移動する

タクシーに乗ったことがない
いや、正しくは自分の意思では乗ったことがない
記憶にあるのは幼い頃にきょうだいが体調を崩し救急車で病院に運ばれ狭い病室で数時間点滴を打たれて処置が終わった真夜中に帰宅手段がなく仕方なくタクシーに乗ったことだ、病院内を非常灯だけが照らし、ロビーの長椅子でひたすらタクシーを待っていた、あの病院はいまは移転して廃墟になっているらしい、廃墟好きとしては取り壊される前に探索してみたい、自分の不調で行くよりもきょうだいの付き添いで行くことが多かった病院の記憶はいつだって夜だ、一定のスピードで落ちる点滴を見つめていたあの頃、自分は点滴を打ったこともなければ入院もしたことがない、健康体ではないだろうけど病院とは縁遠い人生だ
移動手段はもっぱら徒歩か自転車がバスか電車の生活だからタクシーなんて選択肢はほぼない、車酔いするからできれば乗りたくないしバスも20分以上乗るとうっかり酔いかけるし、人様の車はドアを開けた瞬間に、あ、無理かも、と絶望する、窓を全開にして風を感じるか寝るか最終手段は酔い止め薬を服用する、ドライブデートとか地獄、はやくどこでもドアが現実になれば良いのに、一家に一体ドラえもん、もしくはドラメッド三世がほしい、怒ると巨大化するドラメッド三世はかわいい、でも魔法のじゅうたんはめちゃめちゃ酔いそうだから遠慮したい、そう妄想しながら今日も電車の先頭車両に乗り、なにかあったらすぐ死んじゃうな~なんて意外とみんなが考えていないことを考えながら生きている

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