山﨑幸愛/志知那月

「山﨑」と書いて「センザキ」と読みます。作家。自称・思索家。【Twitter】一家言:…

山﨑幸愛/志知那月

「山﨑」と書いて「センザキ」と読みます。作家。自称・思索家。【Twitter】一家言:@zaki_yukia|掃き溜め:@yoruniaisaretai

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掌編小説『いずれ夏らしくなる夏に』

 知人の友人、名も知らない彼または彼女は、〝会いたい人に会えないのが寂しいのではない。会いたい人に会えなくてもやっていけてしまうことが寂しい〟と話した。それに誰一人上手い相槌を打てなかったと知人は話した。  その話に私は一言、私たちは強いな、とだけ言って、すぐにまた違う話を始めたのだった。  緊急事態宣言が明けたのは知人と数年ぶりの通話を終えて一ヶ月と二十四日後。今夏、我々は分断された。  知人はいつからか、数年前かそれ以上前からか、たしか東京のマンションの一室を借りて本を

    • 『誕生日(仮題)』

      何かが変わる瞬間というのがある。 何も変わっていないのだけど、己の中で何かが変わる瞬間というのが人生にはある。 それは夜の海岸だったり、毎年藐視していた何でもない誕生日だったりする。 「アホがアホです言うとるわ」 消魂しいバイク音に嫌ごとを吐いて、私は今日歳を取った。 節目でもない、言うに足らない歳である。 尤もらしいハイライトで云えば、午餉に食べたプティアグールが美味しかった。 天使の羽のよう、とありがちな譬喩をした。 それなりに恥の多い生涯だったと粋がり乍ら、今日の私

      • 掌編小説『夜の海岸にて』

         夜を塗りつけたような車窓を見つめながら私は今日を思い返していた。在来線、私は乗降の瞬間にいつも一歩を逡巡する。特急列車は未だに乗れない。私は揺られながら、このままどこか遠くまで運んでくれればいいのに、と思わずにいることはなかったように思う。あんなことがあった今日も、結局はいつか忘れるのだろうと思う。  六月某日、季節がわからない日であった。春ではなく、夏でもない。梅雨入りのニュースもまだ聞かない、そんな涼しく不可解な夜の日。  私は列車を乗り継いで旧友と会った。何てことの

        • 【予告】掌編小説『正しさに毒されている』

          ご挨拶 私の純文学小説は、読み切りでありながらひと続きの長編小説でもあります。 一章から順にご覧いただくことで、彼等彼女等の世界へより没入していただけます。 作品一覧 第一章『いずれ夏らしくなる夏に』 第二章『消息』 第三章『正しさに毒されている』(鋭意執筆中) 第四章以降『   』(題未定)

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        掌編小説『いずれ夏らしくなる夏に』

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          詩『輪廻』

           其処は  以前眎た風景と迚も克く似て居りました  花の立つ大地も  雲浮かぶ空も  虫も雨も海も四季も  殆ど  以前と変わり無く眎られました  けれども私には  此処が未だ  懐かしすぎたようで――  極楽でも無ければ  地獄でも無い  只  以前らしく在るのみ  で御座いました  二十の時に謂われました  凛として生きなさい  以前にも謂われた様子が致します  其の時の声は何処かに記憶して居ります  力強く押し上げられた記憶で御座います  手を引かれる様な  然う云っ

          掌編小説『消息』(続・いずれ夏らしくなる夏に)

           拝啓、人類各位。お元気ですか。  いつからか寒さはめっきり冬らしくなり、もう来年があと数時間に迫りました。私は気付く間もなく疾うに秋を超えていたようで、ほんの少しそれに安心しています。  晩夏、昼間の暑さも減ってきた頃。私は、秋が来た、と仮定して、友人たちはまた会ってくれるか、会いたいとまた言ってくれるか、そんな思案をしたものです。 「夏は暑さに迷わなかったけれど、秋は袖丈がわからないのだよ」  そんなことを言った旧友がいました。  偶然会った長い袖元を見て自分だけが

          掌編小説『消息』(続・いずれ夏らしくなる夏に)