見出し画像

生きてきたことを刻みつける-『私が食べた本』村田沙耶香(2018年)

買ったまま読んでない本を読んでくシリーズ①:759円
(あと100冊ある…)

小さなころ怖かった古典、過去の嫉妬を思い出す小説、何度も買った作家指南書、そして自身の著書について……デビューから書き続けた「本」にまつわるエッセイを一冊に。新たに5本を追加収録! 芥川賞作家である著者初の書評集。解説・島本理生。

朝日新聞出版HP

 この本を買った理由は村田沙耶香の創作方法を知りたかったから。
 この本を読むのをやめた理由は、書評の文章が型通りの展開で、あまり面白く感じられなかったから。
 再開した理由は、私が今こうしてnoteに本の感想文を書くようになったので、参考になるかもしれないと思ったから。

 『文藝別冊』の川上未映子特集で村田沙耶香の文章を読んだことがある。8人の作家それぞれが川上未映子作品を紹介するというもので、村田沙耶香はいじめを描いた『ヘヴン』を取り上げていた。
 芥川賞受賞作『コンビニ人間』が有名な村田沙耶香だが、私は、村田沙耶香は超越者-本格的に変わった人と思っていた。何事にも動じない、世間の尺度に翻弄されない人。観察者。だが、この『ヘヴン』への文は、心臓を突かれるものだった。

 中学三年生のとき、私は死のうとしていた。理由はささやかなことで、クラスの女の子のグループからの無視と毎日の「死ね」だった。(略)
 中学生のころの私も、死をもって告発することを空想していた。当時の私が一番好きな空想は、支配者である女の子を校舎の裏に呼び出し、自分は屋上から飛び降り、女の子の目の前で肉片になって破裂することだった。

『文藝別冊 川上未映子』P.195

 村田沙耶香がいじめを受けていて、自殺を企図していたとは想像外だった。しかも自殺の結果が「お葬式で爆笑している彼女しか思い浮かべることができなかった」とまですすんでいたことも。残念ながらその通りなのだ。罪悪感を抱けるほどの知能がある「人間」ならいじめはしない。
 あのときから村田沙耶香への見方が変わった。
 殺してやろうぜ全員。文章で。

 本の前半は書評。デビュー後の2004年〜2018年と長期に渡る。
 良いなと思ったのは川上弘美の『大きな鳥にさらわれないよう』と小川洋子の『琥珀のまたたき』、村田沙耶香が「この本の言葉を二度と読めなくなったら、私はどうなってしまうのだろう」と不安で何冊も買った小説指南書『書く人はここで躓く!』(宮原昭夫)の書評。とくに『琥珀のまたたき』は挫折中なので、この「買ったままシリーズ」に登場させたい。

 約260ページの本書のうち、50ページほどにあたる後半が自著紹介や受賞のことば、創作についてのエッセイだった。
 ここから俄然面白くなり、喫茶店で一気に読んだ。帰ることができなかった。

 小さい頃から、自意識に苦しめられてきた。書いている間は、自意識から解放された。これをしたら自分がどう思われるかという、いつも自分を縛っている意識が小説を書いている時だけ消滅して、ただ物語のためだけに言葉を探すことができた。

『私が食べた本』「不思議な日々」村田沙耶香 p.187

 マジで?ってなった。自意識に苦しんでいたの?
 文章を書きたい、書くしかないと思ってる人の言葉だと思った。私がなぜ書きたいか、書くしかないと思ってるかは、生きるか死なずに済むかの話なのだ。私は私の言葉を書きたい。私が生きてるって言いたい!無視されずに、踏み躙られずに、私はここにいる!って言いたい。私の価値を勝手に決めさせない!だから私は書きたいし書くしかないのだ。そうじゃなきゃ私は死んでる。村田沙耶香が書く理由・.私が書きたい理由がつまっていた。書くことで生きてきたことを刻みつける。

 島本理生の解説がめちゃくちゃ良かった。第三者から見た村田沙耶香エピソードはやはり度肝を抜かれた。それを平静に受け止める島本理生の文章はそれとなく自然なのにやさしさに溢れ、愛おしかった。泣けるほどあたたかい。

 読んで良かった。心からそう思った。

購入 2022/11/19
読む・note 2024/4/26〜5/4
note完成 5/5

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?