と肯定した、私が好きだ。  7つの短篇集。そのすべてが「ミンク」や「ピアス」など、カタカナ3文字のタイトルが並ぶ。  主人公神田憂は精神科に行こうと毎回決意して外出するものの、さまざまなものに阻まれ、病院にはいっこうに辿りつけない(そうさせるのは何よりも彼女の妄想なのだが)。

          あなたも強い気持ちになれるー『憂鬱たち』金原ひとみ