第6話 モヒカンとモヒート
チャリンコからの卒業。
そう、俺はバイト代を貯めて原チャリを買った。
ようこそ、スズキとホンダのお店へ。
「さぁあああ、俺を選べッ!」と言わんほどの無言の圧力をかけてくるバイクたちの群れ。狭い店内にぎゅうぎゅう詰めのバイクたちは武骨な牛を思わせた。ぎゅうなだけに。
カウボー……店長はいたって無口だ。
重低音のカブトムシ。
――ホンダエイプ。
黄色い閃光、その名は猿。
――ホンダモンキー。
あああー、DQN臭ぱねぇす。
――ホンダダンク。
ああああー、形容すんのめんどくせぇ。
――ホンダカブ。
ただ、予算が圧倒的に足りてねぇ。
俺は仕方なくスズキのレッツを買った。現金で。
それもフォー(4)!!! しかもうんこ色。
「モヒ」と名付けた。
練習時間ギリギリでその日は急いでた。
ギターケースを肩から担いでモヒに跨《またが》ると、ミラーに糸を引っ掛けた蜘蛛が風を受けてくるくるくるくると、たなびく。
いつの頃からかモヒの中には小さな蜘蛛が住みついていた。
住所は右グリップ市スイッチボックス町その隙間。
風を受け円を描きながら翻弄されている。
このまま走ればこいつは落ちて後続の車体に轢かれプチ死だ。
※プチ死=圧死
いや、待てよ。この残像。
くるくる回ってボヤけて全体像は見えてはいないが、コイツはセアカゴケグモじゃねぇのか?
くるくる回る軌跡に赤い点が見えなくもない。
失速して風が止まったら、俺の手をガブりなんて事があるかもしれない。
ああ、ロッカーが毒蜘蛛に噛まれて死ぬなんてダサすぎる。
しかもレッツ4に乗ったまま。
あああぁぁぁああああああああああ
ぁぁぁああああああぁぁぁああああ
葛藤を抱えたまま、風を全身で受けモヒを走らせていた。
俺らは、いつも何かと戦っている。
言わないだけで。
言えないだけで。
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