「あくまで主観を研ぎ澄ますものに」

ある男から壺を買った

身体がすっぽりと入る巨大な陶器製の壺は鳳凰の眼が滲んで安っぽい孔雀に見えた
大袈裟な冠を見て少しだけ笑った
底の処理は至って量産型で、特別じゃない品物だとは解ってはいた
装飾も金箔も、外側なんてどうでもよくって
ただ中に入ると、感傷涙液で充たされた内側は心地好くて、あたしは水を得た魚になれたし温くて暗くて落ち着いたし
曲線と腰椎のカーブがぴたりと沿って、理由なんて要らないほど、私はそれを気に入った

男の言い値で、私が一生かけて払い続けるつもりで買った

他人は好き勝手に噂をしたわ
やれ狂っただとか瑕疵持ちだとか
洗脳されただとか神なんていないとか
あんなのはただの珪酸と粘土にしか過ぎないのにって

壺は壊れ物であること以外に
何物なのでしょう
そう思った途端、本当に馬鹿な女に私は成るのです


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