語られる言葉があれば生きていた証になる-『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ(2022年)
(1,962文字)
買ったまま読んでない本シリーズ③:1,700円
希死念慮女子と婚活しなきゃ女子という、2人合わせてわたしの二大劣等感を現してる小説。
ずっと前に買ったのにやっと読み出した。婚活女子の内容に落ち込む可能性を憂慮したのだ。もし少しでも「結婚しないとやばいよ!」って書いてたら、わたしはしばらく死ぬことになる。
帯の馬場ふみかさんの推薦文がいい。この帯のものが欲しくて何軒か探した。
この帯裏の引用。これで買った。
この婚活腐女子・由嘉里が、希死念慮キャバ嬢・ライに一生懸命死んだらいけない理由を話して聞かせる内容が、全部空虚に聞こえた。死にたい人を理屈で止めるのは難しい。
由嘉里が愛してるのは「ミート・イズ・マインド」(略してM・I・M)という焼肉擬人化アニメ。このアニメの作り込みが面白くて、密度が濃かった。たとえば正肉系と内臓系の部位でキャラクターがちがったり、リアルイベントの名前が『炭火かガスか、それが問題だ』でおもわず笑ったし、その舞台での由嘉里的萌えセリフが「炭火だってガスだっていい! 俺たちは美味しく食べてもらいたいだけなんだ!」だったり、かつて由嘉里の推しキャラが漫画内で死んだときの壮絶な心情を書き表してるのとか、金原ひとみの中にオタクが憑依したのか思うほどの筆力だった。
小説の中にある言葉に救われることがある。初めてのデートをした由嘉里の「この間もライさんのおかげでデートにこぎつけることができたんです」って言葉にライはサラッと言葉を返す。
わたしは、会ってもらった人(この言い方がすでに卑下)に対して、時間取って悪いと思ってたけど、断らなかった時点で向こうの判断なんだから、別に悪びれることないんだとこのセリフから教わった。ライのこの言葉を読んでから1日一回反芻した。
これから死ぬつもりなのに、卑下やめな?ってナチュラルに修正するライが謎だ。由嘉里の態度が普通に疑問だったんだろう。
これも良かった。男性からのLINEをどうしようか由嘉里が悩むシーン。
ライの言葉はすごくシンプルなのに、自己卑下がデフォルトのわたしには新鮮で響いた。
あまりにも徹底した推しへの愛の語りに、シーズン中じゃなかったら阪神タイガース及びプロ野球への関心が皆無になる自分は愛がないなと思った。
ダサくて別に可愛くない由嘉里を、誰もバカにしない。わたしの認識では、人は見た目で判断され、一定基準を下回れば軽く扱われるって思ってた。すごくキレイな顔したキャバ嬢ライも、No. 1ホストアサヒも、廃れた精神の小説家ユキも、ライたち行きつけバーの女言葉を話すオシンも、全然由嘉里を見下さない。対等に一人の人間として接している。そのさまに救いを感じた。「ここに世界あるじゃん」って。
ライの希死念慮とわたしのそれは全然ちがった。
ライは死にたい理由がわからないという。わたしは理由がわかってる。ライは死にたい、わたしは実は死にたくない。というか、最近わたしは全然死にたくない。だから参考にはならないのだ。よく、金原ひとみは憂鬱の理由がわからないと書いている。わたしと彼女はそこが大きく違うのかもしれない。そんなことよりも、この小説でわたしはそのままの自分を肯定された気持ちがした。
購入 2023/12/30
読む 8/13〜23
note 8/27
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